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読み手を想定する

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新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。【DX時代を生き抜く文章術 第10回】は、文章の読み手をどう想定すべきか、読み手に合わせて文章をどう構成すべきかを考えます。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

 文章を書く際には、読み手は誰なのか、読み手は何を求めているのかを想像することが欠かせません。読み手に合わせて書くことで、「伝わる」「説得力が増す」「納得感が高い」文章になります。  ビジネスの世界でも、ターゲットになる顧客を設定し、その顧客に合わせた商品やサービスを開発しようとしています。そうした商品開発は企業にとって生命線です。  しかし、消費者の嗜好やライフスタイルが多様化し、消費動向が読みづらくなっています。  マーケティングの世界では、従来の年齢や地域で区切った顧客分類をターゲットにする方法には限界が来ているともささやかれています。  そこで注目を集めたのが、様々なデータや実際の消費者の声を基に、企業が自ら対象となる顧客像を作り上げる「架空の顧客像(ペルソナ)」です。日本での代表例は、大和ハウス工業が2002年に発売した住宅「EDDIʼs House」の取り組みがあります。  そろそろ住宅を購入しようと考えている、東京・足立区で賃貸マンションに住む会社員の「田崎雄一」さん(33)一家をペルソナに設定。「シンプルモダンとナチュラルを兼ね備えたデザイン」と「家族の気配が感じられる開放的な空間」を両立する住空間をコンセプトに開発したところ、人気商品が誕生しました。この発想は、後継商品にも引き継がれています。  「ペルソナ」はもともと米国の産業デザインやソフトウエアの業界で広まり、1990年代にマーケティングの世界に入ってきました。市場シェアの拡大を目指すマスマーケティングに対し、顧客を囲い込んで「顧客シェア」を最大化するワン・ツー・ワンマーケティングが重視されるに伴い、注目されるようになりました。  具体的につくり込んだ顧客像を想定すると、消費者理解が深まり、実際の顧客ニーズを踏まえた商品・サービスの開発や改良につながるといいます。いわば平均的で八方美人な製品開発や販売促進から脱しようとする試みです。  小売業やサービス業では、POS(販売時点情報管理)や会員カードの普及で購買履歴や顧客属性などのデータ蓄積が進んできました。  しかし、これらは過去の動向を分析するのを容易にしましたが、将来の購買動向を予測するのは難しい。「誰が、何を買ったのか」は分かっても、「なぜ買うのか」「これから何を買うのか」ははっきりしなかったわけです。  「経済(消費)は心理学」とよく言われますが、ライフスタイルや価値観といった消費者の心理学的要素を補う手法がペルソナマーケティングといえます。  ペルソナがすべての商品開発や販促に有効かを疑問視する声もあるのは確かです。裏付けとなるデータを詳細に検討しつつペルソナを設定することが大切。設定後も市場の動きや商品のライフサイクルに合わせて構成要素を柔軟に修正していくメンテナンスも必要になります。  とはいえ、マスのヒットが難しい時代にあって、ニッチ(すき間)のヒットをマスに広げていく試みが欠かせない現在、ペルソナは今後も商品開発の場で有効性を発揮するでしょう。  文章を書くときもペルソナを意識したいものです。 特に企画書や提案書、稟議書、報告書は、読み手が誰なのかを想定しやすいものです。読み手がどんな人で、何が専門で、何が弱いのかなどを探り、その人に合わせた内容や形式を考えましょう。  読み手に寄り添うことが、伝わる文章の「心得」なのです。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
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筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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