新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。【DX時代を生き抜く文章術 第17回】は、文章を分かりやすくまとめるときのチェックポイントを確認します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。
1つひとつの文はできるだけ短くしましょう。文が長いと主語と述語の関係が分かりにくくなり、冗長になります。そんなときは必要に応じて文を分けて接続詞でつなぎ、文章全体にメリハリをつけましょう。
内容に間違いがなくても、同じ表現が何度も出てくるとか、句読点が少ないために読みにくければ、いい文章とは言えません。こうした文章は読み手を煩わせ、ときには誤解を生む可能性もあります。
もっとも、キーワードに関しては、同じ文章の中に複数回出てくることはかまいません。むしろそうした方が読み手にきちんと趣旨が伝わります。
文章には、ファクト(客観的事実)と自分の主張・意見(オピニオン)を両方とも載せるケースがあります。そのときは、ファクトとオピニオンをきちんと分けて書く必要があります。
例えば、「なぜなら」といった接続詞があれば、その前に書いてあることはオピニオンで、その後にファクトがくることが予想できます。一般に、接続詞を多用すると読みにくくなりますが、必要に応じてこのような接続詞は使ってもかまいません。どうしてそのように考えたのか、ということについて、きちんと根拠が示されていれば、その文章はより信頼度が高まるからです。
また、OPQA法で説明したように、対立する意見がある場合には、その意見も併記した上で、それに対する自分の考えも書き込めればなおよいでしょう。
それでは、次の練習問題をやってみましょう。
【練習問題】
外食チェーンのM社で今後の成長施策を検討する会議が開かれました。会議で提出された「我が社の今後について」というタイトルの文章があります。この文章をコンパクトに修正してみてください。 【 想定読者=経営幹部 】
【 目的=中期経営計画策定会議のための提案資料 】
「我が社の今後について」
GAFAと呼ばれるIT企業の台頭、デジタル化の進展、少子高齢化による人口減少、新興国の中間所得者層の拡大、日本食ブームが続く中、我が社が今後生き残っていくためには、アジアをはじめとした海外市場に打って出る必要があります。我が社は外食という業種で、これまではボリューム感のあるメニューが支持され、多くの顧客の支持を得て長きにわたり成長してきたが、今後の人口が減少するかもしれない日本においては、成長余地が限られ、同業他社との競合も激しくなる局面にあって、我が社は成長著しいアジアをはじめとした海外マーケットに進出していき、持続的な成長につなげるべきである。海外市場に我が社の生き残りをかけるべきであり、我が社は国内市場を大事にしながら、成長ドライバーを海外マーケットに求めるべきだと思う。 冗長な文章ですね。問題点を順に見ていきましょう。 まず、「GAFAと呼ばれるIT企業の台頭」「デジタル化の進展」ですが、これは外食企である我が社の戦略との関連が不明確です。なんとなく最近の経済情勢を羅列しただけといった感じがあります。M社は内需型企業ですので、人口減少の影響、海外市場の中間所得者層の拡大はわかります。ただ、我が社を取り巻く情勢は、1文目では絞り込んで、第2段落以降で説明する方がスッキリします。1文目も長いのですが、2文目が特に問題です。167字もあり、これが冗長な印象を与えています。「ボリューム感のあるメニューが支持され」、「多くの顧客の支持を得て」と支持が2回出てきたり、内容を詰め込み過ぎたりしています。「我が社」も2回出てきます。2番目の「我が社」は必要ありません。「今後の人口が減少するかもしれない日本」という部分には、日本はすでに人口減少が始まっているため、事実誤認があります。また、「市場」と「マーケット」という言葉が混在していますが、これもどちらかに統一した方がいいでしょう。 最後に国内市場の話が出てきます。海外進出について議論すべき会議の資料としては不要でしょう。また、「です・ます」調と「である」調が混在しています。最後の「思う」という表現もビジネスでは不要です。 書き手と読み手の間である程度の情報共有が進んでいれば、その部分を省略することができます。つまり、書き手と読み手の間の前提条件の確認が必要です。書き手が考えているほど、読み手は時間をかけてきちんと読んでくれるわけではありません。お互いにわかり切っていることは可能な限り省略し、必要なことを過不足なく伝えることが肝心です。 例えば、「我が社は外食という業種」という表現があります。社内会議資料であるなら、いちいち書かなくても読み手はわかっていることが前提になります。当然省略できるわけです。 以上のような点を踏まえると、例文は次のように簡略化できます。 【解答例】
「我が社の海外進出について」
我が社は海外市場に進出すべきです。なぜなら、国内の人口減少が進み、競争が激しくなっていくからです。これまでボリューム感のあるメニューが多くの支持を集めてきました。アジアでは中間所得者層が増えており、彼らの食ニーズを取り込むことで持続的な成長が可能になります。
外食チェーンのM社で今後の成長施策を検討する会議が開かれました。会議で提出された「我が社の今後について」というタイトルの文章があります。この文章をコンパクトに修正してみてください。 【 想定読者=経営幹部 】
【 目的=中期経営計画策定会議のための提案資料 】
「我が社の今後について」
GAFAと呼ばれるIT企業の台頭、デジタル化の進展、少子高齢化による人口減少、新興国の中間所得者層の拡大、日本食ブームが続く中、我が社が今後生き残っていくためには、アジアをはじめとした海外市場に打って出る必要があります。我が社は外食という業種で、これまではボリューム感のあるメニューが支持され、多くの顧客の支持を得て長きにわたり成長してきたが、今後の人口が減少するかもしれない日本においては、成長余地が限られ、同業他社との競合も激しくなる局面にあって、我が社は成長著しいアジアをはじめとした海外マーケットに進出していき、持続的な成長につなげるべきである。海外市場に我が社の生き残りをかけるべきであり、我が社は国内市場を大事にしながら、成長ドライバーを海外マーケットに求めるべきだと思う。 冗長な文章ですね。問題点を順に見ていきましょう。 まず、「GAFAと呼ばれるIT企業の台頭」「デジタル化の進展」ですが、これは外食企である我が社の戦略との関連が不明確です。なんとなく最近の経済情勢を羅列しただけといった感じがあります。M社は内需型企業ですので、人口減少の影響、海外市場の中間所得者層の拡大はわかります。ただ、我が社を取り巻く情勢は、1文目では絞り込んで、第2段落以降で説明する方がスッキリします。1文目も長いのですが、2文目が特に問題です。167字もあり、これが冗長な印象を与えています。「ボリューム感のあるメニューが支持され」、「多くの顧客の支持を得て」と支持が2回出てきたり、内容を詰め込み過ぎたりしています。「我が社」も2回出てきます。2番目の「我が社」は必要ありません。「今後の人口が減少するかもしれない日本」という部分には、日本はすでに人口減少が始まっているため、事実誤認があります。また、「市場」と「マーケット」という言葉が混在していますが、これもどちらかに統一した方がいいでしょう。 最後に国内市場の話が出てきます。海外進出について議論すべき会議の資料としては不要でしょう。また、「です・ます」調と「である」調が混在しています。最後の「思う」という表現もビジネスでは不要です。 書き手と読み手の間である程度の情報共有が進んでいれば、その部分を省略することができます。つまり、書き手と読み手の間の前提条件の確認が必要です。書き手が考えているほど、読み手は時間をかけてきちんと読んでくれるわけではありません。お互いにわかり切っていることは可能な限り省略し、必要なことを過不足なく伝えることが肝心です。 例えば、「我が社は外食という業種」という表現があります。社内会議資料であるなら、いちいち書かなくても読み手はわかっていることが前提になります。当然省略できるわけです。 以上のような点を踏まえると、例文は次のように簡略化できます。 【解答例】
「我が社の海外進出について」
我が社は海外市場に進出すべきです。なぜなら、国内の人口減少が進み、競争が激しくなっていくからです。これまでボリューム感のあるメニューが多くの支持を集めてきました。アジアでは中間所得者層が増えており、彼らの食ニーズを取り込むことで持続的な成長が可能になります。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。