日本オムニチャネル協会は2022年3月1日、DXマガジンとの共催セミナーを開催しました。今回のテーマは「Amazon GoからAmazon Fleshへ 現地視察レポート」。クラスメソッド 代表取締役社長の横田聡氏が、アマゾンが打ち出す店舗戦略や新サービスの動向を米国での現地視察を交えて紹介しました。
当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
via www.youtube.com
カメラやセンサーを駆使する実店舗「Amazon Flesh」
アマゾンといえば「amazon.com」や「Amazon Web Services(AWS)」を連想する人が少なくないでしょう。しかしその一方で、同社が注力するのが新たな顧客体験の創出です。ECユーザーの満足度向上はもとより、消費者の生活が便利になる新戦略や新サービスを次々に打ち出しています。日本国内ではあまり馴染みのないものの、米国では同社のチャレンジをより身近に感じられるようになっています。
では同社は米国でどんな新たなチャレンジをしているのか。セミナーでは横田氏が実際にアマゾン運営の実店舗などを視察した様子を中心に、アマゾンの取り組みを解説しました。
横田氏は2021年末に渡米し、アマゾンを始めとするさまざまなサービスや店舗を視察しました。その中でもとりわけ特徴的なサービスが「Amazon Flesh」です。もともとAmazon.comの生鮮食品を配送するサービス名でしたが、現在は食品を扱う実店舗でも使われています。なお同社は、実店舗を構えるスーパーマーケット「Amazon Go Grocery」も展開していましたが、現在は「Amazon Flesh」に名称を統一しています。
「Amazon Flesh」では、利用者の入店や買い物、決済などの至るところで新たな顧客体験を感じられます。代表的なサービスが、レジでの支払いが不要な「Dash Cart」です。これは、商品を買い物カゴ(ショッピングカート)に入れるだけで支払いを済ませられるスマートカート。カートにはカメラやセンサーを内蔵し、カゴに入れた商品を自動で認識できるようにしています。一度カゴに入れた商品を取り出して元に戻す場合も自動認識します。
利用者はカートに取り付けたモニタからどの商品をカゴに入れたのか、総額はいくらなのかを確認できます。なおDash Cartを利用するには、Amazonのスマートフォンアプリを使った認証作業が必要です。認証することで「amazon.com」に登録するクレジットカードなどで支払いできるようになります。
Amazon Fleshでは店舗利用者の入店を管理するゲートも用意します。利用者は店舗に入店する際、スマートフォンをゲートにかざしてから入店します。なお、スマートフォンを使って入店できない人向けに、手のひらをかざして指紋認証したりクレジットカードを差し込んだりして個人を識別する専用端末もゲートに用意します。横田氏によると、同社が店舗向けに開発したシステムは外販され、ホテル内のショッピングモールやスタジアム内の売店で使われていると言います。
そのほかAmazon Fleshでは、店舗天井の至る箇所にカメラやセンサーを、商品の陳列棚や商品を吊るすフックに重量センサーを取り付け、商品陳列数を把握できるようにします。店内の様子を見た横田氏は、「Dash Cartのカメラやセンサー、さらには天井のAIカメラ、陳列棚の重量センサーを組み合わせて商品を管理する。視察して感心したのは、小さな商品でも高い精度で管理できるようにする点だ。各商品にRFIDなどのタグを付与せずとも、フックや陳列棚単位で商品重量(商品数)を把握している」と指摘します。さらに横田氏は、「視察した店舗に限ると、天井には約1000台のカメラを設置していた。アマゾンはこうした機器も大量購入することで安価に仕入れているはず。どのくらいの店舗規模ならスケールメリットを得られるかといった実験も兼ねているのではないか」と考察します。
セミナーでは横田氏と、日本オムニチャネル協会理事である逸見光次郎氏による対談も実施しました。
「Amazon事例から見る小売/オムニチャネルの未来の姿」というテーマのもと、店舗やオムニチャネルの在り方について議論しました。
対談の冒頭、逸見氏は横田氏の講演を受け、「アマゾンによる店舗改革はソフトウエアの先進性にとどまらない。什器や棚などのハードウエアも改良しているのが印象的だ。ソフトとハードの両面を合わせて考えることが、これからの店舗には求められる」と指摘します。
これに対し横田氏は、「現地視察などを通じて感じたのは、アマゾンは必ずしも完成形で出店していないということ。店舗のあらゆるサービス、取り組みが『実験』である。さまざまなデータを取得し、それを次の新たなチャレンジにつなげる。そのための布石にすぎない。失敗しても構わないという思いでAmazon Fleshを運営しているからこそ、ハードウエアの改良などにも積極的になれるのではないか」と考察します。実際に店舗を視察したとき、「必ずしも多くの客で賑わっていなかった。あの程度の集客では大規模店舗を維持できない。しかしアマゾンは当面の集客アップに目を向けるのではなく、その先に投資している。1年ごとの投資対効果を検証するのではなく、10年後に顧客が求める世界感を実現するために投資している印象を持つ」(横田氏)と続けます。
こうしたアマゾンの姿勢、進化を横田氏はどう見るか。「アマゾンの強みは、店舗を積極的かつ迅速に軌道修正できる点。店舗が完成形ではなく実験の場なら、いかに早く利用者のフィードバックを反映できるかが重要だ。こうした改善を早期に実施できるのが、競合に追随を許さない同社の強みになる」(横田氏)と指摘します。
さらに横田氏は、アマゾンが構築するエコシステムも重要だと強調します。「同社は自社の利益だけを追求せず、良い技術やサービスをみんなで使おうという姿勢が感じられる。サードパーティのソフトウエアやサービスを利用できる『AWS Marketplace』を提供するのもそんな姿勢の現れではないか。同社の革新的な取り組みを多くの企業や事業に還元できる体制こそ、アマゾンの進化を語る上では見逃せないポイントだ」(横田氏)と言います。
最後に小売や流通、メーカーはアマゾンから何を学ぶべきかも横田氏に聞きました。横田氏は、「事業内容を問わず、顧客の声を現場の人が自分で改善できる環境は何より強い。アマゾンも実店舗の運営を通じ、利用者の声を早期改善に役立てている。顧客の課題に耳を傾け、早期に課題を解決する体制構築こそ、小売事業者は目をむけるべきだ」と指摘します。そのためには、「自社が提供するサービスの良しあしは顧客が評価するもの。常に顧客の声を探り、顧客の評価を突き詰めることで、真に利便性の高いサービスを創出できるようになる。ただし、何でも自前でゼロから開発するのは望ましくない。SaaSなどの利用を前提に、世間にない付加価値を生み出すサービスは自前で開発することを検討すべき。顧客向けにどんなサービスを創出、提供するか。最新のテクノロジを理解するのはもちろん、知見のある人を組んでサービス創出を模索することにも取り組むべきである」(横田氏)と述べました。