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インタビュー

日本のオムニチャネル加速へ。日本オムニチャネル協会を立ち上げた3人の思いとは

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店舗を持つ事業会社の「新しい顧客体験」を「共創」する…。こんなビジョンを掲げて設立したのが一般社団法人日本オムニチャネル協会です。オムニチャネルの振興を主たる事業とし、店舗のデジタルシフトを支援する取り組みに乗り出します。設立に至った経緯と今後について、会長の鈴木康弘氏、専務理事の林雅也氏、理事の逸見光次郎氏に話を聞きました。

オムニチャネル発展を目指す協会設立の経緯とは

 米国のオムニチャネルが加速する中、日本のオムニチャネルは迷走状態――。こんな危機感が、日本オムニチャネル協会設立に向けて動き出した経緯です。専務理事の林氏は、「オムニチャネル化の機運が高まった2014年ごろ、米国と日本で取り組みに大きな差異はなかった。しかし年を追うごとに日本企業は遅れていった。デジタルの波に乗り遅れた現状を変え、小売業界を盛り立てていけないかと考えた」と、設立の経緯を振り返ります。
写真:日本オムニチャネル協会 専務理事 林雅也氏

写真:日本オムニチャネル協会 専務理事 林雅也氏

 こうした思いに賛同するメンバーが集まり、2019年1月に第1回の会合を開始。設立に向けて動き始めます。会合に参加した理事の逸見氏は、「協会として活動するからには、きちんと学べる環境を整備したかった。アウトプットを出し続け、企業のオムニチャネル化に少しでも貢献できる活動を打ち出すべきと考えた」と言います。当時の参加メンバーは7人。その中には賛同人として、ビームス 執行役員の矢嶋正明氏や、メガネスーパー 執行役員の川添隆氏も名を連ねていました。
写真:日本オムニチャネル協会 理事 逸見光次郎氏

写真:日本オムニチャネル協会 理事 逸見光次郎氏

 その後、定期的な会合を開くとともに、活動を訴求するセミナーも開催。徐々に取り組みを拡大させていきます。そんな中、協会設立に向け、会長不在の状況が続くのは好ましくないと、会長職に就いてもらう候補者選びも進めます。このとき、逸見氏が候補として挙げたのが、かねてから面識のある現会長の鈴木氏でした。「鈴木さんと2019年末に会ったとき、『今後はメディアのように、情報を発信する術を持つべき」と言っていた。これを聞いたとき、協会と一緒に何か進められるのではと思った。協会の議論が活発になれば、さまざまな情報を発信できるようになる。鈴木さんのメディア構想とも合致する点があるのではと考えた」(逸見氏)と、当時を振り返ります。その後、改めて鈴木氏に打診し、快諾してもらうことになります。  年が明けた2020年。1月には鈴木氏が会長に就任し、協会設立に向けて組織や活動の骨子、会員制度の整備を本格的に進めていくことになります。3月には一般社団法人として登記を完了し、正式に協会設立を発表しようとしていましたが、そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態宣言が発出されることになります。鈴木氏は当時、「急ピッチで準備を進める中の事態だったが、コロナ前からオンラインで打ち合わせを重ねていた。忙しくて集まれないメンバーが多く、骨子や資料づくりはオンラインでコミュニケーションを取り、ファイルを共有するという形で進めていた。オンラインを前提とした準備態勢が、くしくもコロナ禍で有益に機能した」と振り返ります。
写真:日本オムニチャネル協会 会長 鈴木康弘氏

写真:日本オムニチャネル協会 会長 鈴木康弘氏

 こうして2021年4月16日、一般社団法人日本オムニチャネル協会の設立が発表されました。

実態ある活動を目指す小売部会

 日本オムニチャネル協会は現在、どんな活動をしているのか。活動の主体となるのが「小売部会」です。「商品」「売場」「販促」「CS」「物流」「管理」の6つの分科会で構成し、各分科会の議論を活動の柱とします。逸見氏は、「オムニチャネル戦略を進める上で不可欠な6つの事業領域を分科会に設けた」と言います。各分科会は毎月一度、1時間30分から2時間ほどの会合を開催しています。  オンラインで開催するのも特徴です。「会合は原則としてオンラインで実施する。協会会員の働き方やライフスタイルはそれぞれ。こうした環境下でも会合に参加しやすくするにはオンラインが望ましいと判断した」(林氏)と言います。Web会議システムを導入するだけではなく、普段からのコミュニケーション促進を目的に「Microsoft Teams」も導入。連絡事項はもとより、会合時の資料共有や会合前の簡易なディスカッションもツールでできる環境を整備します。  なお、各分科会ではリーダーを中心に業務やITの課題についてディスカッションします。2020年に実施した分科会の場合、「分科会ごとに課題を徹底的に洗い出した。例えば『売場のオムニチャネル化』を考えるなら、そのときの課題や定義を明確にし、メンバーで共有することから始めた」(逸見氏)と言います。こうした活動を踏まえ、2021年の分科会は、課題をどう解決するのかを考えるフェーズに入ります。「各分科会には、小売業界の企業担当者が参加するだけではない。オムニチャネル化を支援するITベンダーやSIer、支援会社なども名を連ねる。こうした企業とともに、課題を解決するソリューションの提示まで踏み込む」(逸見氏)と、分科会の取り組みを強調します。各分科会は半年に一度、活動を発表する機会があり、前期は課題の洗い出し、後期は解決策を発表することになります。協会ではこうした発表を発表資料としてまとめ、活動実績を積み上げられるようにしています。  各分科会の活動とは別に、研修会やセミナーも開催します。2020年は月に一度の頻度でセミナーや研修会を開催しています。例えば2020年6月に開催した研修会では、「WEGOのカルチャーとデジタル化」と題し、ウィゴーの代表取締役社長 園田恭輔氏が登壇し、自社の取り組みなどを紹介しました。そのほか2020年8月には、月刊コールセンタージャパン編集長の矢島竜児氏が「ウィズコロナ時代のCSの取り組むべき課題」と題した講演を、2020年11月には、カインズの代表取締役社長 高家正行氏が「カインズが描く顧客と商品のより良い関係作り」と題した講演を実施しています。「現場を知っている人にフォーカスして講演してもらっている。協会会員しか参加できない研修会・セミナーだが、論点を絞った内容であることから協会会員の評価も高い」(逸見氏)と言います。研修会・セミナーの内容は録画し、当日参加できずとも、後で視聴することが可能です。今後、協会会員になった場合も、過去の研修会・セミナーの映像を視聴できます。

オムニチャネルという共有目標を持つ仲間が集う協会に

 今後もさまざまな施策を検討します。活動内容を整理するなどし、オムニチャネルの現状をまとめた「白書」を出版する予定です。「小売業界の現状把握と今後の目指すべき目標を明確にするのが制作の狙い。現場を知る担当者の声をまとめるだけではなく、学術的な視点で大学の先生などの専門家の声も載せる。小売やオムニチャネル、さらにはDXの状況を俯瞰し、正しく理解できるような白書づくりを進める」(逸見氏)と言います。  これまでの分科会の活動内容を踏まえ、見直しも図ります。「分科会にはさまざまな立場の人が参加するが、小売や店舗などの事業者側の課題ばかり議論に取り上げられてしまった。その結果、ITベンダーやSIer、支援会社の課題はフォーカスされなかった。本来は、事業者はシステムを理解し、システム会社は業務を理解しなければならない。両者が手を取り合わって理解を深め合う議論の場になるよう改善したい」(林氏)と言います。  オンラインでの開催ゆえ、人脈を形成するのが難しいといった課題もあります。「オンラインゆえの弊害が出たと思う。参加しやすいといったメリットを見込めるが、協会に参加する人の多くは『人脈づくり』に期待している。コロナ禍で集まるのは難しいが、今後は世間の状況を踏まえながら、ハイブリットで分科会を開催できるよう検討したい」(林氏)と続けます。  一方、鈴木氏は協会に参加する人の「輪」をさらに広げる構想を描きます。「多くの企業が集い、そこに大学の先生方も参加してもらえるようになった。今後は国や政府関係者の声も協会から発出できるようにしたい。『産学官』でオムニチャネルの推進を支えたい」(鈴木氏)と言います。さらに、「『人を育てる』が協会のビジョンだ。オムニチャネルを主導できる人は少ないが、協会に参加すればこうした人と出会い、学べる。オムニチャネルやDXを推進する人材育成も協会の重要な役割である」(鈴木氏)と言います。  逸見氏も、「協会にはいろいろなオムニチャネル戦略に取り組む多くの人が参加している。オムニチャネルの進め方が分からなければ、こうした人が実施した取り組みを真似るのも手だ。オムニチャネルの『輪』に入れば、相談しながらオムニチャネルを推進できる。協会に参加し、チャンスをつかんでほしい」と言います。  林氏も二人の主張に賛同します。「分科会の議論は難しくて参加しづらいという声をいただくが、それは誤解。分科会は『学びの場』である。初心者でも臆さず発言すれば、周囲がサポートしてくれる。企業という枠を超え、『オムニチャネル』という共通の目標を持つ人同士が集う場所が分科会であり、日本オムニチャネル協会である。仲間とともに課題解決に向け取り組んでほしい」と、協会のメリットを強調します。

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