極端気象が日常化する中、気象データは社会のあらゆる領域で“未来を左右するインフラ”となりつつあります。船舶向けのBtoBサービスから始まったウェザーニューズは、いまや生活者向けアプリ、自治体支援、さらには気候変動領域まで事業を拡大し、世界最大級の民間気象企業として存在感を高めています。極端気象が日常化し、農業・物流・都市インフラなどあらゆる分野で“気象を読む力”が不可欠となる今、「予測」にとどまらず、気候そのものを変える取り組みに踏み出しています。
今回は、気象×デジタルの最前線を走るウェザーニューズが描く“デジタルによって変わっていく気象の世界”の核心に迫ります。
(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)
創業秘話から見えるウェザーニューズの今
鈴木:最近、スマートフォンにウェザーニュースのアプリを入れていない人はほとんどいないですね。あらためて、御社がどのような会社なのか教えていただけますか。
出羽:現在はBtoCのイメージが強いと思いますが、もともとはBtoBから始まった会社です。創業は1986年で、創業者は起業前、商社に勤めており、アメリカから日本へ木材を運ぶ船を手配する仕事をしていました。ところが、手配した船が小名浜港で爆弾低気圧に遭い沈没する事故が起き、数十名の命が失われてしまいました。
このような事故を防ぐにはどうすればよいのかを考え、気象情報が正しく伝わっていれば事前に防げたのではないかと思い至り、ウェザーニューズを立ち上げました。そこから船会社向けを中心に、BtoBサービスを主軸として展開してきました。
創業当初は小さな会社で、私が入社した頃は400〜500名規模でしたが、現在は約1,100名を超えています。事業の軸は今もBtoBで、売上構成としてもBtoBの比率が高く、BtoCは全体の4割ほどです。
鈴木: 一般向けの印象が強かったのですが、BtoBが主軸ですね。ちなみに、出羽さんご自身はどのような仕事を担当されているのでしょうか。
出羽: 私は2001年に新卒で入社しました。入社当初はオペレーション部門に所属し、コンテンツを制作してお客様に提供する運営を担当していました。気象は止まらないため、24時間365日体制での運営に携わっていました。
その後、2004年に運営から開発部門へ異動し、テレビ局向けの開発を担当しました。具体的には、天気予報を作成するシステムの納品や、天気予報画面を表示する機器の提供、また地方局では気象予報士がいない場合も多いため、アナウンサーが天気を伝えるための原稿提供など、BtoB向けの開発業務に携わってきました。

ウェザーニューズの“気象×デジタル”はどこまで進化できるのか
鈴木:iモードからスマートフォン、そしてDXへとデジタルは著しく進化してきました。その中でウェザーニューズはどのようにデジタル活用を進めてきたのでしょうか。
出羽:気象モデル自体がデジタルであるため、他社と比べても取り組みは早かったと思います。気象モデルをデジタル化し、予報を計算し、情報をお客様に提供することは以前から行ってきましたし、日々精度向上にも取り組んでいます。
ゲリラ豪雨のような突発的な現象は今でも予測が難しい部分がありますが、昔と比べると精度は大きく向上しました。それでも100%の予測は難しいため、継続的に精度を高める取り組みを続けています。
個人向けについては、スマートフォンやフィーチャーフォンを中心に展開してきたため、デジタル上で完結することが多かった一方、BtoB向けでは、お客様ごとのフォーマットを手作業で作成してPDFで送付したり、以前はFAXで送ったりするなど、必ずしもすべてがデジタルで完結していたわけではありませんでした。
デジタルでありながら、人が手を動かすアナログな工程が混在していたのです。大企業であればその形でも成り立ちますが、より多くのお客様に情報を届け、被害を少しでも減らすためには、人手中心のコミュニケーションには限界があります。そこで、デジタル化やDXが非常に重要だと考えています。特にBtoB領域では、まさに今、変革の途中にあります。
鈴木: 予報精度を高めるうえで、BtoCから寄せられる情報も活用されているのでしょうか。
出羽: ウェザーリポートはフィーチャーフォン時代から続けており、もう20年ほどになります。会員の方から天気情報や写真付きのリポートが投稿され、それを予報部門で確認し、モデルに反映して精度向上につなげています。ここは気象庁との大きな違いです。「自分が投稿した写真や体験が、誰かの役に立つ」という循環があり、投稿数もどんどん増えています。お花見や紅葉といったコンテンツも含め、追いきれないほど増えてきているという声もあります。
鈴木: 非常に興味深い取り組みですね。一方、DXを進めるには人材育成が欠かせません。社員のDX意識を高めるため、どのような取り組みをされていますか。
出羽: 全社でAIハッカソンを実施しています。最初は開発メンバーが中心でしたが、3年前にChatGPTが話題になり、生成AIの波が来たことを受け、全社員が使える環境を整えました。ただ、ツールを用意するだけでは活用は進みません。
そこで約1年前から、全社員参加型のハッカソンを開催しています。これまで15回ほど実施し、参加率は全社員のうち1,100名中8〜9割に達しました。そのうち半数ほどは、生成AIに初めて触れる人たちでした。まずは「触れる機会を増やす」ことを重視し、初回は「AIは怖いものではない」という認識を持ってもらうことを目的にしました。
次のステップでは、「すべてではないが、AIを使えば自分の仕事を解決できる」というテーマで進めています。実際に、ウェブページを自分で制作できるようになった社員もいます。これまで紙で作成していたものをウェブ化し、以前はエンジニアに依頼していた作業を、自分の手で実現できるようになりました。
鈴木: やはり、AI導入に伴って不安の声もあると思います。そうした声が上がった際には、どのように向き合っているのでしょうか。
出羽: 「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安は確かにありました。そこで、仮にそうした変化が起きた場合でも、ジョブチェンジやスキルシフトを促し、「新しいことに挑戦できる機会をつくる」ことを強調しています。社員には「人間はよりクリエーティブな仕事をしていこう」と繰り返し伝えています。
最初の一歩に不安があるのは当然です。その不安を解消し、全社で前向きに取り組むための仕組みとして、ハッカソンを実施してきました。
鈴木: 一度スイッチが入ると、皆さん積極的に取り組みますね。これが楽しいところだと思います。
AIで重要なのは膨大なデータですが、ウェザーニューズさんはすでにその基盤をお持ちです。一方、まとめサイトのように自前のコンテンツを持たないところは、今後苦労するとも言われています。
出羽: その通りです。我々は大量の気象データを保有していますし、気象データは日々変化するため、LLM(大規模言語モデル)に学習させる対象とは異なる点が差別化になります。
生成AIは非常に有用なツールで、人が担ってきたコミュニケーションの一部を代替できると考えています。これまで培ってきた気象ノウハウやデータ、リスクコミュニケーションの知見、運営ナレッジをAIエージェントに組み込み、それを通じてお客様に届けることが可能です。
ハルシネーションの問題があるのも事実ですが、それを理由に使わないのではなく、前提として理解したうえで新しい挑戦を進めています。100%を求めると何も進まなくなるため、まずは60〜80%でも良いという意識で、少しずつ前に進めています。

気象は変えられなくても、気候は変えられる。更なるウェザーニューズのチャレンジ
鈴木:気候変動の話にもつながりますが、予測の重要性はますます高まっています。暑さの深刻化による農作物への影響も含め、御社の役割が変化してきている実感はありますか。
出羽:その通りです。これまでは気象が中心でしたが、数年前から気候変動にも本格的に取り組み始めました。クライメートテックの部署を立ち上げ、気候変動分野への対応を進めています。気象は変えられませんが、気候は変えられます。
鈴木: 印象的な言葉ですね。天気や気候と無関係な人はいませんし、社会的意義はさらに高まっています。最近では海外でも大きな被害が発生していますが、完全な予測でなくても、警戒アラートを出すだけで大きな違いが生まれます。
出羽:CO₂排出を減らすことで、数十年先の気候は確実に変えられます。そのため、将来を見据えた研究にも力を入れています。当社の気象モデルを用いたシミュレーションや、「この状況が続くとどうなるのか」といった予測結果を、お客様に提供し始めています。
実際、東京では1時間に140ミリの雨が降るなど、日本に限らず世界的に極端気象が顕著です。こうした情報をより早く届けることで、災害軽減に貢献できると考えています。事前に止水板を設置するなど、具体的な対策にもつなげていただけます。どこまで寄与できるか、まさに挑戦の途中です。
鈴木: 今後、世界規模でさらにデジタル化がさらに進むと思いますが、ウェザーニューズとして目指す方向性を教えてください。
出羽:私たちの原点はリスクコミュニケーションです。適切な情報と対応策を伝えることで、気象災害による被害を少しでも減らすことを目指しています。大企業では導入が進みますが、中小企業ではコスト面の課題もあります。より多くの事業者に活用いただくためには、サービスのスケールが欠かせません。そのためにも、人が担ってきた業務をデジタル化し、広く届けられる仕組みを整えていきたいと考えています。
鈴木: 最後に、個人としての思いを伺えますか。
出羽: 個人的には、会社のドリームである「船乗りの命を守りたい。地球の未来も守りたい」がベースにあります。現在、陸上気象は日本が中心になっていますので、今後はさらにグローバルに広げていきたいと考えています。日本で先行している減災・防災の技術をアジアなどに広げ、先日のインドネシアの被害のような事例で少しでも減災に寄与できればという思いがあります。






















