新型コロナウイルス感染症がもたらした閉塞感から脱却し、社会に活気が戻りつつあります。加えて、今年の大型連休は3年ぶりに行動制限が解除。消費行動増加への期待も高まっています。
インバウンド需要にも本格回復の兆しが見られます。日本政府観光局(JNTO)が2023年4月19日に発表した3月の訪日外客数は181万7500人。2月の147万5300人から23.2%増加し、2022年10月の個人旅行再開以降で最高を記録しています。空港や主要駅には外国人が溢れ、観光地でも外国人の楽しむ様子が見られるようになっています。
こうした外国人観光客を見ていると、日本での楽しみ方に変化を感じます。先日、仕事で京都に出張したときのことです。街は多くの外国人観光客で賑わっていました。彼らは大きな荷物を持ちつつ、スマートフォンを片手に家族や友人と楽しそうに話していました。会話から聞こえてくるのは、「Nobunaga、Muromachi、Yuba、Machiya」などの馴染みのある日本語ばかり。京都の歴史をしっかり学んだ上で観光を楽しんでいるのです。
ひと昔前なら、ガイドブックを見ながら観光する外国人が大半でした。しかし今、外国人が手にしているのはスマートフォン。ガイドブックのオススメ情報に頼らず、インターネット上の雑多な情報から気になるものを見つけ、行きたい場所を自ら探し出しているのです。
SNSの影響も少なくありません。InstagramやTwitterには、日本を訪れた外国人による日本の写真が多数投稿されています。その情報量はガイドブックの比ではなく、多くの外国人が写真の中から気になる場所や体験を見つけています。さらに、日本を実際に訪れた人の生の声を聞けるのもSNSの利点です。「この観光地がオススメ」と一方的な意見に偏らず、多くの人の声をもとに観光地を評価できるのもSNSの強みです。日本のどこを訪れるべきか、どの日本食を食べるべきか、どの日本文化を体験すべきかを、外国人観光客は多面的に評価するようになったのです。
その結果、観光は一人ひとりの好みや嗜好を満たす楽しみ方へとシフトしています。ガイドブックからスマートフォンに切り替わったことで、観光情報は外国人自らの手でパーソナライズされるようになったのです。
ただし、自分ならではの観光を楽しむには、膨大な情報の中から必要なものを探し出さなければなりません。最終的にどの情報に基づいて行動するのかも自ら決めなければなりません。“限られた正しい情報”を掲載するガイドブックでは不要だった「取捨選択」と「意思決定」が一人ひとりに求められるようになったのです。こうした変化は観光に限りません。デジタル化の波が押し寄せ、膨大な情報が当たり前にある現代では、何に価値があるのか、何を参考にすべきかを自ら選び、決定しなければなりません。デジタルを使いこなすには、“ガイドブック”のようなアナログを頼りにする姿勢から抜け出すことを忘れてはなりません。
一方、外国人観光客の言動に目を向けると、日本の文化や歴史に詳しい人が増えていると感じます。歴史を深く学んでから来日する外国人観光客も増えていると推察します。日本人には当たり前と思えることに興味を示したり、観光地ではないスポットに多くの外国人が詰め掛けたりするのも、外国人が自らの視点で日本を調べているからに他なりません。つまり、日本の新たな価値や魅力が外国人によって再発見されているのです。昨今の外国人観光客から学ぶことは決して少なくないのです。
私たち日本人は、日本の長い歴史、さらにそこで育まれた文化や伝統に誇りを持つべきです。自信も持つべきです。こうした姿勢がビジネスに活かされるのです。当たり前だと思っていたことが、世界で評価されるかもしれません。日本独自の文化や風習が、世界を相手に戦えるビジネスのヒントにつながるかもしれません。米国や欧州諸国、アジア諸国から日本を訪れる観光客の興味や関心は、私たちが見落としていたことを改めて教えるきっかけになります。今こそ外国人観光客の意見に耳を傾け、日本の価値を見直すべきです。
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任