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総編集長コラム

2022.12.12

【小売業の可能性を解き放て! X人材を育成するTOC入門 Vol.3】デジタル人材育成の罠 「D」と「X」どちらが大事?(前編)

DX推進のカギを握る人材育成。多くの企業が育成に乗り出すも、DX成功に結びついているとは必ずしも言えないようです。企業が取り組む人材育成の何が間違いなのか。日本の小売業のDXに精通するデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏(元セブン&アイ・ホールディングス CIO)と、全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraints)を駆使し、グローバルにDXの最前線で活躍するゴールドラット・ジャパンCEOの岸良裕司氏が人材育成の本質を議論します。

D(デジタル)ではなくX(変革)人材を育成せよ

岸良:今回は「人材」について議論したいと思います。ここ最近、多くの企業が人材育成に頭を悩ませています。どう育てればいいのか。どんなスキルを身に付けさせるべきか。DXを推進する企業においては、どれだけデジタル人材を社内に抱えるか。ITに精通する人材を育成し、DXを推進する体制を構築しようと考える企業が目立ちます。

 しかし、ちょっと待ってください。デジタル人材を育てれば本当にDXは成功するのでしょうか。DXの「X」、つまり「変革人材」も必要ですよね。DXにはDだけでなく、Xが付いていることを忘れている企業が多いのではないでしょうか。

鈴木:その通りです。DXはなぜかデジタルばかり誇張されていると感じます。「システムをクラウド化すればDX」、そんな風潮が目に余ります。こう考える経営者も今なお多いですね。そんなことは決してありません。DXを成功させるには、D(デジタル)に精通する人材とX(変革)に精通する人材の双方が必要です。だが現状、X人材の必要性を訴える企業はほぼ皆無に感じます。

 多くの企業が「IT偏重」の人材育成に取り組んでいます。特に次の取り組みを打ち出す企業が目立ちます。
・外部人材をヘッドハンティング(システム会社からIT人材を獲得)
・理系新卒を高額で採用(IT人材の卵を獲得)
・社内で人材教育を開始(IT教育を強化)
・社員を外部教育機関でデジタル教育(IT知識の習得)
・システム会社から人材を派遣(IT人材を確保)

 変革を支援する取り組みが1つも見当たりませんよね。これらの取り組みでDXが成功するとは到底思えません。

岸良:DXに取り組む企業に「DとX、どちらが大切ですか?」と今一度問うことが大事だと思います。DXを議論するとき、大前提となるこの問いが抜けているのではないでしょうか。デジタル人材と変革人材、どちらが大切なのかを改めて考えてほしいです。

 この問いに答えるときに考えなければならないのは、デジタル人材だけでは変革はできないということです。ITやデジタルにいくら精通していても、自社の業務や事業を変革できるわけではありません。

 特に小売業は、既成概念を打ち破るゲームチェンジャーが常に現れる業界です。しかも競争はますますグローバルに広がっている。X(変革)なしには生き残れないのが小売業の現実であるのは今さら言うまでもないですよね。

鈴木:私もまったく同意です。私はコンサルティングという立場を通じ、いろいろな企業の実態を見ています。多くの経営者が、「ITに詳しい人材がいない」「デジタルを苦手する社員が多い」など、ITやデジタルに関わる課題ばかりにとらわれ、これら課題がDXを進められない原因だと考えています。一方で、もしITやデジタルで自社を武装したとき、どんな新規事業を起こすのか、どんな企業に生まれ変わるのかといったビジョンが曖昧、もしくはまったく持ち合わせていない経営者も多いですね。最終的にどうありたいのか、どうなりたいのかといったゴールを見据えずにDXをスタートしたって成功するわけありません。

岸良: その通りです。多くの企業が、「DX」という言葉の本質を理解していないと感じます。自社の変革こそ目的であり、ゴールのはずです。そのために欠かせないのは、変革を進められる人材の育成です。「変革人材」ってあまり聞きなれない言葉ですが、経営者は変革人材の必要性を認め、変革人材の育成に真剣に向き合わなければいけません。

D人材、X人材もすでにいる!

岸良:ある企業の経営者から、「40代や50代がDXのお荷物になっている。デジタルリテラシーが低く、この世代のデジタル化が課題だ」という相談を受けました。そこで私は、「DとX、どちらが大事だとお考えですか?」と質問したら、経営者は改めて気づいたんです。Xの方がはるかに大事で、Dはその手段に過ぎないと…。そこでさらに私は経営者に対し、「問題となっている40代や50代の方々をX人材、つまり変革人材と考えるとどうでしょうか?」と質問しました。すると、「現在の40代や50代はまさに経営の中心を担う世代です。厳しい市場競争の中でも勝ち残るために、さまざまな変革に取り組んできた経験を持っている。これこそまさにX人材ですね。なるほどー! 彼らこそわが社の『人材』どころか『人財』なんですね!」と、180度見方を変えたんです。自社のお荷物と思っていた人材が「お宝」だと気づいたわけです。その後、その企業はデジタル人材教育から変革人材教育に舵を切ったのです。目覚ましい成果を次々と上げ、業界のモデルとも言われるように成長しています。

鈴木:デジタル人材が枯渇しているとよく言われますが、すでに十分なのではと感じます。特に最近は、プログラミングを理解せずにアプリを開発できるノーコードツールが台頭しつつあります。ノーコードツールを使いこなせればプログラミングスキルを習得する必要はありません。業務を理解し、必要なアプリをノーコードで開発できる人はデジタル人材と十分呼べるのではないでしょうか。

 デジタルネイティブ世代もいよいよ業務に実践投入されつつあります。私は以前、ある大学で学生向けに講演しました。このときの学生の多くがデータサイエンティスト志望でした。大学もデータサイエンティストの育成に注力していたのです。今後はデータサイエンスという領域に限らず、システム開発やデジタルマーケティングなどのさまざまな領域で戦力となるデジタル人材が多数輩出されることでしょう。

 ただし繰り返しになりますが、デジタル人材だけでは自社の変革を主導することはできません。例えばデータサイエンティストの多くがデータの傾向や相関に気づけても、仮説を立てるのを苦手にしています。どんな施策に打って出れば数値がこれだけ改善するといった仮説を立てられないのです。データを眺めるだけのデータサイエンティストは変革の戦力にはなりません。

岸良:仮説に基づくアクションを繰り返し実施してきた企業と言えば、やはりセブン-イレブンでしょうね。創業者である鈴木敏文氏は、仮説を立てる力「仮説力」を養うことの重要性を社員にひらすら説いていたと言います。

鈴木:その通りです。私がセブン&アイ ホールディングスに在籍していたとき、変化にどう対応するのかを何度も指摘されたと記憶します。特に小売業の場合、消費者ニーズの変化が売上に直結します。変化に迅速に追随しなければ売上がすぐ減ってしまうのです。これだけシビアな業界では、常に変化することが求められます。「こんな施策を実施すれば来店者一人あたりの購入単価を引き上げられる」「こんな商品を拡充させれば特定層の顧客ニーズを満たせられる」といったような仮説を常に考え、その結果をデータで検証する。こうしたアクションを継続して実施することで変革の糸口を探っていたのです。仮説力を養い、持ち合わせている人こそ変革人材と呼べるのではないでしょうか。さらに言えば、考えたことを実践する行動力も必要です。
岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

1959年生まれ。ゴールドラットジャパンCEO。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践。活動成果の1つとして発表された「三方良しの公共事業改革」はゴールドラット博士の絶賛を浴び、2007年4月に国策として正式に採用された。成果の数々は国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。2008年4月、ゴールドラット博士に請われてゴールドラットコンサルティング(現ゴールドラット)ディレクターに就任し、日本代表となる。
鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一...

鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一般社団法人日本オムニチャネル協会 会長

1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 1999年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年同社取締役執行役員CIO就任。 2016年同社を退社し、2017年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。
DXマガジン編集部編集後記
 DXのゴールは「変革」を成し遂げること。そのための手段がデジタルで、多くの企業がデジタルを使いこなす人材育成に乗り出しています。しかし、デジタル人材を育成した後のビジョンを持たず、とりあえずデジタル人材の育成に取り組む企業が目立ちます。

これはIT導入も同じです。IT導入が目的化し、問題なく稼働したらプロジェクト完了と捉える企業は少なくありません。大切なのは、ITを使って業務をどう変えるのか。売上をどう伸ばすのかなどの目的、つまりゴールです。ITツールの稼働はスタートに過ぎません。その後の取り組みこそ重要で、業務を少しずつでも改善することに目を向けるべきです。変革人材は、まさにスタートしてからゴールへ到達するまでの過程を主導する人です。デジタル人材育成やIT導入プロジェクトはスタート前の準備に過ぎないのです。今回の対談を通じ、デジタル人材を育成するだけで満足しないことが大切だと痛感しました。

 次回は、小売業で求められる変革人材にフォーカスします。消費者ニーズへの対応や在庫の適正化、さらにはオムニチャネルが進む中、変革人材として備える素養やスキルを岸良氏と鈴木氏に考察していただきます。ぜひお楽しみください。
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