複数のチャネルを意味する「オムニチャネル」。リアル店舗とECの融合を表す言葉として使われ続けてきましたが、その言葉の意味は大きく変わりつつあります。これからの店舗に求められる真のオムニチャネルとは。オムニチャネルという言葉の本質を考えます。【連載第1回:オムニチャネル~ビジネスを共創する時代の基本思考】

逸見光次郎
CaTラボ 代表取締役
日本オムニチャネル協会 理事
1994年に三省堂書店に入社し、神田本店や成田空港店などで勤務。1999年にソフトバンクに移り、イーショッピングブックスの立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。2006年にはアマゾンジャパンに入社し、ブックスのマーチャンダイザーを務める。2007年にイオンに入社し、ネットスーパー事業の立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当となる。2011年、キタムラに入社し、執行役員EC事業部長を経て、2017年にオムニチャネルコンサルタントとして独立。現在はプリズマティクスアドバイザーやデジタルシフトウェーブのスペシャリストパートナーなどを務める。
オムニチャネルはチャネル論ではない!
オムニチャネルについて話をすると、こんなことをよく言われます。「オムニチャネルって古くないですか?」「チャネル論じゃ顧客は語れませんよね?」…。オムニチャネルコンサルタントを名乗る私に、こうした質問を投げかける人がここ数年増えています。こんなとき、私は決まって次のように答えます。「オムニチャネルをきちんと取り組んでいる企業をご存知でしょうか」と。
OMO(Online Merges with Offline)やO2O(Online to Offline)を問わず、顧客を中心としたさまざまな情報接点や顧客接点を構築することがオムニチャネルの基本です。ネットで注文して店頭で受け取るといった仕組みさえ構築すればいいわけではありません。多くの企業がオムニチャネルを正しく理解せず、「すでに実施済」と受け止めている現状を見直すべきと考えます。
そもそも、オムニチャネルという考え方が生まれた経緯を理解していない人も多いのではないでしょうか。私の実体験を交え、誕生の経緯を説明します。
私は1999年の頃、書店員として勤務していました。インターネットが普及し始めた頃だったこともあり、多くの人が本を探しやすく、どこからでも本を買えるインターネット書店を作りたいと考えていました。こうした思いからソフトバングに転職し、インターネット書店である「イー・ショッピング・ブックス」(現:セブンネットショッピング)の立ち上げに参画したのです。
「イー・ショッピング・ブックス」では約55万点もの流通書籍を検索でき、注文後は宅配もしくは最寄りのセブンイレブンで書籍を受け取れるサービスを展開していました。個人的には自宅への宅配が大半と想像していましたが、実際にはセブンイレブンでの受け取りを希望する割合は7割を占めていたのです。自宅から最寄りの店舗に限らず、会社や学校の近く、普段利用する駅の近くなどの店舗を使い分ける人が大勢いたのです。店舗受け取りなら現金支払いが可能という利点もありますが、自分の好きな時間に受け取れる、店舗で商品を確認できるなどの利便性や安全性が何より受け入れられたのです。
この経験は、私にとっての原体験です。インターネットを駆使したビジネスモデルで求められるのは利便性だけではなく、実店舗との連携を駆使した利便性が何より重要だと考えるようになりました。当時で言えばクリック&モルタル(ネット&実店舗)、今で言えばまさに「オムニチャネル」の考え方が何より求められるのだと私に刷り込まれたのです。
ネットと店舗の融合で顧客も企業も便利に
多くの店舗が新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、ネット通販を強化したり新規に打ち出したりし始めました。しかし今、コロナが終息する中でそれらの取り組みはどうなったのでしょうか。「対面販売が一番」と、ネット通販を終了する店舗は少なくありません。ネット通販市場の競争激化によって値引き合戦に陥り、ネット通販事業を縮小する企業もあります。一度は踏み出した「オムニチャネル」への歩みを止めてしまう企業が増えつつあると感じます。
こうした動きは、顧客側の視点で見るとどう映るでしょうか。顧客はネットか店舗かを問わず、情報を閲覧できるようになってほしいと願っています。注文した商品を店舗で受け取るのか、自宅に配送してもらうのかを選べると助かると思っているはずです。しかし企業の中には、「選択肢が増えるのは手間」と考え、合理的か利益に見合うかを優先しているケースが散見されます。
このときの「手間」を解消する取り組みにこそ価値があると考えるべきです。「店舗受け取りと宅配を切り替えられるようにするにはどんな仕組みやシステムが必要か」「システムを導入することでどんな利点を見込めるようになるのか」などの動きを洗い出し、1つずつ解消することが、今後の利益の源泉となるのです。例えば、商品管理や受発注などの業務をシステム化して後方作業を軽減すれば、在庫回転率向上や欠品減少によって売上向上を見込めるようになります。自社に何が足りないか、何に注力すべきかを精査し、アクションを起こすことこそ、オムニチャネルに向けた第一歩となるのです。
オムニチャネルの基本は、顧客体験(CX)の向上、従業員体験(EX)の向上、モノのの流れ(SCM)の改善、これらによる継続的な利益を生み出すことと私は考えています。ではCXやEX、SCMなどにどんな効果を及ぼすのか。具体的な効果は、本連載の次回以降で触れていきたいと思います。
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/