第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が世界の頂点に立ちました。決勝戦では米国代表を3-2で下し、東京開催の1次リーグから一度も負けることなく大会を締めました。
大会を通して感じたのは、日本代表の高いチーム力です。今大会は指揮官である栗山英樹監督を中心に、米大リーグで活躍する投打二刀流の大谷翔平選手ら“史上最強”メンバーが集結。所属球団が異なるのはもとより、実績も年齢も違うさまざまな選手がわずかな準備期間で最高のチームワークを築き上げました。このチームワークが「優勝」という目標達成を大きく後押ししたに違いありません。
チームワークの必要性は、ビジネスにおいても同様です。とりわけDXのような新たなチャレンジは、全社のチームワークを高めなければ決して成功しません。チームワークのない侍ジャパンが優勝できないのと同義です。
例えば、栗山英樹監督が一人で優勝に向かって突き進んでも勝てないでしょう。大谷翔平選手やダルビッシュ有投手のような優れた選手だけが頑張っても勝てません。
DXに置き換えると、経営者が一人で取り組んだって成功しません。DXの知見やノウハウを持つ優秀な人材が努力するだけでも成し得ません。全従業員を巻き込み、全社一丸で取り組むチームワークを築かなければ、DXは成し得ないのです。
ダルビッシュ有投手は今大会を迎えるにあたり、強化合宿初日から参加したといいます。周囲に意気込みを示すとともに、後輩に対して惜しみなくアドバイスする様子が連日、報道されていました。大谷翔平選手もチーム合流とともにメンバーとコミュニケーションを積極的に取り、場を和ませようとする姿が報道されました。さらにメキシコとの準決勝戦では1点ビハインドの9回裏、自ら2塁打を放ち、セカンドベース上で両手を広げてメンバーを鼓舞していました。
チームワークを築くには、誰ともでも何でも話せ、積極的にコミュニケーションを取れる場をつくることが極めて重要です。ダルビッシュ有投手や大谷翔平選手は、まさにその場をつくるために行動していたのです。誰に言われるでもなく、それが自分の役割と感じていたのです。
もっとも、話しやすい場をただつくるだけではチーム力は高まりません。いろいろな経験やスキル、強みを持つメンバーを集めることにも目を向けなければなりません。今回の侍ジャパンで言えば、守備のスペシャリストである源田壮亮選手、走塁のスペシャリストである周東佑京選手のような役割をこなすメンバーがいるかどうかが大切です。DX推進チームであれば、ITに精通する人材を多く集めるだけでは意味がありません。業務や業界に精通する人、さまざまな分野に人脈がある人など、多様な人材でチームを構成することも必要です。
「社内の誰かがDXに取り組んでいる」「DXを推進する部署が新設されたらしい」。こんな受け止め方をする社員が自社にいるうちは、DXの成功は難しいでしょう。全従業員がDXに関心を持ち、自分事として受け止めるようにならなければなりません。そのためには何が必要か。それこそが今回の侍ジャパンが築き上げたチームワークです。優勝を目指してともに戦った姿勢、仲間を思いやる気持ち、何気ないコミュニケーション…。どれを欠いても優勝は成し得なかったのではないでしょうか。今回のWBCで、侍ジャパンはどのようにチームの結束力を高めていったのか。その過程を知ることこそ、自社のDXを推進させる手段となるはずです。
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任