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今回は、嘉穂無線ホールディングスやグッデイで代表取締役社長を務める柳瀬隆志氏が登場。家業を継ぐことになった経緯や、グッデイでデータ活用を根付かせた要因に迫ります。さらに小売業は今後、どうあるべきか。ITやデータを軸にした店舗運営を進める柳瀬社長に、DXマガジン総編集長の鈴木康弘が切り込みます。【夢を実現していく変革者たち。~SUZUKI’s経営者インタビュー~ #7】

20代で仕事を任せてもらえる企業にチャレンジ

鈴木:柳瀬社長が嘉穂無線ホールディングス、ならびにグループ会社のグッデイに参画するまでの経緯を教えてください。

柳瀬:大学時代はボート部に所属し、埼玉県戸田市にある合宿所を活動拠点にしていました。朝5時に起床し、夜9時半には就寝するといった生活で、学校にはあまり通っていませんでしたね。「ボートで日本一」。この目標に向かってひたすら頑張る日々でした。

卒業後の進路には商社を考えていました。20代のうちから任せてもらえる仕事をしたい、というのが理由です。私の場合、父親が代表を務める嘉穂無線ホールディングスやグッデイなどの家業をいずれ継ぐかもしれない。40代や50代になって仕事を任せられるような会社で経験を積むのは遅い。そう思っていました。そこで若手であっても仕事に主体的に取り組める会社として、三井物産を受けました。運よく採用され、入社することになったんです。

鈴木:三井物産ではどんな業務を担っていたのでしょうか。

食品本部という部署に配属され、冷凍野菜や缶詰の輸入に関わる業務を担当しました。キャビアやピザチェーン店向けのピザ生地の輸入に関わっていました。その後、セブン・イレブンに食品を納入する事業者向けに、冷凍エビやおでんの具材などを輸入する業務も担当しました。

一方でトラブルに対処する機会も少なくありませんでした。当時、原材料などの食品表示を偽装する問題が社会問題化したのです。冷凍食品業界では、違法添加物や残留農薬問題も発生しました。輸入品にどんな食品や添加物は使われているのかを細かくチェックするなど、安全対策に追われる日々でしたね。

そんな中、大手ハンバーガーチェーンから仕事の相談を受けたんです。当然、取り扱う食品の安全性に問題がないかも求められました。そこで私はこれまでの実務経験を活かし、輸入品の安全性を確認した上で輸入業務ができることをアピールし、その結果、受注するに至ったのです。 まさに「20代のうちから任せてもらえる仕事」で、私にとっては貴重な経験でしたね。

鈴木:食品の輸入業務で学んだこと、感じたことはありますか。

柳瀬:一番勉強になったのは、セブン・イレブンに関わった仕事です。セブン&アイ・ホールディングスにいらした鈴木さんはご承知でしょうが、仮説と検証の考え方が徹底的に浸透していることに驚いたのです。この考え方が経営層はもとより、現場やフランチャイズのオーナー、外部の取引先を含めて浸透しているんです。全員が1つになり、仮説と検証というコンセプトを愚直に実行する組織体であることに感銘を受けました。この仕事こそ、私にとっての仕事の原点ですね。

鈴木:セブン&アイ・ホールディングスでは、経営者から現場までが同じデータ、数字を見ています。その指標に基づき行動しています。大企業ながら、こうした一体感が強みであると感じますね。

柳瀬:今、グッデイの代表として小売業に身を置いていますが、セブン&アイ・ホールディングスの仮説と検証の考え方を自社にどう根付かせるべきか。当初は悩ましいなと思っていましたね。

鈴木:三井物産を辞められ、家業を継ごうと決めたきっかけがあれば教えてください。

柳瀬:ハンバーガーチェーンの仕事を自分の力で受注できたのが大きいですね。ここでの経験は自信になりました。三井物産にこのままい続けたとしても、さらに大きな仕事に関われるとは限りません。そこでハンバーガーチェーンの仕事が起動に乗ったタイミングで上司に相談し、辞める1年前から後任に引き継いで退職しました。

データ活用を前提とした組織体に変貌

鈴木:嘉穂無線ホールディングスやグッデイに参画した直後、どんな業務に携わったのでしょうか。

柳瀬:家業を継ぐといっても、特別なポストが用意されていたわけではありません。まずは現場を経験すべく、ホームセンター「グッデイ」の店舗で商品や利用者を理解することから始めました。どんな商品を扱っているのか、どんな人が来店するのか、どんな店舗スタッフなのか、さらには店舗スタッフのオペレーションなどを実体験として1年間学びました。

鈴木:現場の状況を把握したのち、いよいよ改革に着手したわけですね。

柳瀬:グッデイに参画した当初、Webサイトはなく、従業員にはメールアドレスすら与えられていませんでした。そこでまず、情報発信が必要と判断し、Webサイトの立ち上げやテレビCMの制作に取り掛かりました。さらに物流センターを新設し、店舗に届ける商品を物流センターから一括で配送できるようにしました。これまでは各商品を扱う問屋が店舗ごとに配送していたため、効率性が損なわれていました。

鈴木:新たな取り組みを次々打ち出すことを嫌がる従業員もいたのではないでしょうか。

柳瀬:物流センターの新設を不安がる従業員は多かったですね。しかし、なぜ必要なのかをきちんと順序立てて説明することで納得してもらえたと思います。一方、従業員にとって仕事のやり方に直結する店舗オペレーションの改革は、何度も壁にぶつかりましたね。店舗ごとに商品を独自に仕入れたり、意思決定したりしているといった状況を変えなければならないものの、どうすればいいのか分からずに模索する毎日でした。

鈴木:さらにITの運用体制にもメスを入れましたね。

柳瀬:特に大変だったのがデータ活用です。小売として多くのデータを収集できる環境であるにも関わらず、当時は十分活用できずにいました。データを集計する場合、Excelのマクロ機能を使って必要なデータをデータベースからダウンロードし、生データを加工して分析していたのです。これでは非効率だし、何より手間がかかりました。

さらに、店舗勤務だった従業員を本部に配属しても、Excelの使い方を知らない人がほとんどだったのです。本部で商品の仕入れ担当になっても、配属後3カ月はExcelの使い方をひたすら学ぶだけという人もいました。前任者からデータを引き継ぐ場合、ハードディスクに保存するExcelファイルを半日かけてコピーするなど、本来の目的とは異なる業務に時間ばかり取られていました。

鈴木:基幹システムにも問題があった?

柳瀬:はい。稼働環境であるWindowsOSをアップデートすると基幹システムが停止してしまうんです。事前に設定するなどして対処しなければ動かせないという致命的な問題を抱えていました。システムを活用しようとすると、何をするにしても手間と時間ばかりかかる。決して大規模な環境でもないのにコストばかりかかる。そんな状況を解消しなければなりませんでした。

しかし、私が「クラウドを使ってデータ分析環境を構築しよう」と提案しても、周囲に乗り気は感じられませんでした。情報システム部門の担当者に相談してもあしらわれてしまうんです。私が入社してから7~8年は、基幹システムにまったく手を付けらない状況が続きましたね。

鈴木:そんな状況を脱却し、現在はITを積極的に活用する企業へと変貌している。何がきっかけでしょうか。

柳瀬:情報システム部門の部長を外部から招き入れたのがきっかけの1つですね。クラウドなどのテクノロジーに精通し、新たなITトレンドを積極的に取り入れたいと考える人だったんです。そんな部長のもと、AWS上にDWHを構築したのです。

これを機に私は自ら勉強し、どんなBIツールを使えばいいのかを試行錯誤するようになりました。その結果、最初に試したのがオープンソースの「Pentaho」です。データの統合や分析に長けてはいたものの、使うには分析用のデータベース(キューブ)を毎回用意しなければなりません。用意するには情報システム部門に依頼しなければならず、時間がかかってしまうのが難点でした。そんなとき、「Tableau」というBIツールがあるのを知ったんです。キューブは不要で、ドラッグ&ドロップなどの操作でグラフを簡単に作成できるのが利点でした。「これなら当社のデータ分析に役立つ」。そう判断し、導入することにしたのです。

鈴木:柳瀬社長だけがTableauを使えても意味がありませんよね。従業員にどう浸透させていったのでしょうか。

柳瀬:「Tableauという便利なツールがあるから使ってみよう」。もちろんこう言うだけでは現場に根付きません。大切なのは現場が日々の業務にデータを活用できるか、こうしたデータ活用を支援するツールであるかです。当社ではまず、経営企画部や若手の有志を集め、Tableauの勉強会を毎週実施することにしました。Tableauは本当に使えるのかを検証するのが目的です。当社がやりたいことをTableauで実現できるか、運用する上で問題となりそうな点を1つずつ確認していったのです。その結果、Tableauなら問題ないと判断。まずはTableauを段階的に導入することに決めました。

もちろん導入するといっても、Tableauに精通する従業員なんていません。そこで次に、従業員向けにTableauの研修を実施することにしました。データの収集方法を含め、Tableauの使い方を学んで従業員の成熟度を高めるようにしました。すると徐々に、従業員自身がやりたいことを自らできるようになっていったのです。こうした変化を感じ取り、全社導入すると決めました。全社導入するにあたり、多くの従業員が参照すべき指標を集めたダッシュボードを作成。Tableauが業務に必要なツールだと気付かせるようにしました。特にTableauの場合、操作性や画面の視認性に優れていたこともあり、大きなトラブルなく全社に浸透していきましたね。全社に導入するまで遠回りしたように思いますが、段階的に利用者を増やしていったアプローチが良い結果に作用したと考えます。

鈴木:企業の中には、データを活用する従業員や部署を一部に限定するケースが少なくありません。なぜ、データ活用の取り組みを全社に広げようとしたのでしょうか。

柳瀬:例えば、グッデイが取り扱う全商品を覚えようとするのは無理がありますよね。それに比べ、ITの方が覚えないといけないことは少ないし、何より汎用性があります。商品知識を習得する研修を実施するより、ITを習得する方が効果的。全社展開しようと考えたのには、こんな理由があります。

私自身、素人としてITを勉強し始め、徐々に習得してきました。この経験から、前提となる知識がなくても習得できると感じていたのも理由の1つです。しっかり教育すれば従業員に必ず根付く。そう考え、データ活用の全社展開に舵を切ったのです。

鈴木:とはいえ、従業員が率先してデータを活用する素地ってなかなか築けないのではないでしょうか。

柳瀬:TableauやAWSに関するイベントに積極的に参加し、従業員自身がもっと知見を広めるよう後押ししました。その結果、「世の中には先進的な取り組みを進める企業が多い。自社の取り組みなんてまだ不十分。もっと勉強しなくては…」。こう受け止める従業員が増え、貪欲に学ぼうとする風土が醸成されていったと考えます。さらに私自身も従業員に対し、学んだことを積極的にフィードバックしました。そこで「もっと刺激を受けて学ぶべき」、という考えも芽生え始めましたね。世の中の動きに追随しなければ乗り遅れる。従業員がこうした危機感を抱くようになったのが、データ活用を大きく後押ししたと感じます。

鈴木:現在、データを分析、活用できる従業員はどれくらいいるのでしょうか。

柳瀬:当社の社員は約550人います。そのうち約100人はTableauやSQLを使いこなし、自らデータを分析しています。今も従業員向けの勉強会を実施し、データを分析、活用できる人材を毎年10人程度輩出しています。各部署に最低1人はデータを活用できる人材を配置し、部署ごとにデータを使って課題の洗い出しと解決策を検討できるようにしています。

鈴木:柳瀬社長が三井物産在籍中に学んだ、セブン・イレブンの仮説と検証の考え方。グッデイではどう取り組んでいますか。

柳瀬:今も課題として手を付けられずにいます。しかしデータを使える環境になった今、仮説や検証を実施しやすくなっているのは明らかです。例えば、販売価格を下げたら売れた商品と、販売価格を下げても上げても売上が変わらなかった商品があるとします。このとき、どちらの商品を値下げし、プロモーションを展開すべきか。答えはもちろん前者です。こうした仮説は容易に立てられます。では値下げしたとき、もっとも売れそうな商品は何か。この答えを探るのが仕入れ担当(バイヤー)の役割です。数ある商品をどんな順序で並び替えればいいのか、どんなフィルターで商品を取り除けばいいのか。こんな発想で商品を分析すれば、新たな気づきや発想を得られるはずです。バイヤーにこうした取り組みをどう習慣づけられるか。ここに頭を悩ませています。しかし、習慣化しさえすれば、仮説→実施→検証といったサイクルが自然と回り出すと考えます。

鈴木:柳瀬社長が手を付けられずにいた基幹システムはどうでしょうか。

柳瀬:実は今年に入り、基幹システムが備えるすべての機能をWeb化しました。開発を内製化し、社内で細かな機能強化や改修を実施できるようにしています。これまでは現場から情報システム部門に基幹システムの機能強化を要望しても、相手にしてもらえませんでした。しかし現在、情報システム部門はどの要望を実施するのかしないのかを週次で判断し、提案者に回答しています。Web化したことで、基幹システムをスピーディに改修できるようになったのです。その結果、現場からさまざまな要望も上がるようになりました。基幹システムの使い勝手や機能を向上させる好循環が生まれていると評価します。

ツールを使うのが楽しいと思える従業員を育成

鈴木:柳瀬社長はグッデイが今後、どんな未来を描くと考えていますか。ビジョンや目標などあれば教えてください。

柳瀬:まだ道半ばではありますが、社内の雰囲気や従業員の姿勢はだいぶ変わったと感じます。確実に変革していると実感します。一方、商品の仕入れ先との仕事のやり方は今も変わらないままです。仕入れ先は出荷データしか追いかけませんし、当社は売上の結果を仕入れ先にきちんと伝えられずにいます。これでは仕入れ先は、何が売れているのかを把握できません。そこで現在、一部の仕入れ先に対し、Tableauの画面を共有するようにしました。仕入れ先の担当者は、Tableauを使って店舗別の売上や商品別の売上を確認できます。つまり、仕入れ先はどんな商品の販促に注力すべきか、どんな施策を展開すべきかを検討できるようになるわけです。“製販調整”ではありませんが、商品を仕入れる側と商品を販売する側がデータに基づき施策を検討する。こんな関係をさらに広げられればと考えます。

鈴木:データ活用が進み、御社の従業員は成長しつつあります。今後は従業員に対し、どんな期待を寄せますか。もしくはどう成長してほしいと考えますか。

柳瀬:先日、あるイベントで私と社員2人の3人で講演したんです。そのとき、2人の社員が活き活きと自社の取り組みを聴衆に話しているのを聞き、とても頼もしく、うれしくもなりましたね。ツールを駆使する仕事を誇らしく話している姿を見て、ツールを使い倒すことの大切さを感じました。ツールを使うことが楽しい、面白いと感じられる従業員がもっと増えてほしいなと願っています。

鈴木:柳瀬社長ご自身が楽しそうにTableauを使っている姿を見れば、従業員もきっと楽しいと感じ取ってくれるはず。社内の風土って一途な姿が周囲の共感を生み、派生することで育まれるのだと思います。

柳瀬:私自身がツールをもっと楽しみ、便利な機能や使い方を従業員に紹介できればと考えます。その結果、現場がツールを便利だと気付いてくれればうれしいですね。課題をツールで解消し、さらに次の課題解消に取り組む。こうした積極的な仕事のやり方が現場に根付くことを期待します。

鈴木:これからを担う若い世代に対し、メッセージをいただけますか。

柳瀬:自分の得意なこと、好きなことをきちんと認識してほしいと思います。意外と自覚するのは難しいはずです。私の場合、データを分析するのが好きだと40歳を過ぎて気づきましたからね。漠然と思うのではなく、「得意はこれだ」「好きなのはこれだ」と明確に絞り込むことが大切です。さらに青臭い言い方かもしれませんが、得意や好きをぜひ仕事にしてください。結果的に自身を成長させてくれるだろうし、ハッピーにもなります。時間がかかっても構いません。得意や好きを見つけ、その分野をさらに伸ばしていってほしいなと思います。

鈴木:得意や好きを探すのって生涯の取り組みかもしれませんね。まずはいろいろ経験すること。そこを足掛かりに可能性も広がっていくのではと思います。本日は貴重なご意見、大変参考になりました。どうもありがとうございました。

柳瀬:こちらこそ鈴木さんといろいろと話すことができ、勉強になりました。本日はありがとうございました。


嘉穂無線ホールディングス株式会社
株式会社グッデイ

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