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連載

文章構成はサンドイッチ方式で

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新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。【DX時代を生き抜く文章術 第5回】は、文章構成の考え方の1つである「サンドイッチ方式」を紹介します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

 国語の授業では、文章は「起承転結」で書くべきだと習いました。ですが、コラムは決して起承転結にはなっていません。  主張(結論)と主張(結論)で根拠(理由)や事例をはさみ、結論を説明・補強する文章がコラムです。サンドイッチでいうなら、ハムや卵、レタスといった具材が事例や数字(データ)であり、主張(結論)がパン、そしてそれらをつなぐロジックがバターやマーガリンと言っていいかもしれません。  文章講座やプレゼンテーション講座でよく取り上げられるSDS法(Summary=要点 →Details= 詳細 → Summary= 要点)や、PREP法(Point= 結論 → Reason= 理由 →Example 事例 → Point=結論)というテクニックもコラムの書き方の一例です。  SDS法でいえば、1.展示会の出展は中止すべきです → 2.なぜなら新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、展示会には多くの顧客が参加されるからです → 3.早く中止を決定し、参加者に連絡する必要があります──といった具合です。  1つ例文を紹介しましょう。  エスカレーターの片側を空けることには反対です。お年寄りや障がいを持つ方への配慮が必要であり、健常者も含めて誰もが安全で安心できる環境を保つことが重要だと考えるからです。実際にエスカレーターでの事故は多く、私の両親も自分の横を駆上がったり下りたりする人がいるのが不安だと訴えます。  仕事で忙しい人や、急を要する人もいるのは確かです。自分も急いでいるとき、エスカレーターの片側を利用することもないとは言えません。しかし、社会にはルールが必要です。一定のルールに従うことで秩序が保たれ、安全な生活が送れます。  2列で立ち止まって利用するのにも柔軟な運用が必要です。2列並びはラッシュ時には「密」になり、将棋倒しになるリスクもあります。人の流れに応じて社会的距離を保ちながら、片側を空けても「歩かない」方向へ是正することが、社会の安全・安心につながるのではないでしょうか。  上の例文では、まず賛成か反対かの主張を明示しました。そして、〝誰もが安全で安心できる環境を保つことが重要だと考えるから〟と反対の理由を続けるオーソドックスな展開です。自身の両親の不安も紹介し、反対理由に説得性を持たせました。  第2段落で、〝仕事で忙しい人や、急を要する人もいるのは確かです〟と始め、読み手の疑問に答えるよう工夫しています。そして〝柔軟な運用も必要〟とし、主張が独りよがりではないことを示唆して、納得感を醸成するようにしました。  三段落構成のSDS法(Summary=要点 → Details=詳細 → Summary=要点)の典型な文章例です。  次に読者の疑問・反論に先手を打つパターンを説明します。基本は、1.意見 → 2.理由(なぜなら~) → 3.相手の反論予想(確かに~) → 4.反論(しかし~)という流れです。  例えば、1.電話よりメールの方がよい → 2.なぜなら、メールは文字で記録が残るから →3.確かに、電話の場合は声のトーンなどで感情が伝わる → 4.しかし、ビジネスで大切なのは感情豊かに伝えることよりも正確に伝え、その記録を残すことである、といった具合です。SDS法のパターンに、自分の主張への疑問や反対意見を想定し、それに対する回答を入れるわけです。  ポイントは、3.で自説を一方的に主張するのではなく、相手の言い分を受け止める。そして、認めるべき点は認めるという冷静な態度で臨むことです。それでこそ、4.が生きてきます。説得力や納得感が格段に高まるわけです。  反論を入れるパターンを、経営コンサルタントの山崎康司氏は「OPQA法」と説明しています。  1.Objective(望ましい状況)→ 2.Problem(問題、現状とObjective とのギャップ) → 3.Question(読み手の疑問 → 4.Answer(答え/文書の主メッセージ)という流れです。  1.売り上げを増大させる→ 2.売り上げが低迷している → 3.売り上げを増大させるためにどうすればよいか?→ 4.売り上げを増大させるために〇〇を提案する、のように、3.で1.2.の文章や話を読み聞きしている人の疑問を提示し、4.で疑問に答えつつ1.の必要性を強調します。  主張(結論)→ 理由(根拠)→ 事例 → 抑え(反論とそれへの対応)→ 主張(結論)というように、「こうした反論や見方もある」という〝抑え〟を入れると客観性が増します。  これは「両面提示の法則」という、相手を説得する心理テクニックにも通じるものです。一面提示とはメリットになる情報だけを相手に教える方法。両面提示とはメリットだけでなく、デメリットも教えた上で説得する方法です。  相手が自分より立場が上だったり、自分と異なる立場だったりする場合は、プラスの情報だけでなく、マイナスの情報を提供する両面提示でなければなりません。  例えば、小売店で顧客に商品やサービスを売り込むときは、長所やメリットを伝えるのが一般的です。「この商品は性能が抜群で、グッドデザイン賞も受賞しています。しかも今はキャンペーン期間でお求めやすい価格になっています」といった具合に。  この一面提示に対して、両面提示はあえて商品の欠点を提示することで相手の信用を得るテクニックです。両面提示が効果的なのは、相手が対象であるモノに関する知識を持ち、しかも判断力があるときです。その場合は、メリットとデメリットを包み隠さずに伝えた方が、こちらの信用を高められます。相手を合理的に説得したければ、功罪両面を素直に伝えるのがベターです。OPQA法はこの原則を抑えています。  また、メリットとデメリットの間に何らかの因果関係が説明できると、説得力がさらに増します。例えば、「旧モデルだからお安くできます」「機能が限られているので使いやすい」といった論法です。  繰り返しの主張(結論)の前に反論への対応(抑え)を差し込むことで、「独りよがりではない」「いろいろな立場にも目配りしている」と思ってもらえます。読む人に対する説得力が増し、読み手の納得感が高い文章に仕上げられます。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
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筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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