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全体最適を浸透させるマネジメント理論「TOC」、優秀な人の時間を割かぬよう全員で助け合う考え方こそ必要

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DXマガジンは2022年6月24日、定例のDX実践セミナーを開催しました。今回のテーマは「『ザ・ゴール』に学ぶサプライチェーンマネジメント~DXを成功させるTOC理論の実践~」です。ゲストのゴールドラット・ジャパン CEOの岸良裕司氏が、全体最適に有効なTOC理論の考え方などについて講演しました。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。

優秀な人ほどボトルネックになりやすい

 名だたる経営者が支持し、世界で1000万人が読んだとされる「ザ・ゴール」。今回のゲストである岸良裕司氏は、「ザ・ゴール」著者のエリヤフ・ゴールドラット博士に請われ、ゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任した人物です。「全体最適」のマネジメント理論である「TOC(制約理論)」をあらゆる産業界で実践し、その手法はもとより、セミナーでの分かりやすい解説でも人気を集めています。
今回のセミナーでは、岸良氏が「全体最適」や「TOC」について解説しました。時折、視聴者にクイズやテストを投げかけるなどして「全体最適」を分かりやすく説明しました。
写真:ゴールドラット・ジャパン CEO 岸良裕司氏

写真:ゴールドラット・ジャパン CEO 岸良裕司氏

 セミナー冒頭、岸良氏は視聴者に次の質問を投げかけます。
・あなたの仕事は他の人や組織と、つながって行われていますか?
・それぞれの人や組織の能力は一緒ですか? ばらついてますか?
この質問で大切な点を岸良氏は、「つながっているのに、あたかもつながっていないと扱うこと、ばらつきがあるのにあたかもばらつきがないように扱うこと」と、これが現在のマネジメントの致命的な誤りであると指摘します。一体どういうことか。企業のマネジメントは一般的に、「営業」や「生産」「開発」などの“縦割りのマネジメント”になりがちです。組織も同様で、「他部署とつながっているのに縦割りでつながっていないように仕事をしている。人の能力も然りだ。ばらつきがあって当然なのに、能力のばらつきを想定していない。こうした考え方の誤りが、思うような結果を出せない理由だ」(岸良氏)と指摘します。
一方、「ボトルネック」についても解説します。岸良氏はそもそもボトルネックとは、「分かってはいるものの、簡単に増やすことができないリソース」と主張します。なぜなら、簡単に増やせるリソースならばボトルネックになることはあり得ないからです。
例えば、一般的に「営業」「設計」「生産設計」「工場」「工事」といった業務プロセスでは、「営業」などから設計変更の依頼が集中する「設計」がボトルネックになりがちです。しかし岸良氏はこの状況を例示しつつ、「ボトルネックとはつまり、一番優秀な人がなりやすい。言い換えれば『希少リソース』である。設計担当者を容易に増やすことはできない。かといってボトルネックを解消するため、希少リソースである設計担当者の仕事の進め方を見直すのは相当のリスクに他ならない」と指摘。その上で、「重要なのは、設計担当者以外の人の行動を変えることだ。営業や生産設計、工場、工事に関わる人の行動を変え、設計担当者を助けるようにする。この考え方こそTOCの基本となる」(岸良氏)と強調します。
図1:「設計」に負荷が集中し、ボトルネックになりやすい

図1:「設計」に負荷が集中し、ボトルネックになりやすい

 さらに、「周囲が助け合ってボトルネックとなる制約を取り除くには、『つながり』や『ばらつき』を受け入れるのが前提となる。これらを受け入れることで制約を解消できるようになる。業務プロセスに関わる人全員で制約に集中し、全員で助け合うべきだ。この考え方こそ『全体最適』となる」(岸良氏)と指摘します。制約となる「設計」以外の“非制約”(営業、生産設計、工場、工事)のカイゼンに取り組むのは「無駄」(岸良氏)と断言します。
図2:「つながり」と「ばらつき」を受け入れることで制約...

図2:「つながり」と「ばらつき」を受け入れることで制約を取り除く体制を構築できるようになる

 では、一般的な組織の中でボトルネック、つまり希少リソースとは何を指すのか。岸良氏は、「需要と供給から考え、組織において需要が多く、供給が圧倒的に少ないものが該当する。最たる例が優秀な人の時間だ。こうした人の多くがマネジメントに関わっている。マネジメントが“非制約”、つまりボトルネック以外に多くの時間を割かれるのは好ましくない。むしろ“非制約”に関わるべきではない。それくらい割り切って集中できる環境を構築すべきだ。優秀な人が『今はやらないこと』を決めるのも全体最適には必要だ」と強調しました。

全体最適の考え方こそDXには不可欠

 今回のセミナーのテーマである「サプライチェーンマネジメント」でTOCはどう当てはまるのか。岸良氏は視聴者に対し、YESかNOの2択のサプライチェーン力診断テストを投げかけます。
・AIを使えば予想は当たるようになる。
・中央倉庫より現場の方が予測は正確になる。
・メーカーのリードタイムを劇的に短縮することは小売りからでは困難。
・できるだけまとめて発注した方がコストが安くなる。
・全員が一生懸命働けば、効率が上がる。
これらの答えはYESかNOか。岸良氏はすべて「NO」だと指摘します。「サプライチェーンに関わる人なら全問正解しなければならない。しかし全問正解した人をほぼ見ない。なぜ全問正解しないのか。それは日本のサプライチェーン関係者は、サプライチェーン理論の教育を受けたことがないからだ。海外では専門職に該当するが、日本では経験や勘、度胸でオペレーションしているのが実情だ」と指摘します。
さらにサプライチェーンマネジメントが部分最適化している点にも言及します。「サプライチェーンでは、調達や生産、営業、物流、小売り、お客様といったさまざまなステークホルダーが関わる。すべてのステークホルダーを全体最適のWin-Winでつながなければならない。しかし、多くのサプライチェーンが部分最適で完結しがちだ。例えば、調達は安く仕入れようとまとめて発注する。生産は稼働率を高めようとまとめて生産する。営業は売上を伸ばそうと押し込み受注するといった具合だ。調達や生産、営業といった組織別の部分最適に終始すると膨大な無駄が生まれてしまう。ゆえに全体の成果をもたらすことはできない」(岸良氏)と指摘します。
さらに、「部分最適に終始するサプライチェーンは、部分最適に準じるルールが適用されがちだ。このルールに沿って仕事を進めている現場をデジタル化しても状況は好転しない。むしろ悪化しかねない」(岸良氏)と強調します。いくらDXを叫んでITを導入しても、現場の部分最適のルールでIT化すれば、部分最適のオペレーションが今後何年も固定化されてしまうと言います。エリヤフ・ゴールドラット博士の著書である「チェンジ・ザ・ルール」でも、博士はIT投資について次のように述べています。
 IT投資によるテクノロジー装備だけでは、利益向上につながらない。なぜなら、何もルールが変わっていないからだ!
via ダイヤモンド社「チェンジ・ザ・ルール」
 なお、セミナー後半のDXマガジン総編集長の鈴木康弘との対談でも、岸良氏はIT導入の目的『ザ・ゴール』を見失っていると指摘。「DXの典型的な失敗例として、IT化すれば問題解決すると思っている人がいる。IT化と問題解決はイコールではない。問題解決してからIT化すべきだ」と述べます。
写真:セミナー後半は、岸良氏とDXマガジン総編集長の鈴...

写真:セミナー後半は、岸良氏とDXマガジン総編集長の鈴木康弘が対談

 岸良氏の発言に鈴木も同意します。「ITベンダーなどの売り文句として『IT導入=問題解決』が使われがちだが、これは間違い。残念ながらこうした誤った考えが根付いている。DXはITを導入することより、いかに変革を起こすかを重視しなければならない。DXの『X』にこそ注力することが何より大切だ」と強調します。さらに、「ITベンダーが企業にヒアリングして要件定義を実施するが、このときの要件が部分最適に基づいているからIT導入が失敗する。むしろ業務を何も知らない人の方が、既成概念にとらわれることなく業務を俯瞰できる。全体最適の視点で要件を固めることに取り組まなければDXは失敗する」と述べました。
 前回のDX実践セミナーでは、ウクライナ情勢から読み取る世界のセキュリティ動向について解説しています。こちらの記事も合わせてお読みください。
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