日本オムニチャネル協会は2023年10月、海外視察ツアーを実施しました。協会主催の海外視察ツアーは、昨年の米国視察に続いて2度目。今年は10月13日から10月17日まで、タイとシンガポールの2カ国を視察しました。タイ・バンコクの様子を紹介した前回(前編)に続き、今回はシンガポールを視察した様子を紹介します。海外視察ツアー参加者の感想も合わせて紹介します。
【筆者】
逸見光次郎
日本オムニチャネル協会 理事
APACの拠点シンガポール
今回の海外視察ツアーはタイとシンガポールの2カ国を訪問しました。タイに続いて訪れたシンガポールには、10月15日の夜にタイから移動し、10月16日と17日の2日間滞在しました。
私自身は新型コロナウイルス感染症がまん延する以前に視察しており、今回はシンガポールの中心部を視察しました。メインストリートとなるORCHARD STREET(オーチャードストリート)を中心に、FairPrice(フェアプライス)、ColdStorage(コールドストレージ)、Marks&Spencer(マークス&スペンサー)などといった現地企業が展開する店舗を視察。さらに、PARCOのITADAKIMASU(イタダキマス)、ニトリ、ノジマ、高島屋などの日本企業の店舗も視察しました。国民一人当たりのGDPが日本の1.8倍になるAPACの拠点都市だけあって、高級感が漂う安定した施設が目立ちました。
写真1:FairPrice(フェアプライス)の様子
写真2:ColdStorage(コールドストレージ)の様子
写真3:パルコにあるITADAKIMASU(イタダキマス)の様子
写真4(左):ノジマの店内の様子
写真5(右):高島屋の店内の様子
店舗を視察して印象的だったのは、日本オムニチャネル協会の会員企業であるAdyen社の決済サービスを導入するSEPHORA(セフォラ)。スマートフォンをレジ代わりに決済できる仕組みを活用していました。そのほかにもSingaporeZooなど、ユニークな取り組みを打ち出す施設が目立ちました。
写真6:SEPHORA(セフォラ)のスマートフォンを活用した決済サービスの画面
一方、Changi(チャンギ)空港の商業施設TheJEWEL(ジュエル)は、空港施設としての利便性を備えるのはもちろん、滞在型の商業施設として観光客に楽しんでもらうさまざまな工夫を施していました。
写真7(左):Changi(チャンギ)空港内にある商業施設TheJEWEL(ジュエル)の様子
写真8(右):チャンギ空港屋内にある有名な人工の滝。高さは40メートに及ぶ
とりわけ私が感じたのは、DX推進は進めながら学んでいくという印象です。とかく事前説明や稟議などの社内ルールに追われてスピードが遅くなる日本企業より、積極的で行動的な印象を受けました。
現地と訪日客をターゲットに展開するドンドンドンキ
シンガポールでは日本企業の躍進も目を引きます。例えば、タイでもシンガポールでも現地の人に人気なのがドン・キホーテです。アジアではDONDONDONKI(ドンドンドンキ)の名で親しまれています。コロナ前に見たときは高級食品スーパーのような店内でしたが、今回訪れると、タイとシンガポールの店舗とも日本で馴染みのPOPを豊富に使用していました。同一商品をエンド台に積み上げたり、圧縮陳列したりといった日本店ならではの光景が目につきました。現地の人に話を聞くと、円安の影響で日本を旅行し、日本のドン・キホーテで買い物を体験した人が、帰国後も日本の店舗の雰囲気を要望したことからコンセプトが変わったのではとのことでした。
実際にDONDONDONKIを運営するPPIH(パンパシフィックホールディングス)の決算報告では、アジア事業の収益が改善しています。2024年には10店舗の新規出店を準備しているとのことでした。国内の訪日客対応を考える企業は多いものの、訪日客が帰国後もきちんとつながり続けようとする同社の戦略は、確実に成果を出していると考えられます。
写真9(左):ドン・キホーテの店内の様子。日本同様、目を引くPOPが配置されている
写真10(中央):値札には日本語はもちろん、「日本品質」の文字も
写真11(左):ドン・キホーテの外観。「DONDONDONKI」の店名が目立つ
旅を共にした仲間との振り返り
今回の海外視察ツアーレポート(前編)の冒頭でも触れましたが、今回の視察の目的は現地で体験すること、さらに同行する参加者たちと交わって深く学び合うことです。実際に自分で見たものを仲間と共有することで、さまざまな視点、さまざまな気付きを得られました。
2024年は日本オムニチャネル協会として、第1回NRF APACを後援する予定です。そのため、アジアを再訪する機会があります。日本オムニチャネル協会ではより多くの方々に参加してもらい、さらなる学びを共有できたらと考えております。
最後に今回の海外視察ツアーに参加した方々の所感を掲載します。いろいろな感想とともに、大変満足したという声を多数いただきました。タイやシンガポールを視察して何を感じたのか。参加者の生の声も合わせてご覧ください。
合同会社PETS 川上陽平氏
シンガポールはもちろん、タイの街中を見ても、日本では感じ得ない、アジア諸国の発展スピードに驚かされました。一方、少子化や人口減は多くの先進国で持つ課題として改めて認識する機会にもなりました。
スタイルビズ 青山直美氏
10年ぶりのバンコク・シンガポールでしたが、とにかく活気がすばらしかった。特にバンコクの商空間の見事さに息を飲みました。たまたまその前の月、米国のLAを視察しましたが、バンコクから受けた刺激はもっとも大きく、アジアから頭を垂れて学ぶべきと痛感しました。さらに、一緒に学ぶ日本オムニチャネル協会の仲間もすばらしかったです。スケジュールがタイトではありましたが、それだけ充実した視察先を設定いただき、感謝しかありません。同じグループだった方々との忘年会も楽しみです。
なお、今回の海外視察ツアーの様子を日経MJに寄稿させていただきました。合わせてご覧ください。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC072II0X01C23A1000000/
クロスビット 小久保孝咲氏
タイ、シンガポール両国の勢いや活気を肌で感じられました。高揚感を抱く一方で、日本と比較したときの危機感も強く感じました。躊躇のないDX、国家戦略と明確な違いを体感したことで目線も上がり、日本を再度、両国に負けないような活気ある国へ変化させたいとも感じました。自分たちも1つひとつやるべきことを進めていこうと改めて思いました。
カンリー 辰巳衛氏
「日本は進んでる」。そう信じたかったですが、実際にタイやシンガポールを視察すると、それは難しいと痛感しました。両国ともに発展し、強い焦りを感じました。10年前に訪れたときと比べて、風景や活用されるテクノロジー、生活感のすべてが変わっていました。実際に現地を視察しないと気付かない経験もたくさんできました。ありがとうございます。
モスフード 小林和唯之氏
積極的なデジタル投資とスマート化によるアジアの躍進を肌で感じました。我々は多くの面でタイやシンガポールから学ぶべきと感じる旅でした。現地でしか感じられない貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございました。
キタムラ 柳沢啓氏
タイの発展ぶりは良い意味で印象とまったく違っていました。聞くだけではなく、現場を実際に訪れないといけないと強く感じました。さらに、人々の生活の変化=経済成長だと再認識させられる機会となりました。
ISラボ 渡部弘毅氏
バンコクの大規模モールの豪華さとワクワク度は日本を超えています。さらに、「これからもっと成長するぞ!」という若い活気も強く感じられました。
スマイルエックス 大西理氏
バンコクは街全体がエネルギッシュ。アイコンサイアムに代表されるように、大胆な空間演出は商業施設のワクワク感という意味において、日本は圧倒的に負けているのではないかと感じました。日本と同様に高齢化社会に突入していることや、インフラがまだ整ってないといった印象もありますが、まだまだ成長を見込めるし、チャンスもある!
シンガポールに進出する日本の飲食店は、規模の大小に関わらず多いという印象でした。こうした飲食店が海外で成功するかどうかは、人材マネジメント力が重要という話を、パルコの堀さんから伺いました。シンガポールは中国系、マレー系、インド系を中心に多民族で構成する国家なので、グローバル感覚で人材マネジメントを実行できるケイパビリティがかなり大切だと痛感しました。これは飲食店に限りません。多民族という意味ではアメリカも同じです。日本が海外諸国に遅れをとっているのは、まさにそこの感覚ではないかと痛感した次第です。
また、チャンギ空港への訪問では、従業員全員でデジタル化に取り組む姿勢が大変参考になりました。さらに、社内外のパートナーシップを強固にする、パッセンジャーの幸せのために世界に冠たる空港を目指すという、会社全体で共有している価値観も参考になりました。
visumo 井上純氏
タイ都市部の活力はすごく、想像を絶する新しい商業施設群という印象でした。一方、1ブロック入るだけで広がる昔ながらの街並みのコントラストも印象的でした。貧富の差こそあるものの、今後は中間層の拡大がビジネス市場の可能性を左右すると感じました。
キタムラ 山﨑智彦氏
タイは経済成長、インフラの発達、街の活気、人々の活力、すべてにおいて自分の想像を遥かに超えていました。とくにバンコクの商業施設の洗練された設計、規模、品揃え、清潔感には驚かされました。その半面、日本の閉塞感を改めて実感させられました。
キタムラ 大坪陽嗣氏
今回の海外視察ツアー参加後、自社の店舗や同業他社の店舗の見え方が大きく変わりました。タイ・シンガポール視察を通して現地の人々の活気を肌で感じ、さらにUIなどの先端技術に触れることで、日本国内のマーケットや小売に対する視野・視点を大きく広げることができたと感じています。
ワールドスポーツ 古川尚人氏
タイとシンガポールとも歴史や文化を学べただけでなく、経済発展を支える人々の活気まで強く感じられました。現地で活躍する人々の生の声は刺激的で、日本オムニチャネル協会の皆さんが現地の人と積極的にコミュニケーションを図ろうとする行動力にも驚きました。今回の視察に感謝しております。日本のおもてなし精神には、まだ活路がありそうです。
モスフード 坂田暁氏
タイは活気に溢れ、商業施設群は日本より進んでいると感じました。シンガポールは日本同様に、これから超高齢社会を迎えます。そこで予想される労働力不足にDXで対応し、将来の発展を止めない取り組みを窺い知ることができました。どちらの国でも、「日本」がコンテンツとしての魅力があることは興味深かったです。
Kiva 野尻航太氏
タイとシンガポールがここまで活気があるとは視察前には思いもしませんでした。活気がある裏側には明確な経済成長があります。さらに、価値観を良い意味で壊して新たな風を吹き込んでいます。今回の視察を通じ、より広い視点で物事を考えていかねばならないと思いました。日本オムニチャネル協会に入会して改めて良かったと思える体験をさせていただきました。ありがとうございます。
コーポレイトディレクション 占部伸一郎氏
タイ、シンガポールともに朝から晩までびっしりと入った予定をストイックにこなし、人も資金も活気ある様子を広く体験できました。中でも現地でビジネスを展開する人々の生の声がとても参考になりました。加えて、シンガポールに拠点を構える企業のDXの取り組みはとても刺激的でした。
妄想マーケッター
タイとシンガポールとも、DXは日本より進んでいます。アジアから見る9億人の人口を踏まえた視座を持たなければ乗り遅れると危機感を感じました。さらに視座さえ変えれば未来を見渡せると妄想しました。若人よ世界に出て視座を高めよう!!
ecbeing 林雅也氏
タイの先進的なショッピングの在り方は想像以上に進化していました。品揃えや清潔感、世界観と、何より来店者に活気があり楽しく魅力的。アジアの躍進と日本の現状を比較して危機感を覚えました。また、タイとシンガポールで日本食をローカルに提供し、日系企業とコラボするドンキーの活躍も印象的でした。
※順不同、敬称略
関連リンク
日本オムニチャネル協会
あわせて読みたい編集部オススメ記事