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コラム

ユーザー/システム会社の関係改善がDXには不可欠

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 企業にとって欠かせない役割を果たすITシステム。その目的がDX時代では変わりつつあります。これまでのITシステムと言えば、業務の効率化や省力化が目的でした。多くの企業が業務の無駄を洗い出し、非効率な業務を改善するのに用いてきました。
 しかしDX時代のITシステムには、収益に直結する既存ビジネスに新たな価値を付与することが求められます。新規ビジネスを下支えすることも求められます。DXによる変革をサポートする役割を担わなければならなくなっているのです。
 もっとも、今なお効率化や省力化といった目的でITシステムを導入するケースが少なくありません。なぜでしょうか。理由の1つが、ユーザー会社とシステム会社の関係が、従来のままであることが挙げられます。
 これまでのユーザー会社とシステム会社は、ユーザー会社の業務効率化をともに目指す関係でした。システム会社は効率化を成し遂げるITシステムを開発すべく、どんなITシステムにすべきかを要件定義で固めてきました。そんな双方の関係が、DX時代も踏襲されているのです。
 ITシステムの目的が変われば、ユーザー会社とシステム会社の関係も変わります。開発するシステムの要件を定義する、という従来の取り組みを続けるだけではDXは成し得ません。ビジネスに価値をもたらす、もしくは新規ビジネスを創出するといったITシステムの目的を果たす関係が強く望まれます。
 そのためにはユーザー会社、システム会社ともに変革を主導できるX(変革)人材が必要です。既存ビジネスをITでどう変えるか、ITを使ってどんな新規事業を創出するかといったアイデアを生み出す人材を、双方とも育成、もしくは採用することが大切です。特にシステム会社は、ユーザー会社のX(変革)人材育成を支援する立場になるべきです。
 ユーザー会社であれば自社の未来のビジネスをデザインし、システム会社であればユーザー会社のこうした取り組みをサポートすることが望まれます。双方が自社の成すべきことを明確にし、ITシステムをビジネスにどう組み合わすかを一緒に模索する関係へとシフトすべきです。
 このとき大切なのが、ユーザー会社とシステム会社双方の意識改革です。これまでの延長線上の取り組みではDXは成功しないことを認識すべきです。新たな価値やビジネスを生み出すという共通の考え方で協力していかなければなりません。変革することを前提とした意識にシフトすることが不可欠です。双方に歩み寄る姿勢も大切です。ユーザー会社、システム会社それぞれの立場を理解し、相手を思いやる素地を築くべきです。こうした環境が新たなアイデアを育むのです。
図1:ユーザー会社とシステム会社の意識改革なしにDXは...

図1:ユーザー会社とシステム会社の意識改革なしにDXは成功しない

 日本に限ると、ユーザー会社とシステム会社の間で人材が流動しないことも、双方の関係に少なからず影響していると考えます。海外では、システム開発などに携わったエンジニアがユーザー会社に転職することが珍しくありません。多くのエンジニアがユーザー会社で経験を積み、スキルアップしていくケースが目立ちます。しかし日本の場合、ユーザー会社からユーザー会社に、システム会社からシステム会社に転職するのが一般的です。これまではこうしたキャリアアップで十分だったかもしれません。しかしDX時代は、こうした転職によるキャリアアップだけでは不十分です。さまざまな立場、環境で新しい仕事に取り組み続けなければ、X(変革)人材としての素養は育まれないでしょう。
 今後は、システム会社からユーザー会社に移りやすい転職市場であってほしいと願います。そのためには、エンジニアを受け入れるユーザー会社の待遇改善も必要です。エンジニアに対する給与や評価制度をきちんと整備し、ユーザー会社でのエンジニアの地位を確立することが大切です。一方、ユーザー会社に転職するエンジニアは、情報システム部門の部屋にひきこまらず、他の部署や業務もしっかり学ぶべきです。小売業に転職したのであれば店舗で接客し、顧客の声を聞いてみるのもいいでしょう。自身の仕事と直接関係ないように思えるこうした経験が、DX時代では自身の大きな糧となるのです。
 変革は、複数の要素を組み合わすことで生まれます。いわば掛け算の取り組みです。1つの業務や業界しか経験してこなかった人は、何を組み合わせばいいのかが分からずアイデアを生み出せません。これからは、掛け算による可能性を常に模索できるX(変革)人材こそ必要です。効率化や省力化にとどまらないITシステムの新たな可能性を導き出せるかどうかもX(変革)人材次第です。ユーザー会社とシステム会社も、双方のX(変革)人材が意見を出し合ってアイデアを生み出せる関係であるべきです。ITシステムに関わる取引先との関係を今一度、見直してみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール

筆者プロフィール

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任
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