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インタビュー

【特別対談:深田浩嗣×鈴木康弘】膨大な仮説検証に基づく改善策が強み、「おもてなし」の心で継続的に企業を支援

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Webサイトの改善やコンバージョンの最適化などを支援するSprocket。Webサイト改修に際し、人の行動をどう分析し、どんな改善策を提案するのか。そこには徹底した仮説検証に基づく行動分析と、継続的に企業を支援する「おもてなし」の文化があった。同社が描く企業支援の形と、ツールを提供する狙いについて、Sprocket CEOの深田浩嗣氏に話を聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

3万回以上のA/Bテストに基づく検証に強み

鈴木:DXでは顧客であるユーザーとどう向き合うか。行動データなどを基にユーザーを正しく理解することが求められます。その意味でSprocketのサービスは、DXを推進したい企業に向くと思います。まずは読者に向け、御社の事業内容を教えていただけますか。
深田:当社はユーザーの行動を分析・把握し、コンバージョンを最適化するサービスを提供しています。Webサイト上ではユーザーがさまざまな動きをしていますよね。そこでは、「目的の画面にたどり着けずに迷っている」「商品購入ページまで進めず諦めた」などのユーザーの心理を探ることができる。そこで当社はこうした動きを徹底的に分析し、Webサイトをどう設計すればユーザーが目的の画面までスムーズにたどり着けるか、商品を購入できるかなどを考え、顧客のWebサイト改善を手伝っています。
鈴木:最近はWebサイトを活用したマーケティングへの関心が集まりつつあります。新たな顧客接点として、Webサイトをどう設計するか、どんなLP(ランディングページ)を制作するかなどに取り組む企業も多い。御社のサービスは、「マーケティングDX」を成功させたい企業のニーズを満たしていますね。なぜ、こうしたデジタルマーケティング領域に注力するようになったのでしょうか。きっかけはありますか?
深田:私は15年ほど、デジタルマーケティング領域を追い続けています。興味を持つようになったきっかけは、人の行動や心理がその後のアプローチにどう影響するのかに関心があったこと。消費者がどんな行動をすれば商品を買ってくれるのか。どんな気持ちだと商品を買わないのかなどを探るのに関心がありました。
特に最近感じるのは、企業と消費者の関係。デジタルマーケティングに取り組む企業の多くが、消費者に金銭的なインセンティブを付与することで消費行動を促す施策が目立つ。しかし、企業と消費者をつなぐコミュニケーションってお金に関わるものだけではないですよね。消費者の購買意欲を湧き立てる施策として、違う形でコミュニケーションを図れないか。そんな思いを基にコンバージョンを最適化するサービスを開発しています。
鈴木:デジタルマーケティングの支援とは、具体的にどんな内容なのでしょうか。
深田:企業が保有する顧客データを使ってA/Bテストを実施し、顧客の行動を分析しながらWebサイトの改善を図っています。特に、Webサイトを利用するユーザーがどこでつまずくのか、サイトを離脱するのかをしっかり把握し、その改善に努めることを重視しています。当たり前の取り組みですが、ユーザーの行動と徹底的に向き合うことに主眼を置いています。
鈴木:例えば、Webサイトを訪れたユーザーはどんなところでつまずくのでしょうか。
深田:例えば、Webサイトによくある「ハンバーガーメニュー」。3本線のアイコンをクリックすると、各メニューが表示されるなどの用途で使われますが、そもそもアイコンの意味を知らない人は多い。そこで当社では、ハンバーガーメニュー上にマウスポインタを合わせると、アイコンを説明する画面が表示する仕掛けを作っていますが、「こんな仕掛けに意味あるの?」と、企業の担当者から言われることもあります。しかし当社の調査では、ハンバーガメニューを知らない人に仕掛けを用意すると、Webサイトの商品購入率が約25%改善したという結果があります。些細な仕掛けでWebサイトが大きく改善するケースは少なくありません。
図1:ハンバーガーメニューの説明ポップアップのイメージ

図1:ハンバーガーメニューの説明ポップアップのイメージ

鈴木:Webサイトの何が悪いのか。そのための「仮説」を立て、改善に向けてアドバイスできるのが御社の強みですね。
深田:ツールを導入したが使いきれずに止めたという話をよく聞きます。当社もベンダーとして、こうした声に向き合わなければなりません。そのためには、ツールを導入した後の価値をしっかり提供すべきだと考えます。ツールを導入したことで売上が3倍に増えたなどといった具合に、顧客に明確なメリットがなければ意味がないですからね。
鈴木:とはいえ、価値をしっかり提供するのは難しい。御社ならではの工夫があるのでしょうか。
深田:そこで当社は、コンサルタントがツールを徹底的に使い込むようにしています。3万回以上のA/Bテストを実施して検証を積み重ねています。ツールをどう使えば効果を引き上げられるのかなどのパターンが徐々に見えてくるので、それを知見として蓄積します。これが仮説を立てるときのヒントになるし、仮説に基づく改善による価値提供につながっていると考えます。こうした提案をできることが当社の強みですね。
鈴木:3万回はすごい。一番の強みは「失敗」のノウハウを持っていることではないでしょうか。うまくいかない理由や要因を知り尽くしている。Sprocketのクライアントは、御社のそうした知見やアドバイスに期待しているのかもしれませんね。さらに、こうした知見は業界ごとや企業固有のシナリオを描くヒントにもなる。成功事例をただ横展開する競合他社との差異化につながる取り組みですね。デジタルマーケティングという領域において、実は地道なアナログ活動をしているようにも感じます。
深田:確かにアナログ的なアプローチだと思います。しかしWebサイトの改善は一様の取り組みでは効果を見込めません。そこには固有の課題が潜んでおり、Webサイトごとに細かいチューニングが求められます。こうした地道な取り組みをやり切れることが当社の強みですね。この積み重ねが企業に価値を提供する土台になっていると考えます。

「おもてなし」を体現し、継続的な支援に注力

鈴木:最近、デジタルマーケティングに取り組む企業は多い。しかし支援企業を見ると、専門用語を並べ、取り組みが理解しにくいケースも散見されます。経営者にとって大事なのは、デジタルマーケティングで使われる指標ではなく、ROIのような投資に対する収益性を図る指標などであるはず。売上向上などの価値をゴールに見据える御社の視点こそ、デジタルマーケティングに不可欠だと思いますね。
深田:いろいろな指標が使われているが、突き詰めるとその目的は「モノを売ること」。さらに、その体験を顧客がどう受け止めるかに尽きると思います。デジタルの取り組みではあるものの、アナログ的な取り組みを見失うことなく、企業の価値を追求したいと思います。
例えばECサイトでは、商品の特徴やこだわりなどを訴求しにくい。顧客がECサイトを訪れたとしても、魅力が伝わらなければ商品を購入することもありません。しかし、なぜ魅力が伝わらないのか、なぜサイトを離脱するのかといった課題にそもそも気付いていないケースが多く見られます。こうした状況を改善すれば、顧客が商品をもっと好きになってもらえるのではと思いますね。
鈴木:一時的な対策では効果は薄い。御社の取り組みは仮説と検証を繰り返し、継続的な取り組みである点が重要だと思いますね。
深田:少し話は逸れますが、私は人の行動に興味があると話しましたが、人の行動を変える手法の1つに「おもてなし」があると思うんです。継続的な取り組みも、もしかすると「おもてなし」につながるのではと思いますね。私は京都出身で、「おもてなし」が身近な環境で育っていました。そんな生い立ちもあり、老舗と呼ばれるお店や旅館では「おもてなし」をどう体現しているのかを、私なりにいろいろと勉強してみたんです。
「おもてなし」と聞くと、一般的には顧客の要望を上回る対応などをイメージしがちですが、実際は必ずしもそうではないんです。顧客の要望に応えることがファーストプライオリティではない。むしろ大事なのは、自分たちがどんな世界観を作りたいか。「おもてなし」を調べていくと、こんな発見があったんです。
鈴木:なるほど。一見、顧客に寄り添うことが大事と思われがちだが、「自分たちに合わせて」という考え方なのかもしれないですね。彼らが描く世界観や考え方こそ、「おもてなし」で体現しようとしているものなんでしょうね。
深田:筋が一本通っている人って魅力的で面白いですよね。こうした人も、自分なりの世界観を描き、1つのことを貫こうとしている。当社もこんな人の考え方に近づきたいと思っています。きちんとしたビジョンや目標を持ち、そこに向かって突き進む。こうした思いが企業に伝われば、企業も当社のツールを使い続け、継続的な取り組みへと昇華させられるのではと考えます。企業と親密な関係になり、一緒に課題解決に取り組む。これが当社の考える「おもてなし」の本質だと思いますね。
鈴木:ユニークな考えだが、とても共感します。経営者って実は一人でなかなか決められないもの。共通の目的に一緒に向かい、新しい世界観を作り上げる企業を探しているはず。そんなとき、一緒に取り組む企業の1社が、深田さんのような思いを持つ会社であってほしいと思いますね。

行動のモデル化や人材育成を視野に活躍の場を広げる

鈴木:Sprocketとして今後、どんな展開を模索していますか。
深田:企業を強化するサイクルをどう作り出すかを模索しています。カスタマーサクセスと呼ばれる領域向けのサービスやスキルセットを提供できればと考えています。例えば、こんなときに人はどう行動するのか。何がきっかけで行動するのかなどを突き詰め、そのノウハウを当社の強みにしたいと考えています。ノウハウをモデル化し、それをプロダクトに落とし込むことが、当社の次のステップですね。
鈴木:そうしたノウハウをSprocketが持つことはもちろんだが、御社のクライアントである企業が蓄積し、顧客やスタッフを育成できるようにすることも大切ではないでしょうか。
深田:まずは当社のスタッフを強化するためにノウハウを蓄積、活用し、その取り組みを企業向けに提供できればと考えます。社内スタッフをどんな手順で育成したのか、どんなスキルを身に付けさせたのかを設計できれば、同様の手法をクライアント企業のスタッフ育成支援に役立てられると思います。
鈴木:データ分析を学ぶ学生は増えているが、御社のように実データをもとに仮説を立てるという部分は一筋縄では学べない。御社の新人に対し、仮説の立て方をどう教えているのでしょうか。
深田:当社の場合、中途採用で新人を獲得しているが、デジタルマーケティングの経験よりも顧客視点で物事を考えられるかを優先して選考しています。どんな業種であっても顧客対応が良かったという経験が、当社の業務に馴染みやすいんです。
こうした経験を持つ人が企業にツールを提案すると、企業がツールをどう使うのか、データをどう活用するのかなどの勘所が分かってくるんです。これらを読み取ることができれば仮説も立てられると考えます。その仮説は見当違いのものではなく、かなりの確度で核心を突くものになっています。顧客とツール、データを結び合わせてイメージすることが仮説立案には必要ですね。こうした思考、視点を養えれば、「仮説志向」な考え方が自然と身に付くと思います。

DX推進後の社会を模索、データ連携を視野に企業を支援

深田:私から鈴木さんに質問してよろしいでしょうか。各社のDXの取り組みは、数年後には落ち着くと思うが、そのとき企業には何が求められるようになるでしょうか?
鈴木:現在、「デジタル」は特殊なことと思われがちだが、これからはデジタルが社会や仕事に溶け込み、業界や組織の壁を溶かすでしょう。これまでの業界って細分化し、壁を作ることで業界を維持してきた。しかし、その壁がなくなり、業界の垣根を超えた連携による新たな価値が生まれるようになります。さらにさまざまな業界が公共サービスと連携する。これがDXの最終形の1つかなと思います。「小売業界だから」「製造業界だから」といった考え方はなくなりますね。
深田:企業は各社が集めたさまざまなデータを使えるようになるのでしょうか?
鈴木:例えば小売業界はPOSデータを分析するのが一般的だが、今後は全く無関係と思われていた業界のデータを取得・分析できるようになるかもしれません。そのデータから読み取った消費行動に、新たな価値を生むヒントが隠れているでしょう。他業界に目を向け、そこで使われているデータを分析してこそ、データの価値って広がると思います。
ただ一方で、業界を築き上げてきた人の中には、こうした世界を好ましく思わない人もいる。データを共有したくないなどの反対意見もあるでしょう。私はコンサルティングとして企業を支援していますが、データの価値、企業にとっての価値も含め、その必要性を経営者に十分時間をかけて話すようにしていますね。その理解が深まれば、DXがなぜ必要なのかの理解も深まる。それがDXを成功に導く糧になると思っています。
深田:データ活用はプライバシーの問題がある。データ連携を消費者はどう思うのでしょうか?
鈴木:確かにデータを勝手に使われたくないと考える消費者は一定の割合でいるでしょう。一方で、生活が便利になるならデータを使ってという人もいる。今後は、「データを使って」と理解を示す消費者の割合が少しずつ増えてくると期待します。
深田:そんな世界の到来を私も望みます。これまでの当社の姿勢や強みを失わず、データ連携後の社会でも当社の役割を果たせればうれしいですね。
鈴木:御社はA/Bテストやツールを使い込むことで数多くの「失敗」を経験している。私も過去を振り返ると、誰よりも失敗してきたかなと思っていますが、その分、誰よりも「挑戦」してきたという自負があります。御社もきっと、失敗を積み重ねてきた分、前に向かって挑戦する姿勢は他社より強く持っているのかなと感じます。「失敗」と「挑戦」を繰り返してきたことを、ぜひ強みとして打ち出してほしいなと思います。本日はありがとうございました。
深田:ありがとうございました。
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