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テックカンパニーへと変革するKADOKAWA、チャレンジを許容する風土の醸成へ

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今回は、KADOKAWA 代表取締役社長の夏野剛氏が登場。自称“テクノロジオタク”の夏野氏が、テクノロジの変遷から学んだこと、NTTドコモやドワンゴ、さらにKADOKAWAで取り組んだこととは。夏野社長が考える仕事への姿勢や社員への思いを、DXマガジン総編集長の鈴木康弘が切り込みます。【夢を実現していく変革者たち。~SUZUKI’s経営者インタビュー~ #2】

鈴木:いろいろな経歴を積み重ねてきた夏野さん。私もこれまでいろいろな仕事に関わり、さらに夏野さんと同世代ということもあり、通じる面を感じます。ご存じの読者も多いと思いますが、まずは夏野さんのこれまでのご経歴を改めて教えてください。

夏野:中学生のときにアマチュア無線技士の資格を取得するなど、自称“テクノロジオタク”でしたね。ただし大学は、進路が限られるのではという漠然とした思いから、理系ではなく文系(政治経済学部)に進みました。研究室では世論調査を統計解析する作業に関わっていましたが、当時は「FORTRAN(フォートラン)」という言語を使って自身でプログラミングし、分析していました。そんな中、「Microsoft Multiplan(マイクロソフト マルチプラン)」という、Excelの前身となる表計算ソフトが登場したんです。関数を使えば簡単に解析を終えられるようになったんです。当時の私にとって、これが大きな衝撃でしたね。何カ月もかけてプログラミングを組んで分析していたことが、何の意味もなくなってしまったんです。つまり、最新の技術を取り入れていかないと膨大な時間を無駄にする、そんなことを大学時代に学び、今でも私の教訓になっていますね。

卒業後に就職した会社でも、何千万円もする高額なシミュレーションソフトを使わず、マルチプランを使ってシミュレーション機能を再現していましたね。その後、MBAを取得するため、1993年から1995年まで海外留学します。そこでもテクノロジの進化を目の当たりに感じることがありました。テクノロジの強みを標榜するスクールに留学したわけでもないのに、2年時に、インターネットがリアルビジネスにどんな影響を与えるかといった授業があったのです。当時がまだインターネット黎明期。そんな中、航空会社の予約システムがインターネットに接続したら、証券会社のトレードシステムがインターネットにつながったらなどのディスカッションテーマが次々出てきたのです。このとき私は、自身の趣味と実益が完全に合致する時代が来ると感じましたね。

帰国後、インターネットに関連したベンチャー企業の立ち上げなどを経験します。そんな中、NTTドコモが携帯電話とインターネットを組み合わせたサービスを模索中だと聞き、紹介されて入社することになります。当時のNTTドコモには、インターネットに精通する人は一人もいなかったんです。そこで、携帯電話とインターネットをつないだビジネスモデルを検討し、1999年に「iモード」を世に送り出すことになります。最新のテクノロジを携帯電話にすべて載せるという発想で、テクノロジの進化とともに携帯電話も進化させていきました。着メロのダウンロードや、JavaやFlashの実装、さらにはおサイフケータイ機能まで…。世界で類を見ない携帯電話の進化に関わってきました。

鈴木:確かに1990年代後半から2000年くらいまではインターネットが一番熱い時代でしたね。

夏野:NTTドコモには11年在籍し、その後、ドワンゴに取締役として参画することになります。加えて慶應義塾大学で教鞭を取ったり、コメンテータとしてテレビに登場したりしていましたね。2019年にはドワンゴの代表取締役社長として、不調だった事業の再建に取り組みます。結果として黒字化に成功し、その功績が認められ、2021年からKADOKAWAの代表取締役社長を兼任することになったのです。

鈴木:KADOKAWAといえば、さまざまなコンテンツを活用したメディア事業が強みだと感じます。代表取締役社長に就任し、KADOKAWAをどんな会社にしようと考えましたか。

夏野:IT企業であるかどうかを問わず、テクノロジをどれだけ活用できるかが企業には求められるようになりました。コンテンツを販売する当社も然りです。バックエンドにITがなければ、効率的に販売さえできません。そこで私は、テクノロジドリブンな会社にすると宣言し、「クリエイティブ&テクノロジ」を全面に打ち出すことにしました。

鈴木:新たな取り組みは社内からの反発も強いのでは。そう感じますが、実際はどうでしたか。

夏野:宣言自体に反対する声はありませんでした。しかし、いざ何かを進めようとすると、「本当によくなるんですか?」「あと何年かかるんですか?」などの声が出てくるようになりましたね。新たな取り組みは一朝一夕で成し遂げられるわけではありません。辛抱強く取り組み、導入するシステムをいかに社員に利用してもらうか。この考えを曲げずに突き進むことが大切です。テックカンパニーへの変革は、私が社長に就任したから取り組むのではなく、会社の未来にとって不可欠な取り組みなのです。少なくとも役員、幹部の人にこうした考えを意識づけし、徹底的にディスカッションして納得してもらうことも重要だと考えます。

鈴木:システムの開発や導入には失敗もあり得ます。

夏野:おっしゃる通りです。テックカンパニーを標榜するものの、いざ取り組めば失敗にも見舞われるでしょう。それは覚悟の上です。システムの開発や導入には経営者の根気と信念が欠かせない、そう自重自戒していますね。

鈴木:クラウドや汎用のパッケージソフトへの移行を積極的に進めているのでしょうか。

夏野:特に当社のような歴史の長い会社だと、継ぎはぎのシステムが少なくありません。これらをどう刷新するかに一番手を焼いていますね。このとき大切なのが、いくらカスタマイズしても汎用パッケージソフトを使えば簡単に実装できるかもしれないということ。まさに私が学生時代、フォートランで学んだ教訓と同じです。つまり、汎用パッケージソフトや新たなテクノロジを使えば、一瞬で解決できることってあるんです。新たなテクノロジに目を向けずに古いシステムを延命し続けることがないよう、私自身が強く意識していますね。

鈴木:テックカンパニーへの変革を進めるにあたり、人材をどう育成していますか。

夏野:個人的に「育成」という言葉は好きではありません。会社が育成しようとすると、一律的な人材をつくってしまう、そう思うのです。採用面接などで「どういう人材が欲しいのですか?」とよく聞かれますが、そのとき私は「会社に染まらない人が欲しいです」と答えています。当社の考え方に染まれば、新たなアイデアもチャレンジも見込めません。いろいろなことに目を向け、当社に依存しない人材がこれからは必要だと考えます。

社員の成長にとって一番大切なのは、チャンスを与えることです。自分が本当にやりたいと思う仕事に取り組める環境づくりや制度づくりを進めるのが会社の役割だと考えます。その一環で始めたのがFA(フリーエージェント)制度です。空きポジションのある部署が社内に募集をかけ、面接などを経て社員が自由に異動できるようにしました。もとの上司の意向に関係なく、成立したら異動できます。エンジニアを含む全職種の社員を対象に、2022年度は約200人がFA制度で異動しました。制度実施当初、「自部署の人が取られるのはどうか」と抵抗されましたが、一番やりたい仕事をすることが、個人はもちろん会社のためにもなると考えます。

鈴木:新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、業務のあり方、社員の働き方も大きく変わったのではないでしょうか。

夏野:コロナまん延後、ドワンゴではすぐにリモートワークに切り替えました。現在は、自宅ベースで働きたいか、オフィスベースで働きたいかを社員に選んでもらい、原則として社員の意向に沿うようにしています。ちなみに92%の社員が自宅ベースで働きたいと回答しています。

KADOKAWAもドワンゴの施策を取り入れることにしました。これに伴い、オフィススペースも刷新します。これまでのフリーアドレスとは別に、オフィスベースで働きたい社員向けに固定席を設けるようにしました。固定席の方が業務効率を上げられるという考えからです。さらにコミュニケーション機会を意図的に創出しやすくするため、会議室も多く用意することにしました。

“部室”と呼ぶ部署専用の会議室も新設します。自宅ベースで働く社員が出社したとき、拠り所となるスペースがあることが新たなコミュニケーションには必要だと考えました。部室の周辺に固定席を設け、さらにその周辺にフリーアドレスの席を配置します。オフィスの役割は、これまでの日常的に社員が集まる場所から、たまに集まる場所に変わっています。この変化をオフィスレイアウトでどうサポートするかを考えました。

鈴木:リモートワーク中心だと、社員の評価が難しいと言う声を聞きます。KADOKAWAでは評価をどう実施していますか。

夏野:リモートワークでは、今日は何をするといった業務内容と指示が明確になります。オフィスに出社していれば仕事をしているという考えは、リモートワークでは通用しません。上司からの指示と、部下のやるべきことがはっきりします。そのため、リモートワーク下では指示の“質”がこれまでと大きく変わったと実感しています。指示に対するアウトプットをチェックすればよく、評価も明確になりました。

さらに当社では2022年度から評価報酬制度も変えました。年功序列的な要素を全廃し、評価によって給与を最大1.5倍まで上がる仕組みを導入しました。これにより、社員のモチベーションアップはもとより、評価についてはこれまで以上に厳しく管理しなければならなくなっています。

鈴木:これまでの経歴も含め、今でもいろいろチャレンジし続けていますが、夏野さんご自身、どんなマインドであるべきと考えていますか。気を付けていることがあれば教えてください。

夏野:食わず嫌いにならないことが大事だと思っています。例えばITサービスの場合、周囲に「このサービス面白いよ」などと言われたら、できる限り自分で試すようにしています。本当に良ければ自社に導入するよう常に心掛けていますね。こうした受け入れる姿勢って大切だと思います。以前、「クラウドはセキュリティが心配」などの声があったのも同じですよね。一度も使ってないのに否定するはよくありません。新しいことに目を向け、興味を示すことが私のチャレンジの源泉なのかもしれませんね。

鈴木:「うちの業界はこうだから」などの理由で、否定したり受け入れなかったりするケースって多いですよね。

夏野:デジタルが加速することで、業界という堺目はなくなりつつあります。「うちは自動車業界だから」などと言う人は、その考えを改めないといけない時期に差し掛かっています。むしろ、特定の業界しか経験していないのはデメリットになりかねません。長きに渡る終身雇用制度の中で育まれた考え方なのかもしれませんが、今後は捨てるべき考え方ですよね。

鈴木:最後に、次世代を担う若い世代にメッセージをいただけますか。

夏野:大学で若者と接することで感じるのですが、今の若者は多様性に対する受容性が極めて高いと感じます。さらに最近は、大卒で就職した人の3割が3年以内に退職していると言います。これはとても正しい判断だと思います。自分に合わないと思う職場なら、早めに退職して次のチャンスを見つけるべきです。これは世界的な流れです。「3年も我慢できない最近の若者は…」などの声を上げる人の意見こそ改めるべきだと思いますね。経営者、そして先輩として言えるのは、とにかくチャンスを広げてほしいということ。自分のやりたいことに突き進み、その可能性を大いに膨らませてほしいなと願います。多様性を許容する若者だからこそ、いろいろなチャンスをつかみ取れるはずです。

鈴木:大変貴重なご意見、参考になりました。本日はありがとうございました。

夏野:こちらこそありがとうございました。

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