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【特別対談:竹下洋平×鈴木康弘】高校生が創業したクリエイティブカンパニー、Z世代の琴線に触れるクリエイティブ制作に強み打ち出す

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クリエイティブ制作会社の社長は高校生。マンガのような世界を地でいくのが、Fiom合同会社のCEOでクリエイティブディレクターである竹下洋平氏です。なぜ高校生で起業しようと思ったのか。なぜクリエイティブ制作会社なのか。経営者としてどんな強みを武器にするのか。創業までの経緯と経営者として目指すビジョンについて、竹下氏に話を聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

生きた爪痕を残したいという思いで起業

鈴木:高校生ながら会社の経営者としての顔を持つ竹下さん。Fiomを創業されるまでの経緯を教えてください。

竹下:小さいころから「創業しよう」と意欲的だったわけではありません。実は中学時代、クラスにあまり馴染めないほどでした。必ずしも積極的ではなく、協調性もない。今振り返るとそんな中学生でした。馴染める友達もあまり多くなかったため、1人で本ばかり読んでいましたね。特に好んで読んでいたのがビジネス書。社会はどう動いているのか、経済はどんな仕組みなのかなどに興味を持つようになりました。たくさんの本を読み込む中で、「創業」をぼんやり意識するようになりました。

一方、中学校には馴染めなかった私が、参加していたボーイスカウト活動にのめり込みました。活動期間は5年ほどですが、ここでの経験が自信につながりましたね。チームのリーダーを任されるようになり、小さな成功体験を数多く積み重ねることができたのです。

鈴木:ボーイスカウトで積んだ経験が、引っ込みがちだった自分に自信を与えたわけですね。

竹下:ちょうどその頃、自分は今後どうしたいのか、どんな人生を送りたいのかを漠然と考えるようになりました。サラリーマンとして一生働く未来も想像するようになりました。しかし、それがとても耐え難かった。サラリーマンとして平凡な人生を送りたくないと考えたのです。

写真1:Fiom合同会社 CEO クリエイティブディレ...

写真1:Fiom合同会社 CEO クリエイティブディレクター 竹下洋平氏

鈴木:サラリーマンとして働くことがイメージできなかった?

竹下:将来を考えたとき、世の中に自分の生きた爪痕を残したい。生きたというインパクトを残したい。こんな考えが強くなりました。格好よく聞こえるだけかもしれませんが、当時の私は本気でこう考え、そのための手段として創業を目指すことにしたのです。

鈴木:とはいえ、起業は容易ではありません。

竹下:その通りで、現在のFiomを創業するまでに2度の挫折を味わいました。最初に創業しようと考えたのは、実店舗をショールームにしてEC経由で商品を購入できるようにする「ショールーミングストア」の運営です。しかし開業には3000万円が必要で、投資家から資金調達を試みたものの失敗に終わりました。投資家を納得させるだけの事業計画を立案できなかったのが主な理由です。要は、私の考えが甘かったのです。見事に玉砕しましたね。

次に思いついたのがアプリ開発です。色彩効果を利用したメンタルヘルス向けのアプリを1年半かけて開発しました。しかしこの目論見も失敗します。iOS用アプリを開発したものの、App Storeに公開するための審査に通りませんでした。バグが多いなど、さまざまな点で問題があったのです。

鈴木:いきなり成功とはいかなかったわけですね。しかし、失敗は自身の糧になるのも事実です。

竹下:アプリ開発の経験は糧になりましたね。その後は開発経験を活かし、インターンとして企業で勉強させてもらいました。このときアプリのUIやUXを学び、デザインの奥深さに興味を持つようになったのです。心から面白いと感じることができたんです。紆余曲折したものの、デザインの仕事が自分にピッタリ合うと気付きました。

鈴木:その思いが、今のFiom創業のきっかけとなるわけですね。

竹下:はい。当初はフリーのデザイナーとして仕事を受けていました。一方で私と同世代のクリエイターの才能を世に広めたい。同世代のクリエイターを発掘し、仕事の機会を提供したい。こんな思いも膨らみ、デザインを中核事業とするFiomを創業するに至りました。2021年、私が高校2年生のときのことです。

鈴木:高校2年生で起業って考えられないですね。私はソフトバンク在職中、34歳で起業しました。当時は「若い」と言われましたが、後に大学生の起業ブームによって多くの学生が起業したのを覚えています。それが今は高校生。時代と言えばそれまでですが、ただただ驚きです。

写真2:DXマガジン 総編集長 鈴木康弘

写真2:DXマガジン 総編集長 鈴木康弘

竹下:以前なら資本金は1000万円以上、取締役会の設置が義務付けられるなどの高いハードルがありました。資金調達先だって銀行しか考えられませんでしたよね。こうした障壁がなくなったのも創業できた大きな要因です。これまで起業されてきた先人の方々が日本の社会や経済を発展させてくれたおかげ。こう考えます。

鈴木:現在は高校に通いながら、経営者としてFiomの事業を先導している。

竹下:角川ドワンゴ学園 N高等学校という通信制の高校でオンラインの授業を受けています。その合間を使い、経営者としてFiomの事業拡大に向けた施策検討などに取り組む毎日ですね。

Z世代のクリエイターにしかZ世代向けのクリエイティブは作れない

鈴木:竹下さんが創業したFiom。事業内容を改めて教えてください。

竹下:主な事業は、クリエイティブの受託制作です。Webサイトやパンフレットなどのデザイン制作に加え、映像制作や3DCG制作などを手掛けます。さらに広告事業として、新卒向けの広告や学校法人の広告などの制作にも関わっています。

共創事業と呼ぶ新たな取り組みにも注力します。若い世代にアプローチしたい企業と手を組み、イベントやプロモーションなどの企画制作を支援します。まだ事業として確立していませんが、当社の強みを最大限活かせる事業に成長する。そんな期待を込めています。

鈴木:Fiomの強みを竹下さんはどう捉えていますか。

竹下:Z世代のクリエイターによる、Z世代のためのクリエイティブ制作が当社の強みです。当社には私と同世代のクリエイターが約60人登録しています。いわゆるZ世代のクリエイターです。若い人のニーズや消費行動を当然把握し、こうしたターゲットに訴求できるクリエイティブを制作できると考えます。つまり、Z世代向けの制作物は、彼らと同世代のクリエイターにしか作れない。私はこう考えます。

鈴木:Z世代の感性を持ったクリエイター集団を抱えるFiomだからこそ、共創事業を成長させられると考えるわけですね。

竹下:共創事業は、まさに当社の強みを理解する企業とのコラボレーション事業です。Z世代のニーズやインサイトを把握するクリエイターの創造性を活かし、Z世代にアプローチしたい企業と一緒に事業創出を目指すのが共創事業の目的です。さらに、Z世代向けのクリエイティブを企業と共同研究する共創型の研究開発事業も展開しています。

鈴木:Z世代向けに軸足を置いた事業。御社ならではの特徴ですね。クリエイティブや広告業界をこう変えたいなどの願望はありますか。

竹下:例えば東京の渋谷といえば若者の街ですよね。10代や20代の人が多く集まります。にもかかわらず、渋谷で見られる広告の多くが、豊富な実績と高い技術を備えたクリエイターが手掛けたものばかりです。クリエイターの多くが30代以降の世代ではないでしょうか。10代や20代向けの広告を違う世代のクリエイターが手掛けるっておかしい。私はそう思います。願わくば、渋谷で見かける若い人向けの広告は、すべて同世代のクリエイターが作るべき。Fiomとしてこんな未来を描ければうれしいですね。

若いクリエイターのチャンスを創出し続ける

鈴木:Fiomを今後、どんな企業へと成長させたいですか。今後の目標や事業展開などあれば教えてください。

竹下:売上もまだまだで、企業として道半ばです。まずは広告事業に注力し、売上を伸ばしたいですね。現在はクリエイティブの制作のみを受託するケースが大半ですが、企画も含めて受注できるようにしたいです。企画から制作までを一気通貫で受注できる体制へと強化し、クライアントからより頼られる存在になりたいですね。

鈴木:Z世代向けのクリエイティブに強みを打ち出す御社。5年後10年後はどんな世代をターゲットにした事業戦略を見据えますか。

竹下:若い世代、特に15歳から24歳くらいの世代を軸にした事業を展開したいですね。現在はZ世代が対象ですが、Z世代が30代になればターゲットは次世代にシフトします。当然、Z世代で構成するクリエイターも次世代のクリエイターに入れ替わることになります。若者と同世代の人が手掛けるクリエイティブを全面に打ち出し、同業の制作会社や広告会社と差異化を図れればと考えます。若い世代に精通するナレッジの深さは同業他社には決して負けません。それだけの自負があります。この強みを今後も事業の柱に据えるつもりです。

鈴木:若い世代向けの事業に徹底する姿勢。こうした思いが事業に一本の筋を通し、他社の追随を許さない盤石の事業へと成長させると考えます。

竹下:当社では「Z世代クリエイターの創造性を最大化させる」といったミッションを掲げます。世代は新たな世代へ移り変わりますが、若いクリエイターのチャンスを創出し、若いという理由だけで才能の芽が摘まれないようにする。ミッション達成に突き進むことで、若いクリエイターはもちろん、若い世代に向けて訴求したいと考える企業の成長を後押しできると考えます。

鈴木:クリエイティブの品質向上など、制作体制の改善に向けた取り組みなどがあれば教えてください。

竹下:当社が手掛ける制作物はこれまで、各クリエイターの感性に依存しがちでした。しかし現在、Z世代の生の声を元にした定性・定量的なインサイトデータに基づく制作体制へと舵を切りつつあります。ロジカルかつZ世代クリエイターの感性を取り入れた制作体制を構築することで、感覚と論理の両軸で訴求力のあるクリエイティブを実現できるようにします。当社の制作物がなぜZ世代に響くのか。この答えをデータに基づいて顧客に提案できるようにもしています。これにより提案の成約率を高められるし、提案内容の精度も高められると考えます。

鈴木:今後は事業をどうスケールさせるかが課題でしょうね。このとき、データに頼るばかりだと、制作物の魅力が損なわれるかもしれません。画一的な提案しかしないマーケティング支援会社になりかねません。バランスを意識し、これまでの御社の良さを損なわないでほしいですね。

竹下:ご指摘いただき、ありがとうございます。大変勉強になります。確かに当社ならではの良さが失われかねませんね。感覚と論理の両輪を強みに事業を成長させつつ、当社の強みを持ち続ける。こんな方向を模索していきたいです。

鈴木:人とのつながりもぜひ大切にしてほしいですね。御社には大勢のクリエイターが登録するものの、今後は世代交代によって卒業するクリエイターが増えると推察します。もしかすると、卒業したクリエイターが大手の制作会社に入社することも考えられます。こうした人との縁を大事にすれば、新たな事業のヒントを探れるかもしれません。卒業したクリエイターと事業を展開することさえ見込めます。若い世代に目を向ける一方、30代や40代のクリエイターとの関係深化も目指してほしいと願います。

現在登録するクリエイターに、Fiomを盛り上げる役を担ってもらうのも手ですね。アンバサダーとしてクリエイターだけに留まらないポジションを与えることで、事業成長を後押ししてくれるに違いありません。卒業後も関係が続き、いろいろなアドバイスを受けられるようになるかもしれません。大勢のクリエイターと事業拡大の道を模索してほしいですね。

竹下:クリエイターに新たな役を与える発想。私にはまったくありませんでした。大変参考になります。クリエイターの輪をつくり、さまざまな視点で当社の事業を俯瞰してもらうことって大切ですよね。当社の事業を拡大させるヒントを得られた気がします。ありがとうございます。

鈴木:実は私も若いころ、何かしらの爪痕を残したいと考えていました。それだけに竹下さんの取り組みに懐かしさを感じるし、応援したくなります。今後の竹下さんのご活躍、楽しみにしております。本日はいろいろと話を聞けて、楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました。

竹下:こちらこそ鈴木さんの体験談を聞けたり、アドバイスをいただいたりと大変勉強になりました。まだまだ未熟ではありますが、目の前の仕事を1つずつこなし、鈴木さんの背中を追い続けたいと思います。本日はありがとうございました。

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