困難なプロジェクトを成功へ導くには何が必要か。とりわけ求められるのは、プロジェクトを先導するリーダーの姿勢です。リーダーはどんな姿勢を示すべきか。どんな思いでプロジェクトに臨み、周囲をどう巻き込むべきか。プロジェクトを成功させるために必要なリーダーの素養を考えます。【週刊SUZUKI #20】
プロジェクト成功には何が必要か。それは、プロジェクトを先導するリーダーの覚悟です。リーダーは先が見えない中でも先頭を走り続けなければなりません。目標に向けてチームを鼓舞し続けなければなりません。覚悟なしにこれらを実行するなんて到底できないのです。
リーダーの中には、関係者の意見を聞いて調整するのが役割と考える人が少なくありません。経営者や上司、現場、他部署、取引先などの要望や反論。これらをまとめることに心血を注ぐケースが見られます。しかし、これは間違いです。多くの人の意見を反映しようとすると、落としどころが“最大公約数”に陥りがちです。これでは目標とはかけ離れた成果物しか作り出せず、プロジェクトは失敗に終わります。
多くの人の意見を聞いたとき、リーダーが果たすべき役割は「調整」ではなく「説得」です。人の意見を周囲にただ伝える“伝書鳩”になるべきではありません。リーダーに求められるのは、「かくあるべき」というビジョンであり、先頭に立つ姿勢です。プロジェクトのゴールを自ら描き、そのイメージをプロジェクトメンバーに周知させることが大切です。
意見を調整するだけの人はリーダーではありません。マネージャーです。リーダーはビジョンに向かって先頭に立ち、推進する人を指します。これに対しマネージャーは、決まったルールを守らせるのが主な役割です。リーダーとマネージャーは混同されがちですが、両者の役割は大きく異なります。プロジェクトの責任者は単なる調整役には務まりません。意見をまとめ、全員で同じ方向へ突き進むよう説得するコミュニケーション力が求められるのです。
ゴールすることが自社にとってどれだけ重要か。どんな効果を見込めるのか。自社が今後、どう生まれ変わるのか。これらを説明し、周囲を納得させるのがリーダーの役割です。ただし、独りよがりの姿勢は禁物です。上司や現場、取引先などの立場になってプロジェクトを俯瞰し、周囲の理解を得ながら進めることが大切です。
私はかつて、システム導入などのさまざまなプロジェクトリーダーを務めてきました。「必ず成功させる」と強い覚悟を持ち、失敗したら私が責任を負うつもりで臨んでいました。実際に覚悟を決める意味で、いつも懐に忍ばせていたものもあります。辞表です。誰かに見せるわけでもなく、リーダーを投げ出す意味でもありませんが、「強い覚悟で臨むんだ」という思いでプロジェクトに向き合っていました。
DX推進や新規事業開発などのプロジェクトは先がまったく見えません。容易に予想すらできません。こうした状況では過去の成功体験やノウハウは必ずしも通用しないし、重要でもありません。大切なのは、先が見えなくてもアクセルを踏み続ける覚悟です。リーダーはその姿勢を全面に打ち出し、ゴールを目指すべきです。その溢れる思いがきっとチームを動かします。関係者の気持ちを1つにまとめ、プロジェクトを成功へと導きます。これらは覚悟を決めたリーダーにしか成し得ないのです。
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任