スマートウォッチを腕に巻くのすら面倒、あるいは持っていない――そんな人でも、毎日スマホのロックを解除するだけで、勝手に心臓の健康状態が記録される未来がやってきました。グーグル・リサーチが発表した、あらゆる肌の色に対応し、ウェアラブル並みの精度を誇る「受動的心拍数モニタリング」の驚くべき仕組みに迫ります。
ロック解除の8秒間で心拍を測定、ディープラーニングとrPPGが挑む「肌の色」の壁
Google Research(グーグル・リサーチ)は2026年6月4日、日常的にスマートフォンを使用している最中に、前面カメラで撮影した顔の動画から心拍数(HR)と安静時心拍数(RHR)をバックグラウンドで自動測定する研究システム「PHRM」を発表しました。心血管の健康状態や長期的な健康リスクを示す重要なバイオマーカーであるRHRは、これまでFitbitやPixel Watchなどのウェアラブルデバイスで測定するのが主流でした。しかし、今回の新技術は、ユーザーがスマホの顔認証によるロック解除を行った直後のわずか8秒間の動画クリップを前面カメラでキャプチャし、完全に「受動的(パッシブ)」にバイタルデータを追跡・集約します。これにより、特別なデバイスを所有していない層や、ヘルスケアへのアクセスが限られた地域の人々でも、所有するスマートフォンを通じて高度な健康モニタリングの恩恵を受けられるようになります。
技術的な核心は、カメラを通じて皮膚の血流による光の微小な変動を感知する「遠隔光電容積脈波法(rPPG)」と、計算効率の高い独自の「時間シフト畳み込みニューラルネットワーク(TS-CNN)」の融合にあります。オンデバイス(端末内)で処理されるこのパイプラインは、1日を通じて取得した測定値を信頼度スコアとカルマンフィルターによって統合し、日々の安静時心拍数を推定します。これまでのrPPG技術は、メラニン色素の多い「肌の色の濃い人」においてカメラの信号検出が著しく困難になり、精度が低下するというパルスオキシメータと同様の構造的課題(人種バイアス)を抱えていました。これに対しグーグルは、多様な人種約700人から集めた35万超のビデオクリップを用いてモデルを開発。Monkスキントーンスケールを用いて肌の色の濃い被験者を厚くサンプリングし、肌の色に関わらず平均絶対誤差(MAPE)10%未満という「業界の精度基準」を満たし、さらにFDA(米国食品医薬品局)のガイダンスに沿った多様な肌の色調コホートにおいて高い包括的精度を達成しました。
さらに、被験者が通常通り生活する「自由生活環境」での8日間の実証実験では、既存の主要なrPPGモデル15機種を圧倒する性能を示し、すべての肌の色調でMAPE 10%未満(全体平均6.09%)をクリアした唯一のモデルとなりました。集計された日々のRHR推定値も、Fitbitの最新機種(Charge 6)と比較して誤差が5 bpm未満(平均4.39 bpm)という、ウェアラブルデバイスに匹敵する驚異的な精度を実証しています。このPHRM由来のデータは、参加者のBMIの高さや最大酸素摂取量(VO2max)の低さといった心血管リスクの傾向とも正しく相関していることが確認されました。グーグルは、さらなる研究の民主化と発展を促進するため、スマートフォン動画データセットとしては最大規模となる今回の研究データと、事前学習済みの軽量モデル「PHRM-mini」を、審査を通過した資格のある研究者向けに公開しています。
見解として、ユーザーに「意識的な測定行動」を一切求めず、毎日必ず行う顔認証の裏側で自律的にバイタルを監視するヘルスケアDXは、予防医療の未来を変える極めて強力なアプローチです。 これまで医療機器やセンサーの課題だった「肌の色による精度格差」をディープラーニングと厳格なデータガバナンスで克服し、50億人が持つスマホをそのまま高度な医療スクリーニング端末へと昇華させた点において、歴史的な一歩と言えます。
詳しくは「Google Research」の公式ページまで。 レポート/DXマガジン編集部 戸田





















