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インタビュー

業界の壁を超えた共創の場でイノベーション人材を育てていく日本オムニチャネル協会

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日本オムニチャネル協会の取り組みやビジョンを深く知る連載企画がスタート。
小売・流通業界にとどまらず、さまざまな業界の企業が参加する日本オムニチャネル協会は、どんな理念を掲げ、協会活動に参加する企業にどんな価値をもたらすのか。さらに、同協会が掲げる「業界の壁を超えた共創の場の創出」とは…。日本オムニチャネル協会会長の鈴木康弘氏に設立した経緯や目的、さらに目指す姿について話を聞きました。

イノベーション人材が育たない日本社会

――日本オムニチャネル協会を設立した経緯を教えてください。

オムニチャネルやDXを主導する人材を育てたい…。そんな思いを成し遂げる場を作ろうと考えたのがきっかけです。
私はDXを支援するコンサルティング会社の代表として、顧客の課題と日々向き合っています。多くの経営者と話をすると、DXの必要性を認識しているのに進められないという声をよく聞きます。DXに取り組んだものの、プロジェクトが途中で失速するケースも珍しくありません。こうした企業に共通する課題が、「人」です。どの経営者も「DXを推進する人材をどう育成すればいいのか分からない」「外部から人材を登用するにもどう人選すべきか分からない」「DXを主導するのに必要なスキルが分からない」などの悩みを抱えています。DXは人材育成に目を向けない限り成功しないのです。そこで、DXやオムニチャネルといった新たな施策を成功へ導く人材を育成する場を用意しようと、日本オムニチャネル協会の設立に踏み切りました。多くの人の協力と賛同により、2020年3月に設立しました。

――日本ではイノベーションを起こせる人も少ないと聞きます。

背景にあるのが、日本人の保守化です。とりわけ若い世代は、「上昇志向がない」「現状に満足しがち」といった傾向が顕著で、保守的な考え方が深く根付いているように感じます。こうした考え方が、仕事を通じて植え付けられてしまったのです。つまり、挑戦したがらない上司の姿勢が、指導という形で部下である若者に継承されているのです。現在の企業の管理職といえば50代が中心。この世代はバブル経済崩壊後の1990年代後半、就職氷河期に入社した人たちです。当時は景気低迷のあおりを受け、リスクを避け、ルールを破らないという考え方が広がっていました。無難で失敗しないことを良しとし、多くの企業でこうした考え方が風土として定着していったのです。その結果、新たな挑戦を許容せず、周囲が挑戦を応援する文化もない。さらに、挑戦する姿勢や考え方を若手社員に教えられる人もいない。こんな悪循環に陥ることになったのです。当然、イノベーションを起こせる人など、社内にはいなくなってしまいました。

日本オムニチャネル協会は、企業のこうした環境を変えたいと考えます。多くの企業の取り組みや方針、施策を共有し、保守的な風土から脱却するヒントを模索できるようにします。とりわけ業界の壁を取り払うことに注力し、企業同士の共創機会をより多く創出するための支援策を打ち出していきたいと思います。

写真:日本オムニチャネル協会は業界の壁を超えた「共創の場」創出を目指す

――共創の場を実現する手段が「オムニチャネル」なのでしょうか。

オムニチャネルとは一般的に小売・流通業界向けの言葉で、実店舗やECをはじめとするあらゆるチャネルの統合を意味します。しかし、日本オムニチャネル協会はその解釈を広義に捉え、「すべての商流・物流・金流・情報流がつながること」と定義しています。

現在の企業の多くがさまざまな「壁」にぶつかり、狭い世界で物事を考えたり行動したりしがちです。こうした壁を取り払う手段の1つとなるのが広義の「オムニチャネル」です。業界に閉じた考え方に固執せず、他業界を含めた連携や共創を視野に入れることで、自社だけでは解決するのが難しかった課題を打破しやすくします。ちなみに、イノベーションは異質なもの同士がぶつかって起こるとよく言われます。日本オムニチャネル協会が掲げる「オムニチャネル」の定義は、まさにイノベーションを起こすため前提条件となるものです。日本オムニチャネル協会の会員として活動すれば、共創の場を通じて多くの人と知り合えます。多くの企業の取り組みを参考にすることができます。協業という形で企業同士がともにイノベーション創出に向けて取り組むことさえ可能になります。 こうした環境を生み出すため、日本オムニチャネル協会では業界、企業、組織、地域、規模、年代といったさまざまな壁を超えた共創の場の創造を目指しています。

自己創発的に広がった年間100回を超える協会活動

――どのような協会活動を行っていますか?

日本オムニチャネル協会では、課題やテーマに応じた各種部会を設けています。部会に参加し、会員同士が議論を深めることで課題解決や施策立案につなげられるようにしています。数ある部会の中でも、中心的な役割を果たしているのが「共創ビジネス部会」と「次世代アカデミー」です。

「共創ビジネス部会」は、壁を超えるための方策を考えた結果、会員の皆さんとテーマについて議論する場を設けるべきだと考え、設立しました。「共創ビジネス部会」はさらに4つの分科会に分かれ、「ロイヤルティマーケ分科会」「ロジスティクス分科会」「チームビルディング分科会」「Nextリテール分科会」を運営しています。より専門的で濃い内容を議論できるように、各分野に精通する人をリーダーにしているのが特徴です。もちろん、各分野に詳しくなくても、今後の参考にしたいという会員に参加してもらっても構いません。意識や環境が全く異なる自分とは異質な人と話をすることで、思いもよらない学びが得られ、さまざまな刺激を受けられるに違いありません。

また協会として社会貢献を果たす意味でも次世代の人材を育成する場を設けました。それが「次世代アカデミー」です。学生を対象とした「スチューデントアカデミー」、ベンチャー企業の課題解決や企業同士の共創を想定した「ベンチャーアカデミー」、ITの最新動向やテクノロジ、製品・サービスの主な機能などを学べるように設立した「ITアカデミー」があります。

加えてビジネスだけでなく、人と人とのコミュニケーション促進を目的とした月例交流会も開催しています。さらに、国内外の視察も実施。業界の異なる参加者同士で現地を視察すると、同じ場所でも参加者ごとに見る視点が違ったり課題が異なったりし、多くの気づきや発見を得られる良い機会となっています。また、月2回オープンセミナーを開催しており、セミナーでは経営者や実践者から直接生の知見を学ぶ機会を提供しています。

――協会設立より5年目を迎えますが、協会活動に変化はありましたか。

現在300社450名を超える会員の方が参加していますが、設立当初は思うように活動ができませんでした。2020年の設立直後に、新型コロナウイルス感染症がまん延。すぐに1回目の緊急事態宣言が発出され、協会活動ができなくなってしまいました。その状況で何ができるか考え、当時あまり前例のないウェビナーを手探りで開催しました。すると、1500人を超える方が参加し、非常に驚いたのを覚えています。
振り返ってみると、理事会メンバーを含め、私自身も協会活動は初めてで、誰も正解が分からない中、さまざまなことに挑戦しながら活動してきました。そして気がつけば、2023年度は年間101回を超える活動をするまでになりました。

写真:年に1度開催されるイベント「オムニチャネルDay」で講演する鈴木会長

――年間100回を超える活動数とは驚きですね。

「こんなにまじめに活動している協会は他にない」と言われます(笑)。しかしは私が中央集権的に開催を促しているのではなく、やる気のある人がどんどん活動していける場を提供することで実現していきました。今後新たに九州支部の発足や、DXイノベーション大賞の開催と発展していく予定ですが、引き続き自己創発的な協会になれば良いと思っています。そして、ここに来れば「自分でもやれるんだ」と感じ、自信を持てる協会にしていきたいと考えています。

――まさに共創の場で新たな変革が起こし続けている協会ということですね。

共創の場を通してイノベーション人材を育てる

――協会として目指す姿を教えてください。

やはり活動目的である業界、企業、組織、地域、規模、年代といったさまざまな壁がなくなることが目指すべき姿だと考えています。さまざまな壁を越えた共創の場を通して刺激を受け合うことで、イノベーションを促進していきます。

そのため、部会など議論する場により多くの人の参画を促していきたいと思います。分科会では、その道のプロフェッショナルがそれぞれテーマを掲げて学び合っていますが、決して専門的な知識を持つ人だけが議論を行う場ではありません。逆にプロフェッショナルの方はテクニックの部分で長けているかもしれませんが、ユーザーとしての意見は持っていません。さまざまな立場の人が議論し合うことでお互いに学びを共有していけば良いと考えています。協会内の壁も超えていきたいと思います。

写真:会員との熱気あふれる様子

――今後、協会として力を入れていきたいことなどを教えてください。

次世代の人材育成に力を入れていきたいと思います。現在、日本では若手社員が多く転職をしていると思います。会社内でイノベーションを起こせる人が「もっとすごいイノベーションを起こそう」と思って起業することや、マーケティングに携わっていた人が営業にも挑戦してみるというような転職は良いと思っていますし、もっと転職すべきと考えます。
しかし、実際の若手社員の転職は必ずしもそうではありません。転職は場がないことが原因としてあります。企業内で異文化に触れる機会があるべきですが、同じ環境で育った人達が話し合っても答えはなかなか出てきません。そのため、協会で学んだことを自分の会社に持ち帰ってイノベーションを起こす人が増えるといいですね。

――若手社員はどのような姿勢で学ぶべきでしょうか。

「学ぶ」という言葉の語源が「真似る」であるように、先人や達人を真似ることこそが学びだと思っています。そのため若手社員は本物を真似るべきです。そういう意味でも、この協会には真似るべき人が多く集まっています。特に共創ビジネス部会や次世代育成アカデミーのリーダーたちはその代表です。リーダーに共通している点は、みんな苦労人だということです。一生懸命挑戦して失敗した経験を持っている人だからこそ、自身の軸を持ちながら多角的な視点を持っています。別に皆が失敗を経験すべきだとは思いませんが、今の複雑な世の中において、多角的に見える人が必要不可欠だと思っています。

自分が新人の頃、上の方々からさまざまなことを教えてもらったからこそ今があると思っていて、最近ではその役割が自分に回ってきたのだなと思っています。やはり、変化する世の中では若い人が活躍しないと、会社や業界、国が成長しないと思っています。業界の壁を超えた共創の場を通じて、イノベーションを起こす次世代の人材を育てることが、日本オムニチャネル協会の本当のミッションなのかもしれませんね。

編集後記
記事を読んでいただき、ありがとうございます。筆者自身、社会1年目の新人です。今回鈴木会長にインタビューをする貴重な機会をいただき、一言も逃したくないと必死でした(笑)。そんな私とは対照的に、鈴木会長はすごく自然体でインタビューに応じてくださりました。迷いのない鈴木会長の言葉から多くの学びがある中で「成功の反対は失敗ではない。行動しないこと」という言葉が衝撃的でした。ついつい「失敗をしても良いのですか?」と尋ねたところ、「うん。行動しないことこそ本当の失敗だね」とおっしゃっていました。失敗をしてもよい環境があることに驚くと同時に、気づかないうちに自身が保守的になって行動できていなかったことがわかりました。まさに私は立場の異なる鈴木会長と交流することで新たな気づきを得ることができました。鈴木会長自身が業界、企業、年代の壁を超えることを体現している情熱を持っているからこそ、多くの人が集まっているのだと思いました。日本オムニチャネル協会が今後、どのような共創の場をつくっていくのか、すごく楽しみです。

執筆:小松由奈


一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/


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