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新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、消費者の「デジタル化」が加速しています。企業はそんな中でも消費者を正しく理解し、消費者のニーズを満たす製品・サービスを提供することが求められます。では、デジタル化によって見えにくくなった消費者の行動をどう把握し、事業や利益拡大に結実させるのか。このとき考える指標の1つが、顧客起点で売り上げや利益を拡大させる「顧客勘定」です。【DX時代に求められる“顧客勘定マーケティング”を極めよ 第2回】は、商品を購入する顧客をどう理解すべきか。その考え方について触れます。なお、本連載は日経BPマーケティング「売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法」の内容をもとに編集しております。

 筆者は数十年前から、ITやデジタルを活用した変革に取り組んできました。今回は当時の「こんな時代があった」という話しから「顧客勘定マーケティング」という考え方が生まれた歴史を振り返ります。  筆者は1980年代後半、百貨店に就職して顧客管理の業務に携わっていました。この百貨店では当時、「イベント別管理」「一部のクレジットカードでの管理」「ショップ別名簿管理」「外商顧客管理」などの用途・目的別に顧客を管理。データはバラバラな状態でした。同一顧客の情報がさまざまなリストに点在し、利用頻度の高い優良顧客の情報も取得していませんでした。  ここで言う「イベント別管理」とは、「中元・歳暮実績客」「ホテルなどの店外催事実績客」などの管理を指します。さまざまな理由から、住所や氏名を、百貨店側に知らせてくれた顧客の情報です。  「一部のクレジットカードでの管理」とは、筆者が勤務していた百貨店と当時は同グループだったクレジットカード会社の情報を管理します。このカードを使用する顧客の「いつ何をいくらで購入したのか」が分かります。ただ、当時は現金決済主流の時代。クレジットカードによる決済比率は全体取引総数の5%未満という状況でした。  「ショップ別名簿管理」とは、プレステージ系の有名ブランドの店長が、手書きの名簿で優良意客を管理するもの。「外商顧客管理」とは、優良意客のセールス担当者が、やはり手書きで管理していた名簿の情報が対象となります。  当時はこうした顧客リストを活用してマーケティング施策を展開していました。例えば「イベント別管理」。「ゴールデン・ウィークに某ホテルでお客様ご招待会」があったとします。受付で名前を書いた顧客の名簿から一人ひとりの住所と氏名をシール化し、ハガキに貼って投函する用途に使っていました。しかし名簿はイベント別であるため、名簿をユニーク・ユーザー(1人の顧客)に名寄せ(顧客情報の一元化)するという概念や使い方は想定していませんでした。5つのイベントに登録する顧客には、5つのイベントの情報が届きます。名寄せもない、網羅性もない顧客情報を元に、当時はハガキや封筒で情報を提供。これが、筆者にとっての顧客マーケティングの原体験です。  その後、筆者にとって革命的なことが起こりました。1990年代半ば、筆者の勤めていた百貨店が、日本の小売業で初めてフリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)を導入したのです。FSPの原点は、1981年に米国の某航空会社が導入したフリークエント・フライヤーズ・プログラム(FFP)であると言われています。今ではほとんどの航空会社が導入する、いわゆるマイレージサービスです。このFFPをヒントに米国の大手チェーンストアが展開したのがFSPです。筆者が勤務する百貨店がこうした動向を知り、日本の小売業で初めてFSPを導入しました。  FSPが画期的だったのは、現金でもクレジットカードでも、どんな決済手段でも情報を取得できる点。決済時にFSPのカードを提示してもらうことでポイントを付与する。今ではごく当たり前なことの原点がここにありました。導入してから約半年で、全購買行動の60%以上を可視化することができるようになったのです。  「今まで見えなかったことが見えるようになった」、「できなかったことができるようになった」という点で、大きな環境変化でした。大半の購買行動を把握できるので「誰がいくら使ったのか」「誰が何を買ったか」が見えるようになりました。全購買行動の60%を超えるようになると、「デシル分析」(※1)や「RFM分類」(※2)もできるようになります。「離反されると困る顧客」も可視化できるようになりました。 ※1:全購入客を買い上げ順位で10の塊に仕分けし、どのくらいの数の購入客が、全体の売上高のどのくらいのシェアを占めているのか、を可視化するための分析手法
※2:「直近購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「累計購入金額(Monetary)」という3つの観点から顧客を分類する手法
 「できないことができるようになった」という点で言うと、電子メールを使って顧客にアプローチできるようになったことも大きな変化です。つまり、郵送から脱却したのです。これは、コスト削減効果はもとより、顧客アプローチの精度を挙げるという点でも革命でした。1990年代に「顧客データの一元化」と「アプローチ手段としてのデジタルメディアの発達」という大きな2つの変革があったのです。今では当たり前の施策と思われますが、当時の初歩的なデジタル変革が、マーケティングの効果・効率を飛躍的に向上させた契機とも言えます。  話しを現在に戻しましょう。顧客の可視化は日進月歩です。ネット上だけでなく、リアル店舗を利用する顧客の行動履歴さえ容易に取得できる時代が近づいています。購買行動だけでなく、検討行動が分かるようになれば、顧客がどこに不満を感じているのか(ペインポイント)、購買には至らなかったがどんなものやサービスを検討しているのか(チャンスポイント)が読み取れるようになります。これらが分かれば、マーケティング施策がさらに高度化します。例えば、事業者がスムーズな買い物導線を築いたと思っていても、実際に顧客は思わぬところで迷っているかもしれません。これがペインです。黒い服しか買っていない顧客が、実は赤や緑の服を見ているかもしれません。これらを把握できれば、顧客のニーズやウォンツを理解するチャンスをつかめます。  DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「デジタル化により、ビジネスモデルや人々の生活を変革すること」です。このようにデジタルの力で「今まで見えなかったことが見えるようになる」、「できなかったことができるようになる」ことでビジネスモデル(≒売り上げ、利益の構築モデル)を変革していく活動がDXです。DX時代の「顧客勘定マーケティング」は、「分析力と実行力の飛躍的向上」によって進化してきましたし、これからも進化します。
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本連載は、日経BPマーケティング刊行の「売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
日経BPマーケティング「売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法」
筆者プロフィール
前田徹哉
慶應義塾大学文学部卒業後、西武百貨店(現そごう・西武)入社。その後PwCコンサルタント(現日本IBM)にて主にB2C領域のマーケティング戦略立案などのコンサルティングに従事した後、スクウェア・エニックスに入社。オンライン事業部長としてECやコミュニティを統括。2011年10月にタワーレコード入社、オンライン事業本部 本部長としてECの統括の任に従事。2019年4月にビービットに入社。SaaSセールスのシニアマネジャーを経て、2021年1月より「QuizKnock」を運営する株式会社batonに参画、マーケティング部 部長。中小企業診断士。

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