AIの進化やDXの加速、サステナビリティをめぐる制度の変化など、ビジネスパーソンに求められる知識は日々アップデートされています。こうした変化の中で、社会人はなぜ仕事を続けながら学び続けるのでしょうか。東京都市大学が展開する「東京都市大学リカレントプログラム」は、大学教員と第一線で活躍する実務家による講義を通じて、社会人に新たな学びの機会を提供しています。DX人材育成やサステナビリティ経営など、現代のビジネス課題に対応したコースを幅広く用意している点も特徴です。今回は、DX人材育成コースを受講した日本政策金融公庫の戸崎泰史氏と、サステナビリティ経営基礎コースを受講した株式会社ニッスイの吉田桂子氏に話を聞きました。
前編では、それぞれ異なる分野で実務を担う二人が、なぜ学びの場を選び、そこで何を得たのかを紹介します。後編では、野城学長と坂井センター長への対談を通じて、東京都市大学がリカレント教育に取り組む背景と、その先に描く大学の未来に迫ります。
DX推進担当は、なぜ学び続けるのか
――戸崎さんは現在、日本政策金融公庫でDXや生成AIの推進を担当されています。東京都市大学のリカレントプログラムを知ったきっかけを教えてください。
戸崎:きっかけは、Facebookで偶然このプログラムを目にしたことでした。もともと社内でも、職員の学び直しやITリテラシー向上を目的とした教育プログラムやリテラシーマップの整備に携わっていたため、どのようなカリキュラムが提供されているのか興味を持ち、説明会に参加しました。
――数ある学びの選択肢の中で、東京都市大学のプログラムを受講しようと決めた理由は何だったのでしょうか。
戸崎:一番の決め手は、実務家による講義とアカデミックな講義のバランスが取れていたことです。DXに関連した講座は数多くありますが、東京都市大学のプログラムでは、学術的な理論を体系的に学べる一方で、企業のDXを現場で牽引してきた実務家から直接話を聞くことができます。この両方を学べる点に大きな魅力を感じました。
また、DXを推進する上で必要となるテーマが幅広く網羅されており、求めていた学びと非常に合致していたことも受講を決めた理由の一つです。

――実際に受講してみて、特に印象に残っている講義や、現在の実務に生かされている学びはありますか。
戸崎:印象に残っている講義は本当にたくさんあります。実務家による組織変革の講義では、変革を進めるためには、リーダーシップだけでなく、人材のあり方や組織づくりが不可欠であることを改めて認識しました。また、別の実務家による講義では、少人数の開発体制でSaaSを効果的に活用し、システムを構築していく具体的なアプローチが参考になりました。
大学教員による講義では、業務プロセスの仕組み化や共通化について学びました。私たちが現在取り組んでいる、複数事業にまたがる業務刷新のプロジェクトと重なる部分も多く、業務プロセスの分解方法やトリガーの考え方など、実務に直結する知見を得ることができました。
さらに、セキュリティ分野の講義では、現在の暗号技術や量子コンピューターの動向について理解を深めました。技術そのものだけでなく、その背景や今後の変化を捉える上でも有意義な学びになったと感じています。
――DXや生成AIが急速に普及する中で、新しいテクノロジーや変革に対して、どのような姿勢で向き合うべきだと考えていますか。
戸崎:前提として、AIをはじめとするデジタルツールは、あくまで変革を実現するための「手段」です。本当に重要なのは、それらを活用して業務やサービス、働き方をどのように変革できるかということだと思います。
一方で、人は本質的に変化を好まないものです。DXを推進する上で最大の壁は、「変わりたくない」という人の心理にどう向き合うかにあります。だからこそ、単なるIT化で終わらせるのではなく、業務や組織そのものを変えることにこだわり続ける必要があると考えています。
――最後に、学び直しに一歩踏み出せずにいるビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
戸崎:まずは一歩踏み出してみることが大切だと思います。実際に受講してみることで、自分が何を理解できていなかったのかが見えてきますし、自分の知識がいつの間にか古くなっていることにも気づけます。「分からないことが分かる」。そこにこそ、学び続ける意味があるのではないでしょうか。
サステナビリティ担当は、なぜ学び続けるのか
――吉田さんは、東京都市大学リカレントプログラムの「サステナビリティ経営基礎コース」を受講されました。その背景について教えてください。
吉田:執行役員に就任し、サステナビリティ推進部の管掌も兼務することになりました。しかし、それまで私はサステナビリティ関連業務を担当した経験がありませんでした。企業を取り巻くサステナビリティ関連の制度や情報開示の分野は専門用語も多く、法改正や情報開示のルールも絶えず変わっていきます。特にグローバルに事業を展開する当社にとっては、欧州をはじめとする海外の制度動向を理解することが欠かせません。
部署のメンバーに教えてもらいながらeラーニングも受講しましたが、アルファベットの略語が数多く登場し、それが規制の名称なのか、団体名なのか、それとも開示基準なのかさえ最初は分からず、とても苦労しました。管掌役員として個々の実務だけでなく、企業経営におけるサステナビリティ全体の考え方を体系的に理解したい。その思いが受講のきっかけになりました。
――数あるプログラムの中から、東京都市大学を選ばれた理由を教えてください。
吉田:最初から高度なサステナビリティ戦略や経営視点を学ぶのではなく、まずは基礎をしっかり身につけたいと考えていました。その中で、コース名に「基礎」という言葉が入っていたことに惹かれました。幅広いテーマを体系的に学べるカリキュラムで、ちょうど受講を始めやすいタイミングだったことも理由の一つです。
さらに、「これだけ充実した対面授業を受けられるのに、この受講料で本当にいいのだろうか」と驚いたことも印象に残っています。
また、調べていくうちに、私が卒業した東横学園女子短期大学が現在の東京都市大学につながっていることを知りました。不思議なご縁を感じ、「ここで学ぼう」と迷わず決めました。

――実際に講義を受けてみて、印象に残っていることや気づきはありましたか。
吉田:まず印象的だったのは、講師の方が本当に楽しそうに講義をされていたことです。サステナビリティ経営は制度や専門用語も多く、ともすると義務的に捉えられがちなテーマですが、それをこれほど楽しそうに語れるのはなぜだろうと、初回の講義から一気に引き込まれました。
また想像していた以上に幅広い年代の方が受講しており、経営者や個人事業主など、さまざまな立場の受講者が集まっていました。普段の仕事では出会うことの少ない、多様なバックグラウンドを持つ方々と交流できたことも、大きな刺激になりました。
――体系的に基礎を学んだことで、実際の業務にはどのような変化がありましたか。
吉田:当社では、プラスチック削減やフードロス対策、欧州をはじめとする海外の情報開示への対応など、幅広いテーマに取り組んでいます。管掌役員として適切な判断を行うためには、それぞれの取組の背景や全体像を理解することが不可欠でした。講義を受けたことで、それまで理解できなかった専門用語や、サステナビリティ経営の基本的な考え方が少しずつ整理できるようになりました。
私は、一つひとつの知識を積み重ねるよりも、まず全体像を把握したいタイプです。体系的に学んでおくことで、実務に戻った際にも、「今取り組んでいる仕事が全体の中でどこに位置づけられるのか」を理解しやすくなったと感じています。
――吉田さんにとって、「学ぶこと」や「キャリアを築くこと」はどのような意味を持っていますか。
吉田:実は私は、「将来はこうなりたい」「この仕事をしたい」と明確なキャリアプランを描いてきたタイプではありません。どちらかというと、与えられた役割をきちんと果たすために、その時に必要なことを学ぶという考え方です。
今回も、サステナビリティ推進部を管掌することになったからこそ、その役割を果たすために最も理解を深められる方法として、東京都市大学のプログラムを選びました。
学びは、自分自身が必要だと感じなければ身につきにくいものだと思います。やってみたいと思うのであれば、まず挑戦してみればいい。選択肢が多い時代だからこそ、自分で選び、自分で学ぶことが大切なのだと思います。
異なる分野で働く二人に共通していたこと
戸崎さんと吉田さんは、業界も担当する領域も異なります。受講したコースも、DX人材育成コースとサステナビリティ経営基礎コースという、それぞれ異なる内容でした。それでも、二人が学びの場へ足を運んだ出発点には、共通して「目の前の仕事」がありました。
戸崎さんは、自社でDX人材の育成やITリテラシー向上に取り組む中で、DXに必要な知識や考え方を体系的に学びたいと考えました。一方の吉田さんは、新たに担当することになったサステナビリティ領域について、専門用語だけを個別に覚えるのではなく、基礎から体系的に理解したいという思いから受講を決めました。
二人に共通していたのは、「学ぶこと」そのものを目的としていたわけではないという点です。学んだ内容を日々の業務に持ち帰り、今の仕事をより深く理解し、その先の判断や行動へ生かそうとしていました。また二人の言葉からは、学びを一度きりのものとは捉えていない姿勢も伝わってきます。
戸崎さんは、「受講することで、自分が何を分かっていないのかが見えてくる」と語りました。吉田さんも、変化する環境の中では、その時々に必要な学びを自ら選び続けることが重要だと話しています。
必要な知識を身につけるだけではなく、社会や仕事の変化に合わせて、自らの理解や視点を更新し続けること。その姿勢こそが、二人が学び続ける理由なのではないでしょうか。
【編集後記】
「リカレント教育」という言葉からは、一度学んだことをもう一度学び直すイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし戸崎さんと吉田さんへの取材を通じて見えてきたのは、一度学び直して終わるのではなく、仕事や社会の変化に合わせて、必要な知識や視点を更新し続ける姿でした。DXや生成AI、サステナビリティを取り巻く環境は、今この瞬間も大きく変化しています。これまで身につけた知識だけでは判断が難しい場面も増える中、学ぶことは新しい仕事に挑戦するためだけではなく、今の仕事と向き合い続けるためにも欠かせないものになっているのではないでしょうか。では東京都市大学は、なぜ社会人に向けてこのような学びの場を提供しているのでしょうか。後編では、野城学長と坂井センター長への対談を通して、社会の変化に対する大学の問題意識と、東京都市大学だからこそ実現できるリカレント教育の価値に迫ります。
【関連リンク】
東京都市大学リカレントプログラム
https://shibuya-pxu.tcu.ac.jp/recurrent-program/






















