日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はそんなフェローの1人で、サンドラッグ執行役員 兼 EC事業部事業長として活躍する田丸知加氏に話を聞きました。アマゾンジャパン、セブンアンドアイホールディングス等の経験を経て、サンドラッグでDX推進する田丸氏。田丸氏の豊富な経験談とともに、会社に変革をもたらすための重要なポイントについて迫ります。
変革人材の基盤となったアマゾンジャパンでの16年
鈴木:田丸さんの経歴を教えてください。
田丸:2003年から16年間、アマゾンジャパンで業務に従事しました。その後、日本の役に立ちたいという思いが強まり、セブン&アイ・ホールディングスに転職しました。デジタル戦略部の企画部長として、グループシナジーの創出を目指したDXやECを推進、さらに新規事業の立ち上げなどに取り組みました。その後、Walmartの子会社である西友に参画。OMO施策や「楽天西友ネットスーパー」(当時)の新規事業開発、マーケティングなどに幅広く従事しました。現在はサンドラッグで執行役員として、DXなどの推進に携わっています。
鈴木:多くの経験をお持ちの田丸さんですが、今の自分に最も影響を与えたことは何ですか。
田丸:アマゾンジャパンでの16年間は、私にとって大きな経験となりました。入社した2003年頃のアマゾンジャパンは、社員数が100名程度で規模も大きくありませんでした。しかし、入社から3年ほど経った頃、商品数が急増したことに伴い、業務を自動化するフェーズに入りました。そのため、リテールに関わること全ての仕組みをシステムで管理・運用する体制が求められました。商品増加に対応するために必要な要件定義やマスタの整備、サプライチェーン構築、小売部門の全商品を日本仕様に合わせた商品登録、発注など…約30ものプロジェクトが常に動いている状態でした。今思えば大変な時期でしたが、この経験こそが今の私の土台になっていると思います。
鈴木:事業が拡大するに連れ、組織も大きく変わったのではないでしょうか。
田丸:はい。組織が急激に大きくなったため、業務が属人化するようになりました。同じ作業にも関わらず、部門ごとに独自の動きが生まれてしまったのです。こうした改善するために部門統合を推進していました。加えて、外部の取引先などが商品登録できるような販売体制の構築も進めました。しかし当時は「なぜアマゾンのために自社のリソースを割かなければならないのか」と反発が多くありました。そのため、社内でも社外でも常に交渉し続ける毎日でしたね。今振返ると、当時の取り組みこそが「DX」の第一歩だったのだと思います。

サンドラッグのECを2桁成長させた秘訣
鈴木:現在はサンドラッグの執行役員を務めていますが、どのような経緯で入社されたのでしょうか。
田丸:サンドラッグから声をかけてもらい、入社しました。ドラッグストア業界のECは市場が拡大する中で、サンドラッグのEC事業も成長を遂げていました。しかし、担当メンバーがプロパー社員のみで構成していたため、このままではさらなる成長が難しい状況でした。そこで私の今までの経験を活かしてほしいと声をかけていただきました。その際、会長や社長からは「デジタルは分からないから任せた。外部から女性がいきなり先頭に立ってデジタル化を推進することになれば反発も出かねない。そんなときはすぐ頼ってほしい」と言ってもらいました。その言葉に感銘を受け、入社することを決めました。
鈴木:それはトップとして本物ですね。トップの在り方がDX推進に影響を与えるのではないでしょうか。
田丸:間違いないと思います。DX推進にあたっては既存業務が変化するため、現場から反発を受けることは避けられません。そのため、社内でDX推進を先導する人は社内の意見を無視しているように見えがちです。そうした状況では、トップがDX推進を理解し、推進者をフォローすることが重要です。どれだけ外部から優秀な人材を招いても、トップがフォローしなければプロジェクトは必ず失速します。ゴールにたどり着くことなく、途中で諦めてしまいかねません。
鈴木:デジタルに限らず、どんな改革を起こすにも、トップと現場の力を借りサンドイッチのように会社全体を巻き込む必要ですよね。それに、トップがDX推進を宣言した上で実務を任せてもらうと、スピード感を持って推進することができますよね。
田丸:はい。サンドラッグもおかげさまでEC事業が2桁成長することができました。それは経営層が私を信用して任せてくれたからに他なりません。経営層の強力な後押しが、スピード感をもたらしたのだと思います。もっとも、任されっぱなしではなく、デジタルの仕組みや方針をトップに説明することにも余念はありませんでした。さらに、共に推進するメンバーはプロパー社員ばかりだったので、「なぜ既存業務を変えなければいけないのか」を辛抱強く伝えることにも注力しましたね。
私が入社してから3年半経った現在、ECをリプレイス。さらに物流拠点を新設し、業務を効率化するための物流向けシステムも刷新しました。

不安が漂うドラッグストア業界での今後
鈴木:今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。
田丸:社会情勢を踏まえ、DX推進の幅をさらに広げていきたいです。
とりわけ注視するのが、医薬品のオンライン販売です。今後は一部の医薬品は薬剤師の承認が必要となるものの、ほぼすべての市販薬がオンラインで販売される見通しとなっています。しかし市場を見れば、薬剤師の人数が不足しているのが現状です。地方では高齢化が進み、オンライン販売に不慣れな人も増えることが見込まれます。
業界として、デジタルや技術が医薬品のオンライン購入にどう影響するのか注意深く見守る必要があると考えます。最新の情報や市場の変化をいち早く読み解き、社会に求められる変革を加速させていきたいと思います。
鈴木:ドラッグストア業界では、今後もデジタルの範囲が広がると思います。日本オムニチャネル協会でも様々な業界の企業が参画しているので、ともに未来を語ることで今後に役立ててもらいたいですね。
田丸:日本オムニチャネル協会は様々な業界の方がいます。こうした方々との交流により、私自身、多くの気づきを得られます。こうした貴重な機会を失わないよう、これからも協会の活動に積極的に関わっていければと思います。