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インタビュー

【特別対談:大久保清彦×鈴木康弘】2023年のDXは「X」が主役、ウェルビーイングも加速する1年に

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2023年を迎え、DXはどう進化するのか。企業がDXを成功させるためには何が必要か。さらに、新たなトレンドであるSDGsの潮流は…。DXマガジン 総編集長の鈴木康弘とDXマガジン 総合プロデューサーの大久保清彦が、2022年を振り返るとともに2023年のDXやSDGsの展望を語ります。

DXとSDGsが進み出した2022年

鈴木:2022年を振り返ると、ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー価格や原材料費の高騰、さらには円安、そして新型コロナウイルス感染症の第7波。1年前には想像すらしなかったことが次々起こりました。企業は迫りくる危機にどう対処するか。対応策に追われる1年でしたね。

大久保:社会がどう変わろうが、企業は歩みを止めるわけにはいきません。では、先行きの不透明感が高まる中、歩み続けるためには何が必要か。その1つがデジタルではないでしょうか。デジタルやITを駆使し、新たな取り組みにチャレンジする。2022年はそんな企業が増えたと感じます。

鈴木:DXのニーズが一気に高まった1年でしたね。コロナはもとより、価格高騰や円安といった動きが企業活動を直撃しました。その結果、これまで当たり前の事業や業務が当たり前ではなくなったのです。こうした状況を打開する手段としてDXに踏み出す企業が増えました。待ったなしの状況が企業のDXを後押ししたように感じます。

 しかし、DXと呼べる取り組みは必ずしも多くないかもしれません。DXとはD(デジタル)を駆使してX(変革)することです。多くの企業が今なお、デジタル化やIT導入をDXと捉えています。DXで本当に大切なのは「D」より「X」です。変革せずにデジタル化やIT導入にとどまった多くの企業が、状況を打開できずにいることでしょう。

 とはいえ2022年は、少しずつではあるものの、Xが重要という認識が浸透してきたと感じます。

大久保:DX同様、2022年に大きく加速したのがSDGsです。SDGsというキーワードを全面に打ち出し、SDGsに向けた取り組みを訴求する企業が一気に増えましたね。SDGsに取り組まなければ乗り遅れる、そんな風潮さえ感じました。

鈴木:地域創生はもとより、子育て支援、女性の活躍推進、広域連携、テレワーク普及、脱炭素に向けたエネルギー施策など、さまざまなSDGs関連事業が進み出しましたね。国が予算を確保したこともあり、社会実装に向けた具体的な取り組みを数多く見るようになりました。

 こうしたSDGsのさまざまな取り組みを支えるのがDXです。DXに取り組まなければ地方創生も進まないでしょう。子育て支援もうまく行かないでしょう。SDGsの取り組みを成功させるにはDXが不可欠です。

大久保:同感です。SDGsとDXの取り組みは表裏一体です。DXを考えずにSDGsに取り組んでも成功しません。逆にSDGsを考えずDXに取り組んでも成功しないのではないでしょうか。それだけSDGsの重要性は増しています。

 鈴木さんが指摘する通り、自社をどう変革させるのかを考えないままDXに取り組む企業は多いと私も感じます。目的をしっかり見据えなければDXは成し得ません。このときの目的の1つとなるのが、今ならSDGsだと思います。

鈴木:DXの取り組みが進めばSDGsの取り組みが進む。SDGsの取り組みが進めばDXの取り組みが進む。DXとSDGsは相互依存の関係にあるようですね。2022年は双方が相乗効果のようにして盛り上がっていった1年でした。

大久保:ただし、DXを正しく理解していない企業がSDGsに取り組むと、その取り組みは失速する。そんなケースも散見されましたね。

 例えば、企業がSDGsの取り組みとして、地域格差解消に乗り出すとします。もし企業がDXの「D」しか考えていないなら、「情報をデータ化し、情報格差をなくせばいい」という解決策を導くかもしれません。確かに情報をデータ化すれば、地域の情報格差を解消できるでしょう。しかし、ここで大切なのは「データ化によって地域をどう変えるのか」です。つまり「X」です。

 「情報のデータ化」は手段に過ぎません。「地域の暮らしをどう変えるのか」こそ目的です。未来の暮らし方をきちんと描き、その理想に近づけることこそ大切なのです。DXの理解度はSDGsの取り組みの成否を左右する、とも言えますね。

鈴木:やや強引な言い方かもしれませんが、目的を達成できるならデジタルを使わなくてもいいのです。デジタルは数ある手段の中の1つに過ぎません。「デジタルを活用すること」を目的化すべきではありません。

 私はコンサルティング会社の代表として、いろいろな企業の経営者と話をします。経営者からさまざまな課題を聞きますが、その中にはデジタルやITを使わずとも解消できるものが多々あります。例えば既存のルールを見直したり、業務の無駄を洗い出したりするだけで改善するケースは少なくありません。

 なぜデジタル化するのか、なぜITツールを導入するのか。本質を見失わないことが大切です。その先にはきっと、「自社をこう変えたい」「今後、こうなりたい」といったビジョンがあるはずです。ビジョン達成を最優先に考え、そのための手段をいろいろな方法から模索すべきです。2023年は、真のDXが広く浸透することを願います。

本質追求が2023年のDXを加速させる

鈴木:2023年は、X(変革)に主眼を置くDXがいよいよ進むと期待します。2022年はDXのスタートラインに立っただけの企業が、2023年は一斉にダッシュし始めるでしょう。

 ダッシュするときに大切なのが「人材」です。2023年はDXを主導する人材不足が一層深刻化するでしょう。ただし、必要なのは「デジタル人材」ではありません。自社の変革を主導する「X(変革)人材」です。自社のビジョンを理解し、達成に必要な戦略に落とし込める人、保守的な考え方が根付く中でも新たな風を送り込める人、周囲を巻き込んで変革を実行できる人、こうした考え方や実行力のあるX(変革)人材を育成することが大切です。現在の自社と未来の自社のギャップを埋めるのに必要な施策を考えられる人材も必要です。そのためには具体的なゴールをきちんと設定できるかどうかも大切です。DXではゴールを描くことが極めて重要です。DXを加速させたい企業にとっては「ゴール設定」も重要なテーマの1つとなるでしょう。

 なお、人材育成のトレンドとなりつつある「リスキリング」は、2023年も企業にとって重要施策となるでしょう。ただし、ITやプログラミングを学ぶだけにとどまらないでほしいですね。ITに精通するデジタル人材は、多くの企業ですでに十分足りているはずです。変革することを想定し、多様なスキルを学ぶ機会を提供すべきです。アナログ人材はデジタルを学ぶべきとよく言われますが、デジタル人材こそもっとアナログを学んでほしいですね。偏った知識や考え方ではなくアナログ・デジタル両方を理解する人材こそ、柔軟な考え方で変革を主導できるのではと思います。

大久保:SDGsに取り組む企業の次のステップとして、2023年は「ウェルビーイング」への関心が集まるのではないでしょうか。幸せな状態や充実した状態を意味するウェルビーイングは、個人はもとより企業が向き合うべきテーマです。コロナを機に従業員の健康意識は一層高まりつつあります。「幸福」や「幸せ」といった言葉を経営理念に含める大企業も増えています。こうした背景から、企業規模を問わずにウェルビーイングに向けた取り組みが一気に盛り上がるかもしれません。

 SDGs同様、このときもポイントとなるのがDXです。従業員の働く意欲を高めて働き方を変える、従業員のメンタルヘルス対策を実施して組織改革につなげるなどの取り組みには、デジタルを駆使した変革が欠かせません。ウェルビーイングを取り入れることで自社をどう変えたいのかを考えるとともに、変える手段としてデジタルをどう活用するのか、どう活用できるのかを模索してほしいですね。ウェルビーイングを見据えることで、現在のSDGsの取り組みも加速させられるはずです。

鈴木:ウェルビーイングを踏まえるなら、2023年はSDGsの捉え方がもっと広義になるのではないでしょうか。特に日本で語られるSDGsは、「緑を増やそう」「二酸化炭素を減らそう」というテーマに偏りがちですよね。欧米のSDGsの取り組みを見ると、17ある持続可能な開発目標のすべてに踏み込んで議論していると感じます。今後は緑化や二酸化炭素削減以外の開発目標と向き合う取り組みが増えるかもしれません。海外企業の取り組みに乗り遅れないためにも、ぜひ増えてほしいですね。

 2022年あたりから「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」という言葉への関心が集まっています。これは、温室効果ガスの排出源となる燃料や電力を再生可能なエネルギーに転換し、従来の社会経済を変革させる取り組みです。DXもGXも大切なのは「X」、つまり変革することです。「GX」の「G」は「D」同様、手段に過ぎません。未来の社会や経済圏を描くことこそGXの本質です。

大久保:SDGsやウェルビーイング、さらにはGX。似たような意味と受け止める人がいると思いますが、これらに共通するのは、よりよい未来へと変わることです。社会や企業をよりよくするには、DXの「X」に目を向けることが極めて大切です。つまり「X」を見失わなければ、私たちの暮らしや社会はよりよくなるのです。2023年はそのためのステップアップと位置づく年になるでしょう。

鈴木:どう変革するのかを描く「ゴール設定」は、曖昧なイメージを鮮明なイメージに落とし込む作業に他なりません。難度の高い取り組みですが、ゴールをいい加減にしたままDXに取り組んでも成功しません。5年後や10年後の社会はどうなっているのか。自社を取り巻く環境はどう変わっているのか。そのとき自社が生き残るためには何を強みに打ち出すべきか。こうした環境を想定し、鮮明なゴールを描くことがDXを推進させる起爆剤となるのです。「妄想力」とも言えるでしょうか。2023年は、こうした独創性やクリエイティブな思考を持つ人材が重宝されるようになるでしょう。

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