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インタビュー

貿易手続きの完全電子化を目指すプロジェクト、国内外のパートナーやメンバーとの信頼関係が成功に大きく寄与

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優秀なプロジェクトとは何に秀で、社会にどんな価値をもたらすのか。そんな疑問に答えるのが、プロジェクトマネジメントの啓発・普及を行う世界的団体PMI(Project Management Institute)です。PMIの活動を日本で支える一般社団法人PMI日本支部は2022年11月、日本の優れたプロジェクトを表彰する「PM Award2022」を発表。ファイナリストとなる6つのプロジェクトを選出し、各プロジェクトの功績や価値を世に発信しました。本稿では、特別賞のPMI Asia Pacific賞を受賞した株式会社トレードワルツ(以下、トレードワルツ)の「海外貿易プラットフォームとの連携による貿易手続き円滑化プロジェクト」にフォーカス。トレードワルツ 取締役CEO室長 兼 グローバル&アライアンス事業本部長の染谷悟氏に、プロジェクトの目的や成功へ導く極意を伺いました。

 PM Awardは一般社団法人PMI日本支部が主催する表彰制度。社会に新たな価値をもたらし、未来創造につながる優れたプロジェクトを表彰します。PM Awardの意義についてPMI アジア太平洋地域 リージョナルマネージャーのソヒュン・カン氏は、「夢やビジョンを達成する手段としてプロジェクトマネジメントの重要性は増している。しかし、多くの企業や団体がプロジェクトに取り組むものの、さまざまな要因を抱え失速させている。どうすればプロジェクトを成功へ導けるのか。PM Awardでは優秀なプロジェクトを発信することで、プロジェクト成功のヒントやアイデアを提供できればと考える。日本はもとより世界のプロジェクトの成功率向上に貢献したい」と強調します。
写真:PMI アジア太平洋地域 リージョナルマネージャ...

写真:PMI アジア太平洋地域 リージョナルマネージャーのソヒュン・カン氏(写真左)と、トレードワルツ 取締役CEO室長 兼 グローバル&アライアンス事業本部長の染谷悟氏(写真右)

 2回目の開催となる今年は、ファイザーや東京証券取引所、清水建設などによる6つのプロジェクトをファイナリストに選出。約1000人による一般投票の結果、ファイザーとファイザーR&Dの共同プロジェクト「COVID-19に対する新規経口抗ウイルス薬『パキロビッドパック』の研究開発プロジェクト」が最優秀プロジェクト賞を受賞しました。  一方、ファイザー/ファイザーR&Dのプロジェクトと並んで高い注目を集めたのが、PMI Asia Pacific賞を受賞したトレードワルツのプロジェクトです。同社のプロジェクトは、煩雑な貿易手続きをプラットフォーム構築によって効率化しようというもの。アナログ主体の貿易手続きをプラットフォーム上で完全電子化することに取り組みます。  プロジェクトに取り組む背景について染谷氏は、「国際貿易には商社や物流会社、銀行、保険会社などの多くのステークホルダーが関わっている。しかし、各社がやり取りする情報は、業界をまたいだ連携ができていないケースが多い。手続きに必要な書類には紙とPDFが混在し、メールやFAX、専用Webサービスといったツールもバラバラな状況だ。さらに近年の貿易業界では、貿易手続きに精通する人材不足が深刻となっている。これらの課題を解消するには、手続きに関わる情報を業界横断で一元管理できるプラットフォームの構築が不可欠で、2017年から本検討を始めた。それからTradeWaltzを開発し、今年ようやく海外連携の実証まで行うことができた」と説明します。  世界銀行の調査によると、1回の輸出入手続きにかかる時間は、デジタル化が進むEUなら2時間程度で済みます。一方で日本は72時間、中国やASEAN(東南アジア諸国連合)なら235時間もかかることが分かっています。「EUなら1日で済む貿易手続きも、日本なら1カ月、中国やASEANなら4カ月を要しかねない。日本や中国、ASEANではアナログによる非効率な手続き業務が大きな足かせとなっている。こうした無駄を解消することで手続きの時間短縮はもとより、書類保管や郵送などのコスト削減も見込める」(染谷氏)とプラットフォーム構築によるメリットを指摘します。  これらの課題解消のカギを握るのが、同社の貿易プラットフォーム「TradeWaltz®」です。船積依頼書や原産地証明書、為替手形、保険証書などといった手続きに関わる必要書類を構造化データとして保管します。ブロックチェーン技術を使い、プラットフォーム上の取引記録を改ざんできないようにする仕組みを備えるのも特徴です。物流や金融などの業種ごとに情報を閉じることなく、貿易手続きに関わるステークホルダーが一気通貫で共通利用することを想定します。「TradeWaltzを使ったPoC(概念実証)では、日本での貿易手続き時間を44%以上短縮した。ASEANでは60%も短縮した。情報の一元化により過去の取引情報を容易に参照できることから、貿易手続きのノウハウや知識を必ずしも持たない若手スタッフでも手続きを進められる」(染谷氏)と導入効果を強調します。なお、TradeWaltzは税関官署や通関業者、運輸業者などが利用する物流情報プラットフォーム「NACCS」とも連携し、輸入許可や通関に必要な申請、手続き情報も一気通貫で可視化できるようになる予定です。
図1:TradeWaltz導入前 従来は壮大な伝言ゲーム

図1:TradeWaltz導入前 従来は壮大な伝言ゲーム

図2:TradeWaltz導入後 業界横断で貿易業務を...

図2:TradeWaltz導入後 業界横断で貿易業務を一元的に管理

 プロジェクトは日本、タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国のプラットフォーム間連携を進めるものでした。各国の貿易プラットフォームとTradeWaltzをAPIで連携し、貿易手続きに関する情報を、国をまたいでEnd to Endで利用できるようにします。具体的には、日本で使われる項目と他国のどの項目を連携するのかなどのニーズを調べながら1つずつ精査し、貿易手続きに必要な情報を構造化します。なお、2国間でプラットフォームを連携するケースは少なくないものの、5カ国同時に連携する取り組みは「世界で初めて」(染谷氏)だと言います。  多くの機関や企業が関わるプロジェクトゆえ、「予定通り進まないこともあった」と染谷氏は振り返ります。当初からプロジェクトの成果は、2022年11月開催の「APEC(アジア太平洋経済協力)2022」で発表することが決まっていました。しかし、タイの貿易プラットフォーム「NDTP」側の開発が遅延。2022年6月になってようやく連携に必要な要件を検討し始めました。APEC2022での発表まで5カ月。染谷氏はこの状況について、「他企業はもちろん、他国を巻き込むプロジェクトでは、自社の予定や都合が必ずしも通用しない。そんな中でもプロジェクトを進めるには、相手と粘り強く交渉していくことが欠かせない。相手の立場を鑑み、どうすれば打開できるのかを模索し続けるのが大切だ」とプロジェクト成功のポイントを指摘します。本プロジェクトでは、トレードワルツがシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドと交渉した結果、プラットフォームの連携時期が2カ月遅れることについて了承を得られたといいます。「タイのプラットフォーム開発・連携に人員を集中投与した。タイ側での開発もサポートすべく、トレードワルツが一部サンプルコードを作成し、それを連携した。できることは何でもやるという姿勢を示し、サポート体制を構築したのが奏功した」(染谷氏)と言います。こうした取り組みによって遅延は解消し、最終的には予定通りのスケジュールでプロジェクトを進められたと言います。  パートナーやメンバーのことを信じることもプロジェクトの成功には不可欠だと染谷氏は続けます。例えばタイのプラットフォーム開発遅延に対し、タイ側の責任者とは綿密なコミュニケーションを図って関係を築きました。「当社からタイのエンジニアに『早く開発して』などとは言いにくい。そんな状況を鑑み、タイ側の責任者はエンジニアの手綱を締めてくれた。当社の心配が大きくなると、明るく前向きな態度で接してくれたこともある。プロジェクトを成功させる強い信念は、信頼できるパートナーによって支えられていた」(染谷氏)と振り返ります。一方、自社のエンジニアにも救われたといいます。「タイ側の遅延発覚時、当社のエンジニアが積極的にタイ側のサポートに動いてくれた。プログラムのサンプルコードを提供したり、仕様を手厚く説明したりするなどにより、タイ側の初期開発を加速させることができた。その後も実証実験に参加する企業などへの説明を積極的に行うなど、プロジェクト全体をカバーしてくれた。エンジニアをはじめとするプロジェクトメンバーを頼れる安心感こそ、プロジェクトを成功へと引き寄せるファクターだと感じた」(染谷氏)と言います。  染谷氏は今回のプロジェクトの振り返りとして、「今後TradeWaltzを普及させていくことで国内の貿易実務を担う1万3000社の業務を効率化できる。さらに、日本を含む5カ国の貿易手続きを変える可能性を秘めている。それだけのインパクト、価値があるプロジェクトだと自負する。他国の貿易プラットフォームと連携し、情報の一元化、作業の効率化を進める第一歩となる先進的な事例とも言える。タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドとの連携を機に、貿易プラットフォーム連携を他のアジア地域、さらには世界へ広げていきたい。今回のプロジェクトを世界に貢献する取り組みへと昇華させたい」(染谷氏)と、今後の構想を描きます。
PM Award
https://www.pmij-award.net/ PMI (Project Management Institute)
https://www.pmi.org/ PMI日本支部
https://www.pmi-japan.org/

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