Fit to standardの考え方を自社に根付かせる
鈴木:クラウドの活用が前提となりつつある今、企業が利用するシステムはSaaSに尽きます。「SaaSなんて不要」と考える人がもしいるなら、逆に「なぜそう思うのか」と聞き返したいくらいですね。
渋谷:全く同感です。SaaSの活用は、もはや企業活動の前提条件と言っても過言ではないかと思います。今後、企業が導入するさまざまなシステムも、自然とSaaSという形態に集約されていくのではないかと考えています。
鈴木:ある牛丼店が「早い、安い、うまい」ってキャッチコピーを使っていましたが、クラウドもまさに同じですよね。「早く使いたい」、「安く使いたい」という顧客(企業)の要求に応えるのがクラウドです。「うまい」もクラウドであれば、「クオリティが良い」や「ビジネスをうまく回せる」などの言葉に置き換えられるのではと思います。牛丼と同じく、クラウドも顧客が望むことを三拍子揃えて提供しているのです。
渋谷:業務を支援するさまざまなSaaSがすでに登場しています。企業はこれらを上手に活用することで、「早い、安い、うまい」といったさまざまな利点を享受できるようになるかと思います。
鈴木:いろいろな業務向けのSaaSが登場していますが、成長企業がDXを通じて新たなステージを目指すなら、SaaS型のERP(統合経営プラットフォーム)こそ徹底活用しなければなりません。会計や人事などの業務ごとのSaaSもありますが、これらを統合して情報を一元化できる統合経営プラットフォームを導入するのが、成長企業には手間もかからず望ましいと思います。
さらに注目すべきは、統合経営プラットフォームは導入企業のベストプラクティスを反映するシステムだということです。成長企業の中には、「どのような業務プロセスを描けばいいのか分からない」、「システムにどんな機能が必要なのか分からない」という企業が少なくありません。このとき役立つのが、ベストプラクティスを集めたプラットフォーム、つまり統合経営プラットフォームです。経営戦略を固め、DX推進プロジェクトを迷走させずに進めるためにも、SaaS型の統合経営プラットフォームの活用は非常に重要だと考えます。
渋谷:私もまったく同感です。過去に統合経営プラットフォームを導入したものの、カスタマイズしすぎた企業や、そもそも導入しなかった企業では、現在、複雑に絡み合った業務の整理やシステムのリプレイスに苦労しているケースが見受けられます。統合経営プラットフォームを通じて業務の可視化を十分に行わなかったことの影響が、今になって顕在化しているのだと思います。
さらに、現場の「変わりたくない」という思いを重視し続けた結果、クラウド上でも従来と同じ使い勝手を求めて過度にカスタマイズしてしまうケースも目立ちます。クラウドやSaaS、統合経営プラットフォームの持つ本来の利点を最大限に活かさなければ、経営も業務も十分に変化させることは難しいでしょう。もちろん、DXの成功も同様に容易ではないかと思います。
鈴木:日本企業の現場で働く多くの人は、真面目に業務に従事しています。決して悪いことではありませんが、その真面目さが慣れた業務の進め方を変えない、という抵抗につながってしまっているように感じますね。こうした考えを見直し、新たな業務を受け入れるためには、経営者が従業員に向けて明確な意思を示すべきです。「変えるんだ」という強い覚悟を従業員に伝え、全社に改革こそ不可欠だということを理解してもらうべきです。こうした変化を伴わなければ、クラウドやSaaSの効果を最大化できません。統合経営プラットフォームを導入しても、ベストプラクティスの恩恵を受けることなくカスタマイズに走ってしまうのではないでしょうか。
渋谷:カスタマイズに走りがちな企業の経営者の方には、「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」というシステム設計の考え方をぜひ理解していただきたいと思います。これは、システム導入の際に自社の業務をシステムの標準機能に合わせるというアプローチです。言い換えれば、自社の業務にシステムを合わせるのではなく、システムに自社の業務を合わせるという発想です。
従来は、業務とシステムのギャップを洗い出し、そのギャップを解消するためにシステムをカスタマイズする「Fit & Gap(フィット・アンド・ギャップ)」の手法が多く用いられてきました。しかし、この方法では「早い、安い、うまい」といったクラウドやSaaSのメリットを十分に享受しにくくなります。
DXにおいて大切なのは、システムを使いやすく作ることではなく、いかに早く成功に導くかです。そのためにも、経営者の方には「Fit to Standard」の思想に沿ったシステム運用へと舵を切っていただくことが、非常に重要だと思います。
鈴木:その通りです。システムに合わせて業務を変えることで、単にシステムを導入するだけでなく業務改革まで成し遂げられるようになるわけです。「Fit to standard」の考え方に照らしてシステムを導入すれば、システム導入が完了すると同時に業務改革も完了するという理想的な状態が生まれます。システム導入後の具体的な効果も視野に入れ、システムの運用方法や業務の在り方を考えるべきですね。
渋谷:「Fit to Standard」は、変化の早い現代においては欠かせない考え方だと思います。もし「Fit & Gap」の考え方でシステムをカスタマイズしてしまうと、特にAIのように新しい技術が次々と登場する中で、10年後の新しい働き方に追いつくことが難しくなるかもしれません。しかし、「Fit to Standard」の考え方でシステムを運用すれば、SaaSであれば年に数回のアップデートを通じて、時代のニーズに合わせて進化するシステムを使い続けられるのです。
鈴木:クラウドやSaaSは進化し続ける点が何よりありがたいですね。SaaSを利用する企業がSaaSベンダーに要望を出すと、他の会社でも同じことを考えていればその要望がサービスに反映されやすくなります。多くの企業が望む要望を、自社でも享受できるようになるのはありがたいことですよね。数あるクラウドやSaaSの中から必要なサービスを選ぶ際には、アップデートの頻度や顧客の要望を受け入れて進化し続けているかに目を向けることも大切です。
渋谷:「Fit to Standard」に基づくシステムは、ユーザー数が多ければ多いほど、その集合知やベストプラクティスがシステムに反映されるという大きなメリットがあります。AIの学習データと同じで、ユーザーが少なければ知見が偏ってしまいますが、世界中の多くの企業が利用しているシステムであれば、その集合知を活かして導入企業は大きなメリットを享受できるわけです。
現在では、多くの企業が「Fit to Standard」を取り入れるようになりました。カスタマイズを最小限に抑える考え方や、クラウドやSaaS、統合経営プラットフォームを最大限に活用する姿勢は、もはや企業にとって必須になっていると思います。私たちの生活にスマートフォンが欠かせないように、これらは企業を支える重要なインフラです。もし今後も「クラウドやSaaSを使わない」「統合経営プラットフォームを導入しない」という選択を続けるとすれば、それはスマートフォンを使わない生活を選ぶようなものです。変化を前向きに受け入れ、自社で活かしていく姿勢こそ、これからの成長企業に一層求められているのではないかと思います。
鈴木:全く同感です。数年前なら「クラウドは様子見」という意見もありましたが、現在においてその考え方はもはや通用しません。クラウドやSaaSを否定的にとらえるのではなく、活用することを前提に自社のシステム像を描き直すべきだと思います。さらに、「Fit to standard」に従って業務をシステムに合わせ直すべきです。こうした取り組みを明日にも打ち出せるかどうか。経営者は覚悟を持って今こそ決断すべきなのではないでしょうか。
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日本オラクル株式会社 NetSuite事業統括
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