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連載

デジタルシフトが企業と顧客との関係を根底から覆す、新たな関係を前提としたマーケティング施策に舵を切れ【ファンをつくる「顧客ロイヤルティ」の極意 Vol.3】

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「デジタルマーケティング」は顧客起点と呼ぶに値する施策なのか。昨今のマーケティング施策の中には、こう異議を唱えたくなるものが少なくありません。なぜでしょうか。腑に落ちないデジタルマーケティング施策が台頭する背景を、マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラーの著書をもとに読み解きます。なお、本連載はリックテレコム『ファンをつくる顧客体験の科学「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』の内容をもとに編集しております。

企業とお客様とのつながり方の変化を読み取る

「顧客」に寄り添うことが求められる近年のマーケティング施策。しかし、実際の施策を読み解くと、「顧客」ではなく「企業」側の視点が見え隠れするものが少なくありません。

そこで前回、近年のマーケティング施策に抱く違和感について触れました。今回は、違和感を解消するヒントとなる、フィリップ・コトラーの著書の内容について詳しく解説します。

①「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」
(発行:2010年9月、出版社:朝日新聞出版)

②「コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則」
(発行:2017年8月、出版社:朝日新聞出版)

③「コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則」
(発行:2020年4月、出版社:朝日新聞出版)

④「コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践」
(発行:2021年9月、出版社:KADOKAWA)

⑤「コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略」
(発行:2022年4月、出版社:朝日新聞出版)

図3-1:フィリップ・コトラーの一連の書籍(出典:リックテレコム『ファンをつくる顧客体験の科学「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』)

筆者の見解では、マーケティングの変革を主張した①「コトラーのマーケティング3.0」は抽象的な内容にとどまります。一方、②「コトラーのマーケティング4.0」は具体的な方法論を交えて分かりやすく解説しています。

③「コトラーのリテール4.0」は、②をリテール業界に適用したもので、抽象的ながらも理解しやすくまとめられています。④「コトラーのH2Hマーケティング」と⑤「コトラーのマーケティング5.0」は、②と③の基本的な考え方を踏襲しつつ、DX やSDGsといった現代のキーワードを使って解説しています。ちなみに、筆者のお勧めは②と③です。

これらのコトラーの著書から、筆者がマーケティングの変遷をまとめたのが図3-2です。

図3-2:マーケティングの変遷(出典:リックテレコム「ファンをつくる顧客体験の科学『顧客ロイヤルティ』丸わかり読本」)

マーケティングのこれまでの変遷を見たとき、もっとも大きな変化を示しているのが「企業」と「お客様」とのつながり方です。テクノロジーの進展とともに、両者のつながり方にも一定の変化が見られます。

分かりやすいのがインターネットの登場です。インターネットが急速に普及したことで企業とお客様の距離は縮まり、1 対1 のコミュニケーションが可能になりました。これにより、企業とお客様との間に「壁」があった「Marketing1.0」から、お客様のプロファイルに合わせたOne to One マーケティングが可能な「Marketing2.0」へ進化したのです。

もっとも、「Marketing1.0」や「Marketing2.0」時代の情報発信者は「企業」である点は変わりません。お客様は情報の“受け手”に過ぎず、両者のつながりに変化は見られませんでした。

しかしその後、マーケティングはさらなるパラダイムシフトを起こします。「SNS」が登場し、「Marketing3.0」が誕生したのです。SNS の普及により、企業とお客様がつながるようになったのです。さらには、お客様同士もつながるようになったのです。

マーケティングは「狩猟型」から「農耕型」に変化

コトラーの言葉を借りると「Marketing1.0」や「Marketing2.0」では、企業とお客様の関係はハンターと獲物の関係でした。しかし「Marketing3.0」では、企業とお客様の関係は共存共栄関係でなくてはならない、と言うのです。

企業が発信する製品・サービスに関する情報はこれまで、企業が圧倒的な情報を保有し、発信する内容の主導権も握っていました。しかしSNS の登場でお客様同士がつながることで、企業とお客様の主従関係は崩壊したのです。企業とお客様は同列な関係へと変わったのです。その結果、マーケティングのアプローチも購入意欲のあるお客様を効率的に見つける手法から、お客様とともに成長する手法に変革することになったのです。

筆者はこの変革を、「狩猟型マーケティング」から「農耕型マーケティング」への変革、あるいは「購買者づくりのマーケティング」から「ファンづくりのマーケティング」への変革と名付けました。近年のマーケティングでは、こうした変革が求められるのです。筆者が前回指摘した数々の違和感は、変革していないマーケティング施策によるものだったのです。企業とお客様の関係が「同列」ではなく、「企業主導」による施策から来る違和感だったのです。

なお「Marketing4.0」以降は、スマートフォンの普及やインターネットの高速化、Wi-Fi 技術の普及などにより、企業とお客さまがいつでもどこでも常時つながるようになっています。お客様同士も常時つながる環境になっています。マーケティングのパラダイムシフトにさらに拍車がかかっている状況です。

デジタルマーケティングの本質は、従来のマーケティング手法にデジタル技術を導入することではありません。生活者の急激なデジタルシフトに追随し、マーケティングのやり方そのものを変革することこそが本質です。とりわけスマートフォンやインターネットによっていつでもどこでも誰とでもつながる環境になったことで、マーケティング施策はこれまでにない手法が求められるようになったのです。

「Marketing2.0」までの狩猟型マーケティングにデジタル技術を導入すればデジタルマーケティングと呼べるわけでは決してありません。デジタル技術を導入するのは、変革後の農耕型マーケティングが対象であることを忘れてはなりません。

では現代マーケティングを指す「Marketing4.0」では、企業はお客様をどう解釈し、どうアプローチすべきなのでしょうか。次回は「Marketing4.0」を深堀するとともに、変革することの重要性、顧客体験の重要性について解説します。

著者プロフィール

渡部 弘毅 (わたなべ ひろき)
ISラボ 代表 〈www.is-lab.org
一般社団法人 地域マーケティング経営推進協議会 理事

日本ユニシス(現 BIPROGY)、日本IBM、日本テレネットを経て、2012年にISラボ設立。一貫してCRM分野の営業、商品企画、事業企画、戦略・業務改革コンサルティングに携わる。現在は心理ロイヤルティマネジメントのコンサルティングを中心に活動。お客様の心理ロイヤルティアセスメントに関する独自の方法論を提唱し、ファンづくりの科学的かつ実践的なコンサルティング手法を展開する。業界団体や学術団体での研究活動、啓蒙活動にも積極的に取り組む。

〈著書〉
ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本/リックテレコム(2023/11)
お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング/翔泳社( 2019/12)
営業変革 しくみを変えるとこんなに売れる/メディアセレクト( 2005/1)

本連載は、リックテレコム刊行の『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』の内容を一部編集したものです。

ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本

出版社:リックテレコム
発売:2023年11月27日

<内容紹介>
多くの企業は「ファンづくり」の重要性を認めているものの、日常は「購買者づくり」のマネジメントに終始しています。これはファンづくりの科学的なマネジメントができていないからです。本書では、顧客ロイヤルティの定義からはじまり、構造化、定量化、分析、考察するロイヤルティアセスメント手法を、事例を交えながら解説しています。ファンづくりを、「思いのマネジメント」から「科学的なマネジメント」に変革するための知見が凝縮しています。

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