物事を学ぶのに、ただ本を読むだけでは不十分です。学んだことを人に教えられるほどに理解するには、自ら体験し、実践することが必要です。自ら実践するとどんな効果を見込めるのか。実践は仕事にどう影響するのか。論語の「五徳」の1つである「智」から、実践、体験することの大切さを考えます。【週刊SUZUKI #59】
人として正しい振る舞いや望ましい考え方を表す「五徳」。その1つが、知恵を意味する「智」です。
仕事に取り組むとき、「智」の教えと向き合うことが大切です。「叡智(えいち)」や「明智」などの言葉に使われる「智」には、物事を考える力や理解する力といった意味が込められています。仕事では業務の本質や目的を読み解く力として、「智」の教えが何より求められます。「何のための仕事か」「この仕事が自社にどう影響するのか」「社会にどう貢献するのか」といったことを考えなければ、単なる「言われた通りにやる作業」に陥りかねません。常に物事の本質を探り、仕事の意味を理解しようと努めることが大切です。
そもそも「智」が表す「知恵」、物事を考えたり理解したりする力は、どのように育めばよいのでしょうか。多くの本を読んで知見や経験を深めるだけでは不十分です。大切なのは、学んだことを自ら実践し、他人に教えられるようになるまで深く理解することです。ただ学んだだけでは知恵にはなりません。考えたり理解したりする力も得られません。本を読んで分かった気になっている時点では、知恵ではなく知識に過ぎないのです。知恵と知識にはそれだけ大きな隔たりがあるのです。
特に最近、答えを知りたければすぐにネットを頼る若者で溢れています。しかし、ネットで知り得たことはただの知識です。知識を知恵にするには、自ら実践しなければなりません。その行動力が知識を自身に根付かせ、知恵へと昇華させるのです。「言われた通りにやる作業」を「自主的に考え行動する仕事」に変えてくれるのです。
自ら体験することも大切です。知り得た知識は本当に正しいのか、その考え方で合っているのかを証明するには、自分自身が行動し、確かめることが必要です。こうして学んだとき、初めて人に教えられるようになるのです。例えば、外国について書籍で調べるだけでは不十分で、実際に現地に足を運ばなければ真の理解を得られません。野球のバッティング理論を本で学ぶだけでは不十分で、実際にバットを振って確かめなければ理論を自分のものにできません。行動して体験して自分の血肉となったとき、「智」の教えがようやく身に付くのです。そのとき初めて知恵を仕事で活かせるようになるのです。
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任