新たな都市像となる「スマートシティ」。多くの自治体がスマートシティ構想を打ち出す中、その基盤となる「都市OS」への関心が集まりつつあります。どんな機能を備え、どんなことをできるようにするのか。「都市OS」に求められる要件や、スマートシティもたらす未来像を考察します。
スマートシティの根幹をなす「都市OS」
都市が抱えるインフラなどの課題をITで解決する「スマートシティ」。ITの整備によって生活の質を高められることから、多くの自治体が“スマートシティ化”に目を向けつつあります。また、AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどを産業や社会に取り入れることによって実現する未来社会の姿とされる「Society5.0」の先行的な実現の場ともされています。
こうしたスマートシティの基盤となる仕組みが「都市OS」です。交通機関や公共施設などに関するデータを集積・分析し、他の自治体や企業、研究機関などと連携させるためのプラットフォームを指します。WindowsなどのOS同様、都市OSがスマートシティ内のデータを統括する役割を果たします。
「スマートシティ」や「都市OS」という考えがなかった従来の都市は、いわばOSを実装していないコンピュータのようなものでした。ハードウェアやソフトウェア、ファイルにあたるシステムが個別に存在していたため、新しい取り組みを打ち出す度に独自のシステムを採用する必要があったのです。結果として、便利なサービスが開発されても、同じサービスが他の都市で展開されることはなければ、有用なデータが複数の分野にまたがって活用されることもありませんでした。
しかし、有用なサービスやデータの相互連携による効果を最大化するため、現在では、多くの自治体がスマートシティの考え方に共感し、町づくりのコンセプトに「スマートシティ」を打ち出しています。この流れは日本に限らず、世界でも同様の動きが進んでいます。海外に限ると、人口増加による都市部への人口集中の課題を解決する目的でスマートシティ化を進める動きが目立ちます。人口が集中するエリアではエネルギー消費量や交通量が増えるため、環境汚染、交通渋滞などの問題も起こりやすくなると予想されています。そのため、エネルギー供給の見直し、インフラの効率化までもが構想内に含まれるスマートシティ化を進めることで、こうした諸問題が解決に向かうことが期待されています。
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日本が目指すスマートシティ像とは
日本ではどんなスマートシティ像を描こうとしているのか。内閣府はスマートシティが実現した社会の将来像として、「さまざまな分野で横断的にデータの取得・利活用を実現する『データ連携基盤』を整備・構築している」「スーパーシティを起点に、都市間の広域連携、横展開によって地域間の格差解消を目指している」などを掲げています。
ちなみに、「スマートシティ」と「スーパーシティ」が混在して使われることがあります。スマートシティは、その実現の取り組みとして、実証特区を設けて各分野における開発・実験がおこなわれてきたのに対して、スーパーシティでは個別分野での実証実験がおこなわれることなく、「まるごと未来都市」を目標にしています。具体的には、スーパーシティである条件は以下の3つの要素を満たしていることとされています。
1. 「移動」「物流」「支払い」「行政」「医療・介護」「教育」「エネルギー・水」「環境・ゴミ」「防災」「防犯・安全」の10領域のうち少なくとも5領域にまたがるDX生活サービスが提供されていること
領域 | DX生活サービス |
---|---|
移動 | 自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理、MaaS(マルチモード輸送)など |
物流 | 自動配送、ドローン配送など |
支払い | キャッシュレス、電子マネーなど |
行政 | パーソナルデータストア、オープンデータプラットホームワンストップ窓口など |
医療・介護 | AIホスピタル、オンライン診療など |
教育 | AI活用、遠隔教育など |
エネルギー・水 | データ活用によるスマートシステムなど |
環境・ゴミ | データ活用によるスマートシステムなど |
防災 | 緊急時の自立エネルギー供給など |
防犯・安全 | ロボット監視など |
2. 2030年頃に実現見込みの未来社会における生活を加速実現させられる
3. 住民目線でよりよい未来社会を追求している
3. 住民目線でよりよい未来社会を追求している
都市OSに求められる3つの要件
では、スマートシティを実現する都市OSにはどんな機能が求められるのか。内閣府は「相互運用(つながる)」「データ流用(ながれる)」「拡張容易(つづけられる)」の3つの要件を挙げています。
「相互運用」は、地域内外とのサービス連携および各都市の成果の有効活用を可能にするために必要なもの。機能やサービスのインターフェースを共通化することで、エリア外とつながりやすくなります。「データ流用」が可能なら、地域内外のデータを流通させて一元化させることができます。そして、「拡張容易」が必要なのは、都市や地域、そこに暮らす人の構成などは絶えず変化するものであるから。機能の拡張や更新が必要となったとき、すぐに対応できることが重要です。
都市OSに求められる要件 | 要件の概要 | 要件を満たすために必要な課題 |
---|---|---|
相互運用(つながる) | 都市内および都市間でのサービス連携や、各都市における成果の横展開を可能にするための仕組み | APIルールの検討やデータモデルの標準化および外部に公開する仕組み作り |
データ流用(ながれる) | 地域内外の様々なデータを仲介して連携させる仕組み | 多種多様なデータを取り扱うデータ仲介モデルの構築 |
拡張容易(つづけられる) | 都市OSで利用される機能やアーキテクチャの更新に合わせて、容易に拡張できるような仕組み | ビルディングブロック方式によるシステムの構築 |
これら3つの課題解決のためには、スマートシティの実現に必要な知識や実行力を有した人材が不可欠。そこで内閣府は、スマートシティにおける全体設計をコーディネイトする先導的人材の育成から、地域における実証・実装を通じた人材の育成にまで力を注いでいます。
日本におけるスマートシティの具体例
では、2021年現在、日本にはどういったスマートシティが存在するのでしょうか? 代表的なスマートシティをみていきましょう。
1. 柏の葉スマートシティ
「環境共生都市」「健康長寿都市」「新産業創造都市」の3つの取り組みをおこなっている、千葉県柏市のスマートシティです。自治体と民間企業に加えて、東京大学や千葉大学などの教育機関も参画して取り組みをおこなっています。特徴は、次世代送電網スマートグリッドの導入による蓄発電や、災害時の電力融通が可能なこと。また、つくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス駅」と東京大学・柏キャンパスをつなぐ公道にて、自動運転バスの実証実験もおこなっています。 2.スマートシティ会津若松
福島県会津若松市のスマートシティ開発では、さまざまな分野で先進的な取り組みをおこなっています。たとえば、若者流出を防ぐためのICTサテライトオフィスの建設や、農業にデータ分析とICTを活用する「スマートアグリ」。また、インバウンドにも力を入れており、一人ひとりの国籍や訪問時期に合わせた観光コンテンツを提示する特設サイトを開設するなど、さまざまなユニークな試みをおこなっています。 3.ウーブン・シティ
静岡県裾野市に建設中の「ウーブン・シティ」は、2020年にアメリカ・ラスベガスで開催された「CES 2020」にて、トヨタ自動車の豊田章男社長によって発表されました。「ウーブン・シティ」は日本語にすると「編まれた街」。街を通る道が網の目のようにデザインされていることに由来します。独特の地形を利用して、自動運転やMaaS、スマートホーム技術などを実証できる都市建設を目指しています。 これら以外の取り組みもあります。2019年に国土交通省のスマートシティ先行モデル事業に選定された、東京 大手町・丸の内・有楽町エリアでの施策も画期的。同エリアにおける大きなテーマのひとつは「歩行者とパーソナルモビリティの共存」で、既に多くの人に歩行者優先エリアとして認知されていますが、2021年3月にはここで自動運転モビリティの実証実験が実行されました。人や障害物を発見すると回避または自動停止するとはいえ、歩行者優先エリアで車が走行するとはまさに未来都市における出来事のよう。全国各地のスマートシティでのこうした実証実験の積み重ねの先に、まだ見ぬ理想の未来が待ち受けているのでしょう。
「環境共生都市」「健康長寿都市」「新産業創造都市」の3つの取り組みをおこなっている、千葉県柏市のスマートシティです。自治体と民間企業に加えて、東京大学や千葉大学などの教育機関も参画して取り組みをおこなっています。特徴は、次世代送電網スマートグリッドの導入による蓄発電や、災害時の電力融通が可能なこと。また、つくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス駅」と東京大学・柏キャンパスをつなぐ公道にて、自動運転バスの実証実験もおこなっています。 2.スマートシティ会津若松
福島県会津若松市のスマートシティ開発では、さまざまな分野で先進的な取り組みをおこなっています。たとえば、若者流出を防ぐためのICTサテライトオフィスの建設や、農業にデータ分析とICTを活用する「スマートアグリ」。また、インバウンドにも力を入れており、一人ひとりの国籍や訪問時期に合わせた観光コンテンツを提示する特設サイトを開設するなど、さまざまなユニークな試みをおこなっています。 3.ウーブン・シティ
静岡県裾野市に建設中の「ウーブン・シティ」は、2020年にアメリカ・ラスベガスで開催された「CES 2020」にて、トヨタ自動車の豊田章男社長によって発表されました。「ウーブン・シティ」は日本語にすると「編まれた街」。街を通る道が網の目のようにデザインされていることに由来します。独特の地形を利用して、自動運転やMaaS、スマートホーム技術などを実証できる都市建設を目指しています。 これら以外の取り組みもあります。2019年に国土交通省のスマートシティ先行モデル事業に選定された、東京 大手町・丸の内・有楽町エリアでの施策も画期的。同エリアにおける大きなテーマのひとつは「歩行者とパーソナルモビリティの共存」で、既に多くの人に歩行者優先エリアとして認知されていますが、2021年3月にはここで自動運転モビリティの実証実験が実行されました。人や障害物を発見すると回避または自動停止するとはいえ、歩行者優先エリアで車が走行するとはまさに未来都市における出来事のよう。全国各地のスマートシティでのこうした実証実験の積み重ねの先に、まだ見ぬ理想の未来が待ち受けているのでしょう。