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コラム

利害を異にする相手との交渉術、「YES」を引き出す極意とは?

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 企業にとってDXは一大プロジェクトです。全社を巻き込み、経営者主導で臨まなければゴールにたどり着きません。部署や組織といった壁も取り払い、利害を超えて取り組む姿勢も不可欠です。もっとも壁を超えるには、現実問題として他部署との交渉や調整は避けられません。利害を異にする相手であっても、了承を得られるように話し合いを進めなければなりません。部署同士の利害が対立し続ければ、DX推進プロジェクトは失速します。
 では相手に「YES」と言わせるには何が必要か。大切なのは、相手の立場になることです。DX推進プロジェクトをどう捉えているのか、何に不満があるのか、どうしたいのかなどを探ることが必要です。
 年代が異なる幹部との話し合いなら、相手がどういう時代背景で生きてきたのかを考えるべきです。
 私がセブン&アイ ホールディングスでオムニチャネル戦略を推進していたときの話です。伊藤雅俊名誉会長にオムニチャネルの必要性を説明する際、私は「名誉会長は戦争に行かれていましたよね。日本はどうして負けたのでしょうか」と、オムニチャネルとは関係ない話題で斬り込みました。すると伊藤名誉会長は「情報戦と空中戦だ」と答えます。
 この答えを受けて私は、「インターネットが普及した現代も、情報戦と空中戦が繰り広げられています。情報は瞬時に伝わるようになります。地球の裏側の情報さえ知り得る状況は、まさに空中戦のようです」と、インターネットの現状を戦争に置き換えて説明しました。さらに、敗戦の要因は空母にもあるという伊藤名誉会長の言葉に対し、「私が推進するオムニチャネルは、まさに空母を建造するのと同義です」と答えたのです。
 「鈴木の言っていること、分かりやすいな」。伊藤名誉会長はこう言ってくださり、オムニチャネル戦略をより加速させられるようになったのです。
 ITに詳しい人と詳しくない人との話し合いでも同じことが言えます。ITに精通する人は、IT業界で当たり前のように使われる用語を並べがちです。しかし、ITに詳しくない人には理解できません。もし、是が非でも相手に「YES」と言わせたいのに言葉を理解できない状況なら、その話し合いは決裂します。
 相手が理解できる言葉を選ぶことも大切です。どんなに的確で的を射た説明でも、相手が難しいと感じ取った瞬間、相手の気持ちはシャットダウンされるでしょう。話し合いに臨むなら、シャットダウンさせないような言葉を使い続けるセンスが必要です。
 相手にとっての価値を引き上げるのもポイントです。例えばDX推進が自部署に害しかないと考える担当者に対し、実は価値があると丁寧に説明することも必要です。デメリットしか見込めないDX推進プロジェクトに価値を見い出せれば、話し合いによる合意も十分可能です。
 このとき目を向けるのは、相手にとっての価値です。例えば営業担当者は商談の場で、自社商品の優位性や利便性、価格の安さなどを訴求しがちです。しかしこれらが顧客の価値につながるとは必ずしも言えません。相手がその商品を使うことでどんなメリットを見込めるのか、相手はその商品をどんな用途で使えるのかなどを説明し、相手が価値を見い出せるようにすることが大切です。相手の想定を何十倍、何百倍も上回る価値を提案すれば、相手から「YES」を引き出せます。
 ただし、人によって価値は異なります。話し合いの中で、相手の琴線に触れる価値を探り続けることも必要です。独りよがりの説明に走らず、常に相手の反応を窺うようにします。
 相手の了承が求められる話し合いは、部署間の交渉にとどまりません。顧客との商談はもちろん、取引先やグループ会社などとの交渉も含め、さまざまなシーンがあります。どの場面でも共通して必要なのは、相手を思いやる姿勢であり、相手を理解する思考です。これらが抜け落ちた話し合いでは、望ましい結果を得られません。相手の立場や価値を見失わない。話し合いに臨むときは念頭に置くべきです。
筆者プロフィール

筆者プロフィール

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任
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