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新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、多くの企業がDXに舵を切った小売業界。しかし足元を見ると、今なおデジタル化さえ踏み出せずにいる企業や、DXに舵を切ったもののさまざまな「カベ」に阻まれて進まない企業も数多くあります。DXを推進するにあたって何が足かせとなっているのか、阻害要因は何か、流通小売業界に長く携わるヴィンクス 取締役常務執行役員の竹内雅則氏とデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏が、業界の課題と突破口に斬りこみます。

DXに取り組む目的を明確化し、人を起点とした変革を推進せよ

鈴木:設立から30数年にわたり、ヴィンクスさんは流通小売業向け専業ITベンダーとしてこの業界に携わっていらっしゃいました。昨今の小売業のDX化への取り組み状況をどのように捉えておられますか。

竹内:そうですね、まず小売業界のDXが進んだのは、新型コロナウイルス感染症が契機であることは否めません。“待ったなし”の状況が、小売事業者のDXを加速させました。しかし、コロナが終息しつつある今、ようやく踏み出したDX化への歩みが、ここにきて停滞している小売事業者が増えていると感じます。

竹内雅則
株式会社ヴィンクス
取締役常務執行役員

大手メーカーで約20年間、流通小売業向けなどのITシステム研究開発業務に従事。その後、富士ソフトディーアイエス(現:ヴィンクス)取締役企画本部長を経て、2017年に同社の東証1部上場を推進責任者として実現する。ITシステム大型プロジェクトのPM、PMO経験に加え、事業戦略、企業再編、M&A、海外事業展開など経営全般の豊富な実績を有している。(株)4U Applications・エリア・ホロン取締役(現任)、ビジネス・ブレークスルー大学大学院講師(現任)。

鈴木:コロナ禍という緊急事態では、DXの目的をきちんと理解せずに取り組んだ企業が多かったのではないでしょうか。DXがなぜ必要か。この問いに向き合わず、「コロナだから」という理由だけでDXに取り組んだ結果がDXの失速を招いています。大切なのは、DXに取り組む目的を明確に打ち出すこと。さらに、全社員が共通のビジョンに向かって突き進むこと。これらを前提に取り組むことが不可欠です。全社一丸で取り組めるように先導する経営者の手腕も欠かせません。コロナであるかどうかを問わず、次代に向けて自社の変革をさらに推進すべきです。

竹内:アフターコロナを迎えた今、多くの経営者が何に注力すべきか、何をデジタル化すべきかを精査されているのでしょう。人が店舗に戻りつつある中、コロナ禍とは異なる施策を模索されているのだと思います。

鈴木:コロナが落ち着きつつある今、自社のこれからの姿を描き始める企業が増えているのでしょうね。ミッションやビジョンを再定義し、アフターコロナを勝ち抜く方策を真剣に考える企業が目立ちます。「こうなりたい」と、自社の未来を具体的にイメージすることが何より大切です。

DXは「D(デジタル)」よりも「X (変革)」に目を向けるべきです。これこそDXの本質です。多くの企業がシステム導入を目的化しがちですが、これはDXではありません。

さらに、変革に取り組むとき見逃してはならないのが「人」です。どれだけデジタル化しても事業を変革できるとは限りません。事業の変革は、人の変革なしには起こり得ません。経営者は人を起点とした変革の道を描き、ゴールに向かって突き進むよう仕向けることが重要だと考えています。

過去の考えや常識を踏襲する「組織風土のカベ」

竹内:変革に向けた取り組みを進めるといっても、決して容易ではありません。まず見落としてはいけないのは従来の組織体や古いしきたり・風土が足かせになるということです。過去に経験したことがなく、成功するかどうか分からない取り組みに後ずさりする人もいるでしょう。従来の体制や考え方が根付いている限り、変革を進めるのはまず難しいと思います。

鈴木:これまでの働き方や企業風土を「変えたくない」と考える人は少なくありません。成功体験を持つ人ほど、変えたくないと考える傾向が強い。社内にこうした従来の考え方が深く根付いていればいるほど、変革は思うように進みません。大切なのは、過去とキッパリ決別することです。そのためには経営者による強いメッセージが重要です。「DXを必ず成功させる!」「変革を絶対成し遂げる!」。こんな意志を全社員に示すべきです。覚悟を持った経営者の姿勢が古い体制を取り壊すきっかけとなり、新たな風土をつくる好機となると思います。

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長

1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事する。1996年にソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 1999年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年同社取締役執行役員CIO就任。 2016年同社を退社し、2017年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任する。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。

竹内:そうですね。変革に向けて自社を刷新するには、既存の仕組みを抜本的に見直すことも大切だと考えます。例えば、社員の評価制度もその1つです。変革に向けた新たな取り組みをプラスに査定する評価制度を導入することも大切ではないでしょうか。デジタル化社会に追随するには、これまでにない斬新な発想や提案を受け入れる体制づくりにもっと目を向けるべきだと思います。

鈴木:ご指摘の通り、会社として挑戦を許容するルールを設けるべきでしょうね。新たな取り組みには失敗がつきものです。にもかかわらず、失敗した社員の評価を下げる企業が少なくありません。その結果、社員は挑戦したがらなくなります。挑戦する社員に対し、経営層や上司、同僚らが褒め称えるべきです。さらには給与や昇給といった待遇に反映させる、そういった環境や仕組みを構築することが必要だと思います。

竹内:ミスを責め、結果しか重視しない企業もあると思います。これでは新しいことに挑戦する風土は育まれない。そもそも新しい試みに10回挑戦すれば、9回は失敗するものでしょう。こんな確率であっても、社員が挑戦する姿勢を評価してほしいと思います。

鈴木:同感です。挑戦する社員を受け入れなければ、「挑戦します!」と意欲を持って挙手する人はいなくなります。いずれは一切の成功さえ見込めなくなってしまうでしょう。企業は結果偏重の組織体制から脱却する必要性に迫られているのです。DXに取り組むなら、DXを推進しやすくする体制や風土づくりも合わせて取り組む必要がありますね。

新たな取り組みを拒絶する「現場のカベ」

竹内:DXに取り組む多くの企業が、DX推進部のような専門部署を設置しています。しかし、この部署と現場にもカベがあるように感じます。例えば、DX推進部が新たな業務プロセスに刷新しようと提案しても、現場の反対にあって変革が進まない、といったことが起こっています。現場とのカベを取り払うこともDX推進には必要不可欠な要素ですよね。

鈴木:その通りですね。DX推進部には現場の業務はもちろん、すべての部署に対して意見できるだけの権限を持たせるべきです。DXによる自社の変革がそれだけ重要で意義のあるプロジェクトだと全社に認知させるきっかけにもなります。

もっとも、権限を振りかざすだけでは現場の納得感を得られません。DXという新たな取り組みには、全社の理解が不可欠です。DXに取り組むと自社はどう変わるのか。変革によって自社の未来はどう明るくなるのか。こうしたゴールやメリットを丁寧に説明することが大切です。抵抗勢力はDXを良く理解できずにいるからこそ不安がるのです。対話を繰り返して理解を深められれば、現場は必ず納得します。

竹内:良好な人間関係を構築するには、“説明” というプロセスを重ねることだと思います。DXに限らず、どんなプロジェクトでも大切なのは対話であり人間関係です。抵抗勢力とも当然対話することが必要で、ましてやDXという未知の取り組みを正しく理解してもらうには、努力を惜しまず“説明”を重ねることが重要でしょう。

私自身も過去に類似体験がありますが、新規性の高いプロジェクトであればあるほど難色を示している現場と対話を重ね、その納得を得ることがとても重要です。いったん納得を得られた現場は抵抗勢力から一転して推進勢力に変化し、スムーズにプロジェクトを進めることができるようになります。

鈴木:同感です。抵抗勢力への対応は、徹底的に議論しDXに対する不安や疑問を払しょくすることに尽きます。ときには意見をぶつけ合うことも必要です。これにより、相手がDXをどう考えているのか、何を懸念しているのかという相手の思いを正面から受け止められるようになります。必要ならあえて意見を衝突させ、妥協案をともに模索することも検討すべきでしょう。

大事なのは、衝突を恐れないこと。反対されるのを恐れ、相手との対話を拒むのは好ましくありません。どんな状況でも対話を前提に、DXの必要性や自社の未来を分かりやすく伝え続けるべきですね。

写真3:二人の対談は、小売業界の現状から今後の展望まで話は膨らんだ

ITと業務双方を理解できない「内製化のカベ」

竹内:小売事業者の中にはシステム開発を内製化し、システムを迅速に展開できる体制構築に踏み切るケースが見られます。しかし、内製化への移行は決して楽ではありません。ITに精通する人材を育成しなければならないし、外部からIT人材の獲得も検討しなければなりません。どう取り組めばよいのかさえ分からない、といったケースも散見されています。

鈴木:ITに精通する人材が社内にいない場合、多くの企業が外部から実績あるIT人材を獲得しています。しかし、こうした人は自社の業務知識を当然持ち合わせていません。自社のビジネスモデルはもとより、強みとなる業務プロセスさえ理解していません。こんな状態でシステムを開発しても、現場が求めるシステムなんて作り出せませんよね。

内製化を目指すなら、ITと業務の両方に精通する人材の育成が不可欠です。業務に精通する社員を教育し、ITのスキルを習得させるべきです。もっとも最近は、プログラミングの知識なしにシステムを開発できるノーコードツールが台頭しつつあります。こうしたツールを活用すれば、プログラミングスキルを習得せずにシステムを開発できるようになります。業務を理解する現場主導の開発体制を構築するなら、ノーコードツールなどの新たなテクノロジーを積極的に活用することも視野に入れるべきでしょう。

竹内:そうですね。しかし一方で、内製化による開発体制や人材育成は、短期的な取り組みでは効果がなかなか出ない、というのが一般的です。中には思うような結果を得られず、途中で諦めてしまうケースも見られます。内製化を前提とした人材育成を成功させるのは、そう簡単なことではないと思います。

鈴木:経営者の覚悟なしに、内製化や人材育成は成し遂げられません。結果が見えない中でも施策を継続するには、経営者の姿勢であり熱意こそが不可欠です。

私は企業のDX推進を支援するという仕事柄、多くの経営者にさまざまな提案をしています。その多くが一度で通るわけではありません。二度三度と提案内容をブラッシュアップし、クライアントが納得するまで内容を突き詰めます。このとき、クライアントは提案内容の出来を見ているわけではなく、私の覚悟を見ているのでは?と感じることが多い。どんなに否定されても、提案を通そうとする姿勢や熱意、覚悟こそ重要。そういう思いで私はクライアントと向き合っています。

内製化や人材育成も同じではないでしょうか。経営者の「必ず内製体制を築く」「絶対に育てる」という強い思いが成功へと導くのです。

竹内:DX推進を阻むさまざまなカベも、経営者や責任者の強い覚悟・強い思いによって切り崩せるのではないか、ということですね。覚悟や思いといった“熱量”が強いほど、小売業に立ちはだかる“3つのカベ”を突き崩す確率は高まる。鈴木さんとのお話の中でそう感じました。同時に、弊社もDX推進の一助となれるよう、さらに努力していかなければならないと決意を新たにすることができました。

鈴木:ありがとうございます。今回の対談で明確になった「小売業のDXが進まない3つのカベ」を認識し行動することで、小売業のDX化が進み、小売業界がさらに発展することを願っております。本日はありがとうございました。

竹内:弊社も小売業の発展に資することができるよう、これからも鋭意邁進していきたいと思います。こちらこそ本日はありがとうございました。

株式会社ヴィンクス
https://www.vinx.co.jp/


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