今回は、ネクシィーズグループ 代表取締役社長 兼 グループ代表の近藤太香巳氏が登場。2度の高校中退、そこからの挑戦と挫折…。近藤氏は18歳で社会に出てから現在に至るまで多くの経験を積み上げてきました。どんな人生を歩み、何を学んだのか。さらに次代の若者に託したい思いとは。近藤社長が考える仕事への姿勢や熱い思いを、DXマガジン総編集長の鈴木康弘が切り込みます。【夢を実現していく変革者たち。~SUZUKI‘s経営者インタビュー~ #1】
近藤:当時を振り返ると、僕の原点は「お前みたいな若造に何ができるんだ?」と言われてきたことから始まります。私は高校を辞めて営業として働いた後、50万円で会社を創業しました。とはいえ、会社を登記するルールさえ知らず、勝手に株式会社を創業したと思い込んでいましたね(笑)。今思うと、「無知こそ無敵」だったのかもしれません。人って考えすぎると動けなくなるって言いますよね。その点で僕は、動きながら考えていたのが良かったと思います。
近藤:手元には50万円しかなく、商品は作れません。しかし営業なら売ればお金になる。そこで営業としてスタートを切りました。当時はダイヤル電話をプッシュホンに切り替える訪問販売の営業を行っていました。18歳のころでした。
鈴木:当時は「こうなりたい」など、考えや思いってあったのでしょうか。
近藤:その日を生き残ることしか考えていませんでした。「失敗は成功のもと」という言葉がありますが、当時の私にとっては「失敗は倒産のもと」でした。「もし今日中にこれができなければ」「もし今月中にこれができなければ」と、常に崖っぷちの状態でした。
鈴木:想像もつかないですね。振り返ると、やり切ったという達成感はありましたか。
近藤:よくやったなと思いますね。銀行も融資してくれないような状況でしたので、自分で何とかするしかありませんでしたからね。
創業して最初の10年は、いつ倒産してもおかしくない。常にそんな状態でした。しかしそんな極限状態まで追い込まれたとき、諦めるか熱狂して打ち込めるか。今、こうして生き残っているのは、その考えの差だと思いますね。私はただ当時の仕事や希望を失いたくなかった。それだけです。だからこそ、いろいろな考えを巡らせ、アイデアを出し続けてきたのだと思います。例えば、携帯電話を利用するのに20万円もかかる当時、月々2000円で利用できるサービスを考えたのも、苦しい中から生まれたアイデアの1つです。そのほか、衛星放送やETC機器を初期費用無料で提供するなど、さまざまなアイデアをサービスとして具現化してきました。
鈴木:夢を叶えたというより、自らの手で夢を手繰り寄せたという強い思いを感じますね。近藤社長の経験は、若い世代にも夢を手繰り寄せてほしい。そんな思いに感じられます。近藤社長の中で、何か変わったなと思うきっかけやタイミングなどはあったのでしょうか。
近藤:当時の私は、企画と営業で存在感を示していました。衛星放送を支えるインフラも作れないし、ブロードバンドを日本全国に普及させるインフラも作れません。一方でインフラを作れるものの、世の中にどう普及させるのかを分からない企業が多かったと感じます。
例えば衛星放送なら、200以上あるチャンネルの中から人気チャンネルを組み合わせてパッケージ化し、月額料金で視聴できるアイデアを提案しました。契約によるインセンティブと番組会社からのインセンティブが衛星放送用のチューナー機器やアンテナ、設置工事費用を上回ったので、これらの代金をすべて無料にして「衛星放送 初期費用無料!」を打ち出したのです。多くのお客様から支持され、世の中に広めることができたんです。全体で当社の普及率は80%を超えていました。
さらに、商売とは「お客様を笑顔にすること」が原則だと考えます。そのためには「世の中(業界)はこうだ」、「課題はこうだ」、「私たちならこう解決できる」と考えて課題解決をすることが商売だと考えます。この3つが当てはまりさえすれば、商売は成り立つと思っています。私は当社の事業すべてを、この3つに当てはめて言うことができます。お客様を笑顔にすることこそネクシィーズグループの使命だと思っています。
鈴木:格好いいですね。きっと熊谷氏のアドバイスが近藤社長に直接響き、現在の素地となっているのでしょうね。
近藤:アドバイスを非常に重い言葉と受け止めました。当時の事業は、他の企業から必要とされ、かつ自社の強みを存分に発揮していました。そのため最初は、熊谷代表の言葉に対しそれほど現実味がなかったんです。しかし取引先企業の事業撤退の影響を受け、当時の会社の事業もほぼなくなるといった窮地を経験しました。そのとき、熊谷代表が指摘した通りだなと痛感しましたね。
鈴木:話は変わりますが、近藤社長と私、年齢が近いこともありますが、共通の知人が多いんですよね。作詞家の秋元康さんやSBIホールディングスの北尾吉孝代表とも面識があるとか。
近藤:そうなんです。秋元康さんとは頻繁に会う間柄ですし、北尾さんは私にとって「生涯の恩師」として、尊敬しています。会社が岐路に立たされたとき、北尾さんにお会いしたのを機にさらに突き進むことができたんです。
鈴木:そうだったんですね。私は現在、SBIホールディングスの社外取締役として北尾代表と頻繁にお会いしていますし、秋元康さんとはセブン&アイ ホールディングス在籍時から仕事の面で長く支えてもらっています。私にとってもお二人は「師匠」と呼べる人なんです。
近藤:北尾さんから以前、私のことをアイデアで成り立ってきたとお褒めの言葉をいただいたことがあります。その点で言うと、当社の現在の中核事業である「ネクシィーズ・ゼロ」は、私にとって最大の企画だと思っています。
「ネクシィーズ・ゼロ」は、LED照明や業務用空調・冷蔵庫、農業設備など、最新の設備を初期投資がゼロで導入できるサービスです。これらによって電気料金の削減やCO2排出量の削減に寄与しています。当社はこの事業に700億円の予算を投じており、米ムーディーズは、「ネクシィーズ・ゼロ」を環境に貢献するリース債権の証券化商品として、最高評価である「Aaa(トリプル・エー)」の格付けを付与しています。LED照明などの機器代に加え、それらを設置する工事代を含むすべての初期投資をゼロ円で提供するのが最大の特徴ですね。毎月のサービス料は削減したコスト内で完結することができます。
近藤:実はこれほど削減できるとは想定していませんでした。私は会社って大きく3つに分かれると思っています。1つは「あってもなくてもいい会社」。これは倒産しますよね。2つ目は「あって便利な会社」。携帯電話を月々2000円で持てたり、初期費用無料で衛星放送を視聴したりできるサービスを提供してきたのは、これに当てはまるかと思います。そして3つ目は「社会にとってなくてはならない会社」。これが究極の姿だと考えます。この会社になれれば最高ですよね。そして、この究極になる手段となるのが、「ネクシィーズ・ゼロ」事業だと考えます。当社もいよいよ、社会にとってなくてはならない会社になりつつある。胸を張ってそう言えるくらいになったのではと感じています。
鈴木:社会に貢献する事業ってすばらしいですね。近藤社長の思いを集約した事業だなと感じました。こうした事業を支える御社の社員に対し、どう成長してほしい、こんな人材になってほしいなどの思いはありますか。そのための教育や育成方法などがあれば教えてください。
近藤:私は対話を重視しています。アナログな方法ですが、私が支店を回り、「社長講話」と題して従業員にビジョンや課題、成功方法などを話しています。さらに従業員からの質問にも答えます。そのあとの食事会も、さらに夜は幹部と飲みに行った際も質問に答えるし、アドバイスもしています。1日8時間かけて、じっくり対話していますね。これによりとにかく絆が深まりますね。従業員のみんなも喜んでくれます。
以前、先輩方から「従業員とファミリーや家族のような関係になるのは無理だ」と指摘されたことがあります。しかしそれが本当なら、会社を大きく成長させなくていい。そう思っていました。仲間と夢を語れる人生こそ楽しいし、その中から何かを生み出す喜びこそ大きいと感じます。そんな関係を従業員と築けないと思っていたら、今の私、そしてネクシィーズグループはなかったと思いますね。
近藤:ありがとうございます。成功ってムードがいいから成功するのだと思っています。成功するからムードがよくなるわけではありません。経営者の役目は、そのムードを作ることではないかと思いますね。経営者にとって最大の役目とも言い切れます。
鈴木:コロナの影響で対面が難しくなっていますが、御社では現在、直接の対話は控えているのでしょうか。
近藤:コロナまん延以降の在宅勤務主体の働き方は仕方なかったと思います。たとえば高校の3年間、マスクをした友達の顔しかほぼ見たことがないって可哀想すぎませんか。ずっとそんな思いでした。そこで当社はコロナが落ち着きつつある現在、在宅勤務を撤廃しました。マスクも社内では外すよう促しています。顧客との商談などの場合を除き、社員同士で話すときはマスクなしにしています。表情から相手の気持ちを察することってありますよね。こうした直接の対話を大切にしたいと考えています。
鈴木:私も近藤社長の考えにまったく同意しますね。リモート勤務撤廃に踏み切れずにいる企業が多いですが、特定の職種や家庭の事情などに応じて利用できる程度にとどめるべきだと私も思います。
近藤社長は今後、ネクシィーズグループとして、さらには個人として何を見据え、どう進んでいこうと考えていますか。
近藤:現在の事業を徹底的に磨き抜こう。そう思っています。当社は現在、「ネクシィーズ・ゼロ」「ブランジスタ」、そして「BODY ARCHI」という定額制のセルフエステサービスを展開していますが、これらをもっとブラッシュアップしていきたいですね。
経営者としては業績アップを目指すのはもちろんですが、個人的には極論すれば、「行けるところまで行ってみたい」。そんな気持ちです(笑)。どんなフィニッシュを迎えるのかは想像できないですね。客観的に、どんなフィニッシュを迎えるのか興味しかないですね。
鈴木:仕事を一生続けていそうな気がしますね。
近藤:いや、実は一生続ける気はないんです。それこそ60歳で引退しようと考えています。18歳から働き始め、学校生活というものをほとんど体験していませんし、海外留学も経験していません。心の中で「少年のころから経営者をして、それだけで終わるの?」という思いがどこかにあるんです。60歳を迎えたら、次代のリーダーを育成しなければいけないし、強い気持ちで臨めばリーダーを育てられると考えています。この考えは今も本当に持っています。
ただ、ここ数年のコロナ影響で心境に少し変化が出始めました。コロナになった途端、すごく暇になったんです。もちろん仕事での決裁や重要な会議をしてますが、会食もないしイベントもない。支店周りも当然なくなりました。「会社を辞めたらこんなに暇になるの」って感じてしまったんです。人生で初めて味わった「暇」が大変苦痛だったんです。「暇」を埋めるため、仕事をし続けるかもしれない(笑)。心は揺らいでいますね。
鈴木:最後に、次代を担う若者に向けてメッセージ、アドバイスをください。
近藤:自分が取り組んでいることが、人々の笑顔につながるか。今一度自問してほしいですね。笑顔にするため、何ができるのか。どうすればいいのかを考えてほしいと願います。
仕事に取り組むなら、ナンバーワンを必ず目指してください。別に「世界一」や「日本一」でなくて構いません。周囲の仲間が聞いて納得するナンバーワンで十分です。例えば「地域ナンバーワン」「リピート率ナンバーワン」などで結構です。何かの一番を目指すことこそ大切です。「私はこれでナンバーワンになるんだ」という思いで仕事に向き合ってほしいですね。そのためには、あれもこれもではなく、まずは“一点突破”で自分だけの強みを作ってほしいなと思います。
鈴木:本日は大変貴重なご意見をいただきありがとうございました。近藤社長の熱い思いを感じ取ることができました。
近藤:こちらこそありがとうございました。
代表取締役社長 兼 グループ代表
近藤太香巳氏