実践者インタビュー

    2022.01.20

    【レガシーシステム近代化へのアプローチ 第2回】ブラックボックス化したIBM i(旧AS/400)アプリにメス ツールによる全容把握でノウハウを平準化(連載全3回)

    “DX”という潮流に乗るため、レガシーシステムの刷新を検討する経営者は少なくありません。しかし、今一度踏みとどまってほしい。本当にレガシーシステムはDX時代にふさわしくないのか。10年先を見据えたシステム像を描くとき、大事なのはレガシーの切り捨てではなくシステムの本質を正しく見極められるかどうか。では本質を探るときのポイントと現実解はどうあるべきか。ジーアールソリューションズ 阿野幸裕氏に話を聞きました。

    古いアプリを継続運用することの弊害

    -「IBM i(AS/400)」上で稼働するアプリケーションを長く使い続ける企業は少なくない。長く使い続けることでどんな問題が起こりうるのか?

    阿野:IBM iユーザーは今なお多く、20年、場合によっては30年以上前に開発したアプリケーションを使い続ける企業は珍しくありません。しかし“古いアプリケーション”ゆえに、最新テクノロジを活用しにくい、最新の機能を備えていないなどの課題が顕在化しつつあります。

     一方で、アプリケーションを理解する人が減っていることも大きな問題です。アプリケーションの導入や運用に関わったエンジニアが、定年を迎えるなどして現場から離れつつあるのです。アプリケーションに問題が発生した場合、誰がどう対処すればいいのか分からない。そんな問題に直面する企業が増えています。IBM iのアプリケーションに精通するエンジニアを定年後に再雇用するケースも見られますが、それでは問題を先送りにしたに過ぎません。問題が発生したときに対応できる体制を社内に構築することが大切です。若手エンジニアへのスキルやノウハウの承継にも取り組む必要があるでしょう。

    -若手エンジニアへのIBM iアプリケーションのスキルやノウハウの承継は十分進んでいない?

    阿野:スキルやノウハウの承継に取り組む企業はいます。しかし、承継しさえすれば大丈夫、という話ではありません。アプリケーションの開発を大勢の社内エンジニアで開発したり、外部のソフトハウスやSIerに開発を委託したりする場合、承継されるスキルやノウハウが断片的になりやすい。そのため、アプリケーションの全容を把握できずにいる企業が多いのです。エンジニアの多くが自分の関わった領域しか分からないため、それ以外のアプリケーション領域についてはブラックボックス化しやすいのです。複数の外部委託先を使うことによるブラックボックス化も少なくありません。

    -アプリケーションを可視化する“ドキュメント”を整備し、承継に用いるべき。

    阿野:外部のソフトハウスやSIerにアプリケーション開発を委託する場合、原則として納品物に仕様書や設計書といったドキュメントが含まれます。しかし、そのドキュメントはほとんど更新されず当時のまま、というケースが目立ちます。つまり、アプリケーション納品後の機能追加やカスタマイズに関する内容をドキュメントに反映していないのです。そのため実際のアプリケーションとドキュメントの内容は乖離し、ドキュメントを若手エンジニアに渡せば承継完了、とは必ずしもならないのです。

    -アプリケーションを理解するのに欠かせないドキュメント。なぜ更新しないのか。

    阿野:納期に追われがちなアプリケーション改修を優先するからです。ドキュメントは改修後に更新すればいいと考えるケースが多い。ただし、多数のアプリケーションを頻繁に改修する場合、ドキュメントの更新が追いつかなくなってしまいます。特に、改修したプログラムが周囲のどのプログラムに影響するかといった影響分析の内容を、ドキュメントに漏れなく反映するのは手間と時間がかかる。こうした負担が、ドキュメントを更新しない大きな要因となっています。
    図1:IBM iユーザーが抱える主な課題

    図1:IBM iユーザーが抱える主な課題

    -いっそのこと、古いアプリケーションをERPなどに入れ替えるのも手だが。

    阿野:アプリケーションの対象領域によっては、ERPやSaaSに入れ替えることでブラックボックス化を解消できるケースもあります。例えば会計はこれらへ移行しやすい領域といえます。企業ごとに会計業務の進め方や作業内容の差異が少なく、最新ERPに合わせた業務の見直しなどが軽微で済むからです。

     一方、生産管理や購買・調達向けのアプリケーションは、自社独自の機能を盛り込むことが珍しくありません。ERPに移行するならフィット&ギャップ分析を実施し、最新アプリケーションの機能と業務プロセスの差異を洗い出さなければなりません。しかし、ERPと業務プロセスがどのくらい乖離しているのかが、企業は分からない。ドキュメントがなく、アプリケーションを十分理解せずに運用しているため、ギャップ(乖離)を洗い出せないのです。もし、生産管理や販売管理向けアプリケーションをERPに移行するなら、アプリケーションプログラムのロジックやビジネスルール等を読み取り、独自仕様の機能を把握するしかありません。しかし、膨大な独自仕様の機能をロジックとビジネスルールからすべて読み取る作業は現実的ではないでしょう。

    -時間とコストがかかるかもしれないが、企業はIBM i上の“古いアプリケーション”を1つずつ可視化、もしくは最新アプリケーションに移行するプロジェクトを今から進めるべき。

    阿野:実は、その必要性を感じない企業が多いのです。なぜなら、IBM iはアプリケーションの高い継承性を強みにしています。AS400の前身である「System/36」や「System/38」で稼働していたアプリケーションさえ、手を加えることなく動いてしまう。IBM iユーザーにとっては、古くても問題なく稼働しているアプリケーションをなぜ買い替えなければ、と考えてしまうわけです。トラブルなく安定稼働するアプリケーションにメスを入れようとは思わないのです。

     とはいえ、今後のデジタル化社会を見据えたとき、手を加えられないアプリケーションを運用し続けるのは大きなリスクです。事業領域や規模に応じて複数のクラウドを選択利用するのが当たり前になった今、クラウドと容易に連携できないアプリケーションは業務の足かせになりかねない。今からでもアプリケーションのブラックボックスを解消し、次代に合う柔軟なシステムを構築できる体制を模索しなければいけないと思います。
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