日本オムニチャネル協会は2023年4月27日、定例セミナーを開催しました。今回のテーマは「“サステナブル”な活動が問われる日本企業の役割とは」。サステナブルな世の中を実現するため、世界的に行われている取り組みや日本におけるサステナビリティの現状と課題について議論しました。
企業経営においてサステナブルな視点は必要不可欠な条件となりつつあります。そのような時代背景を考慮し、日本オムニチャネル協会は本年度、新たにサステナブル部会を発足しました。サステナブル部会発足記念となる本セミナーには、神奈川大学経営学部の中見真也准教授と、ソトコト・プラネットの大久保清彦代表取締役がゲストとして登壇。モデレータの、日本オムニチャネル協会 サステナブル部会リーダーの渡部弘毅氏と同部会サブリーダーの林雅也氏とともに、サステナブルな経営のあるべき姿、とりわけ、未来の子供たちに希望ある社会を引き継ぐため、どのような視座でサステナブルな活動に取り組むべきかに関して議論しました。
サステナブルの本質を見失わない取り組みが必要に
サステナブルをどう具現化し、何を実施すればいいのか分からない、そう考える企業は少なくありません。では、“サステナブルな経営”をどう打ち出せばいいのか。そのためには何が必要か。セミナーではこんなテーマでも議論を展開しました。
中見氏はサステナブルという言葉について、「学術的に見ても、『サステナブル」を明確に定義する文献などは少ない。日本でも認知は高いが、関連する動きはほぼない」と現状を整理。その上で、「サステナブルを具現化し、実行するなら真ん中に人を配置することが欠かせない。人を中心にどう取り組むかが今後は求められる。その取り組みの1つとしてサステナブルを位置付けるべきだ」と述べます。人を起点に、企業や投資家、地域などの関わりが周囲に派生し、サステナブルを前提とした市場を形成するといいます。
大久保氏はサステナブルに取り組み続ける視点で、「SDG’sという言葉は大きな関心を集め、多くの日本企業が『SDG’sに取り組むこと」を掲げ出した。その結果、SDG’sは企業や社会の仕組みにすでに溶け込んでいる。仕組みにしなければ、事業の存続さえ難しくなるからだ」と指摘します。例えば自動車メーカーのCMであれば「速い」などを謳うのではなく、「環境にやさしい」などを前面に打ち出しているのもSDG’sを強く意識している表れだと続けます。
もっとも、仕組みを取り入れることがゴールと考える企業に疑問があると大久保氏は指摘します。「環境にやさしい取り組みさえ打ち出せばいいと考える企業が目立つ。その取り組みの先を見据えることが大切だ。このとき、ゴールの1つとなるのがサステナブルだ。例えばエコバックを常に携行していればいいというわけではない。何のための取り組みなのか、なぜエコバックを携行するのか。その本質を見失わないことが大切である」(大久保氏)と続けます。世界ではSDG’sという言葉は日本ほど使われておらず、むしろゴールであるサステナブルに向き始めていると言います。
中見氏も、「SDG’sは形作りにこだわる傾向が見られる。国連が提唱するSDG’sという言葉に対し、何をすべきか、どう考えるべきかが固まりすぎている」と、SDG’sに傾倒しすぎる姿勢に警鐘を鳴らします。「スーパーマーケットで買い物袋を買うのがもったいないからエコバックを携行する。そんな消費者が多い。大久保氏が指摘するように、その取り組みの本質は何か。消費者はもとより企業は常に意識しなければならない」と指摘します。メディアや学校など、リテラシーをきちんと学ぶべきだと主張します。
ではサステナブルをどう捉えるべきか。大久保氏は、「子供たちの未来を照らす取り組み」と定義します。「SDG’sの目指すべき目標を2030年に定めるなら、それ以降の取り組みはまさにサステナブルだ。このとき、何をすべきかの1つが子供のための取り組みに他ならない。未来を明るく照らす取り組みといえば曖昧だが、そこにはいろいろな手段や取り組みを模索できる。企業は今から2030年以降に目を向け、何を打ち出すべきかを考えなければならない」と述べます。
中見氏は企業がどう取り組むのかについて言及します。「企業として利益を生み出す取り組みは外せない。ただし、今後、利益と並行して社会にどう貢献するのかが求められるようになる。事業が社会にどんなメリットをもたらすのか、社会課題をどう解決し、私たちの生活を豊かにしてくれるのか。こうした価値を創出し、社会や消費者に還元できるのが望ましい。これがサステナブルに即した考え方であり、今叫ばれている『サステナブル経営』の1つのあり方だ」(中見氏)といいます。もっとも現実問題としてどう両立させるべきか。多くの企業が直面し、頭を悩ませているのが実状であると中見氏は指摘します。
中見氏は、利益を生み出す取り組みとサステナブルの価値を生み出す取り組みを分けることが1つの考え方だと提唱します。「利益を生み出すには効率化が欠かせない。デジタルを駆使し、どう生産性を高めるか、どう効率性を引き上げるかに取り組む企業は多い。今後もこうした取り組みは加速し、多くの企業に浸透するだろう。一方、価値を生み出す取り組みは、効率性や生産性を高める取り組みとは別に考えるべきだ。例えば顧客にどんな価値を提供するか、どう喜んでもらえるか。価値創出に向けた取り組みを追求することが、具体的なサステナブルの取り組みにつながる」と考察しました。
日本オムニチャネル協会が企業のサステナブル活動を支援
企業のサステナブルの取り組みは今後、ますます重要になります。そこで日本オムニチャネル協会は2023年、企業のサステナブル活動を支援する「サステナブル部会」を発足。SDG’sやサステナブルをどう捉え、何をすべきかを議論する場を用意しました。特定のテーマに沿って議論を深められるようにし、活動を通じて具体的な方針をアウトプットすることを目指します。
サステナブル部会のリーダーを務める渡部弘毅氏は、部会への参加を検討する企業担当者に対し、「部会では常にゴールを意識して議論することを心掛ける。サステナブルな社会、サステナブルな経営を実現するための“HOW”を考え、企業が最終的なゴールにたどり着けるようにする」と部会の方針を打ち出します。
なお、部会で議論する形態は、「部会」「フェロー勉強会」「DXマガジ・オープンセミナー」の3つを用意。それぞれの活動を通じて議論する予定です。さらに、サステナブルな経営を打ち出し、取り組む企業の担当者に講演してもらったり、ディスカッションを通じてメンバー内で内容を深め合ったりする取り組みも検討するといいます。
一般社団法人日本オムニチャネル
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