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連載

一次情報の大切さ

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新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。【DX時代を生き抜く文章術 第14回】は、文章の厚みを増す「一次情報」の集め方、活用の仕方を紹介します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

 トヨタ自動車はファクトを重視する会社です。トヨタの用語では「現地・現物」と表現されます。かつてトヨタの幹部は、「現地・現物。これは、本質の見極め、事実の確認、真因の追究」と表現したり、「学ぶためには『現地・現物』で常に現場でモノを見ながら調べよう」と言ったりしたとされます。  こうしたことでファクトをつかみ、「カイゼン」につなげていく姿勢こそが、世界有数の企業にトヨタを引き上げた原動力です。  統計やアンケートなどの定量データがなければ、現場に赴き、自身の目や耳など五感をフルに活用してファクトを集めてくる。その大切さを、トヨタの「現地・現物」は示唆してくれます。客観的事実に基づいて物事を判断する姿勢が、ファクト第一主義(ファクトフルネス)です。徹底的に数字で考えること、それこそがファクトフルネスの時代に必要な思考法です。  ファクトに基づいて判断することは大切なビジネススキルです。ですから、そのファクトが「良い情報なのか、悪い情報なのか」、よく考えて見極めるという姿勢がないと、誤った判断を引き起こしかねません。  新聞などマスコミの世界では、その情報は「筋がよいのか、悪いのか」を問題にします。つまり、情報源が本当に信頼できるのかということです。  政府や国際機関、知名度のあるシンクタンクなどオーソライズされた機関や団体が公表している資料は、基本的には問題がありません。注意しなければならないのは、それはアップデートされた最新のものなのか、ということです。古い資料では判断をミスリードすることになりかねません。  「孫引き」もできるだけ避けるべきです。  ウィキペディアのような誰が書いたかわからないネット上の情報も鵜呑みにせず、原資料に当たることをおすすめします。  これらは正しい情報を伝えるための鉄則です。  情報には、実際に起きている事象を把握した一次情報と、そうした情報を取りまとめ、整理した二次情報があります。どちらも大切ですが、やはりオリジナルな情報を集めた一次情報の方が、のちのアウトプットに独自性が生まれます。  一次情報とは、自分が直接、人と話をしたり、現場で見聞きしたりして得た自分しか知らない情報のことをいいます。「あの人がこんな面白いことを言っていた」とか、「あの会社の新サービスではこんなアイデアが生かされている」など、グーグルで検索をしても出てこない類の情報です。  たとえ同じような話は検索できたとしても、生の声は貴重です。ニュアンスが違いますし、実際に話を聞くことで、記事などメディアの情報を読むだけでは見えてこない本質が見えることもあります。また、紙や画面を見るのとは違う臨場感があり、感性を呼び覚ましてくれます。  情報を活用する場合、もちろん二次情報も大切ですが、より重要なのはこうした一次情報です。それも、自分だけが知りえた情報であれば、貴重なことは言うまでもありません。  新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃、デマや誤った情報が社会を混乱させました。  トイレットペーパーやティッシュペーパーが、各地の店頭で品切れになったのがその典型です。  先が見えない混迷の中では、人々は容易に偏見にとらわれてしまうものです。  不確かな情報発信に踊らされないためには、情報が正しいかどうかを見分ける力が必要です。  見分け方としては、まず情報の出所を確認することです。手前味噌ですが、ネットよりもオールドメディアの新聞やテレビ、雑誌などは信頼性が比較的高いのは事実でしょう。それは、経験豊かな記者が時間やコストをかけて情報を集め、社内での何重にもわたる記事チェックのハードルを超えてきた記事しか掲載されないからです。  SNSで飛び交っている情報は、ごく一部の人の主張に過ぎません。しかも、ほとんどが独自情報ではなく既存情報のコピーです。SNS上で何か気になる情報を目にしたときは、その基になっている記事を必ず参照しましょう。記事が発表に基づくものであれば、必ず発表元のサイトにアクセスするクセをつけたいものです。発表元のサイトに行くと、話が全然違ったというのはよくあることだからです。  加えて注意しなければならないのは、インターネットやSNSでは自分に心地よい情報ばかりに接しがちなことです。検索サイトには、これまで接したネット情報を分析して、同じような傾向の情報を選んで表示する機能があります。SNSでも似たような趣味や考え方の人と情報を交換しがちになる。そうしていくうちに興味や考え方が偏ってしまう状態に陥りかねません。  現代はメディアリテラシーが必要な時代です。メディアリテラシーとは、新聞やテレビ、インターネットなどが伝える情報を鵜呑みにせず、主体的・批判的に読み解く能力のことです。  ICT(情報通信技術)が発達し続ける中、ニュースは短時間で世界中に広がってしまいます。情報を発信する場合も、受信する場合も、「この情報がどのような影響を与えているか」を常に考えたいものです。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
 (6150)

筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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