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背景や根拠を考える

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新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。【DX時代を生き抜く文章術 第13回】は、文章では触れない「背景」や「根拠」をどう考え、活かすかについて紹介します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

 「くじの配布は終了しました」  頑張った自分へのご褒美にスイーツを買おうと思って立ち寄ったコンビニエンスストア。入り口の張り紙を見て買う気がややトーンダウン……。  そんな経験ありませんか。  コンビニ業界のキャンペーンといえば、「おにぎり100円セール」と並んで「700円くじ」が定期的に行われています。くじは1回当たり700円以上買ったら引け、当たればキャンペーン対象商品がもらえます。  でも、なぜ700円以上なのでしょうか。  「セブン‐イレブンの7から来ている」という声が聞こえてきそうです。そういう説もないわけではありませんが、実はコンビニの売り上げと大きく関係しています。  全国に5万5000店を数えるコンビニの1店舗当たりの1日の平均売上高(平均日販)をご存じですか。  2020年度上半期で、最大手のセブン‐イレブン64万1000円。続くファミリーマートが48万8000円、ローソンが48万5000円です。セブンとファミマ、ローソンとの開きは大きいのですが、どのチェーンも1日の来店客数は1000人前後で大きく変わりません。  勘のいい人はお分かりですね。  平均日販を1000人で割れば、1人当たりの買上金額(客単価)が分かります。セブン‐イレブンにとってはもう一品買ってもらうことで、600円台の客単価を700円以上に持っていきたい。ファミマやローソンはセブンの客単価に追いつきたいので、くじが引ける条件を700円以上としているのです。  世の中の物事には、必ず背景や根拠があります。この「背景や根拠」は「ファクト」(客観的な事実)と言い換えられます。  コンビニの700円くじにも、1店舗当たりの売り上げを上げていくため、という背景があるのです。まれに言葉遊びや験ゲ ン担ぎといった場合もありますが、根拠となるファクトがあるのがふつうです。ここでのファクトは600円だったり500円だったりする「客単価」という数字です。数字をベースに、平均客単価を上げる、最大手に追いつき追いこせ、という論理(ロジック)を組み立て、700円以上の買い物客を対象としてくじ引きが企画されたわけです。  目の前に起こっている事実、過去にあった事実を的確に捉え、その上で論理的にメッセージを展開する。  ビジネスにおいて正しい意思決定を促すには、このファクトとロジックの合致は欠かせません。  コンビニの話題をもう1つ。おでんの話です。冬のメニューというイメージが強い商品ですが、コンビニの店頭におでん種が並ぶのは8月末から9月初めです。なぜそんなに早く、と思う人も多いのは当然です。ですが、季節商品は体感温度の微妙な差で、売れ行きがグッと上がったり下がったりするのです。  セブン‐イレブン・ジャパンの数年前の実績でみると、おでんは晩夏から売れ始め、1年間で最も売れるのは9月。月遅れの盆明けから気温が徐々に下がり出し、温かい物を食べたくなる需要が出てくるからだといいます。ちなみに2番目に売れるのは10月。冬場に入ると安定的に売れ続けますが、9~10月に比べると、やや売れ行きは鈍るそうです。  おでんのように、実際に売れる時期と一般的な「旬」の時期が異なる商品は少なくありません。例えば夏場のイメージが強いアイスクリーム。最近の消費者は暖房施設が整った暖かい部屋で冷たいアイスクリームを食べるのを好む傾向があり、実際、プレミアムタイプのアイスクリームの販売ピークは夏場ではなく冬場だそうです。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
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筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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