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インタビュー

【特別対談:森戸裕一×鈴木康弘】地方自治体の支援を通じて企業と地域のDXを推進、企業は2030年のビジョンを明確にして即、行動を

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日本デジタルトランスフォーメーション推進協会代表理事や名古屋大学 客員教授、総務省 地域情報化支援アドバイザーなどの肩書きを持つ森戸裕一氏。同氏が現在注力するのが「地方自治体のDX三本の矢戦略」です。自治体のDX支援を通じて何を目指すのか。企業がDXを成功させるためには何が必要か。森戸氏に自治体の現状、地方都市の企業経営者が抱える課題などを聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

地方自治体のDX支援が地域経済を活性化する

鈴木:森戸さんの経歴を改めて読者の皆さんに教えていただけますか。 森戸:もともと富士通の人材育成部門でデジタル人材育成に11年携わっていました。セールスエンジニアやシステムエンジニアを中心に育成していましたが、後半はコンサルティング事業やコーポレートユニバーシティ事業の立ち上げも支援していました。その後、富士通を退職して20年間、組織マネジメントや地域全体の情報化という観点で、社会のデジタル化に取り組んでいます。特に外資系企業と連携して日本全体のデジタル化推進に取り組むことが多いです。  こうしたデジタル化の取り組みを通じて痛感するのは、日本の組織や地域が抱える課題が可視化されていないこと。組織では、管理職のマネジメントが十分機能していない、それを可視化されるのを嫌がっている、マネジメントが機能していないことがブラックボックス化し、ツールとしてのITは導入されていますが、実は管理職はデータを有効に活用できずにいる。つまり日本の組織のデジタル化が遅れているのはマネジメント層を変革できないケースが多いと感じています。  例えば外資系企業の場合、MBAを取得した人がマネジメント層にいるのが一般的。しかし日本では“現場の叩き上げ”で、昔のビジネス環境で成果を出した人が今のビジネス環境でマネジメントをしている、マネジメントを担当している管理職が、プレイングマネージャーとして現場で部下と一緒に仕事をしている、といったケースも多い。マネジメントを担当する人が現場の仕事をできるかどうかが重視されているようにも感じます。現場を理解するのは重要ですが、ビジネス環境の変化が激しい今、本格的なマネジメントの教育を受けているかが重要ではないでしょうか。こんな疑問を感じながら、今に至りますね。  鈴木さんは先日、「成功=ヒト×DX」という本を上梓ましたよね。結局、デジタル社会で何をトランスフォーメーションすべきなのかというと、一番大事なのは「人」であり「組織」であり、究極は組織の「マネジメント層」の意識と行動を変革すべきと考えます。そこをトランスフォーメーションしない限り、日本のDXはうまくいかないと思います。 鈴木:確かにそうですね。人が変わるべきという思いで本のタイトルを「成功=ヒト×DX」にしたんです。森戸さんとは以前お会いしたとき、まさに本の内容に近しい考えの方なのかなと思っていました。
森戸:私の肩書きには、大学の客員教授もあります。例えば、名古屋大学ではアントレプレナー的な意識が高い学生を指導しています。ただ、短絡的に起業が目標になることには否定的で、アントレプレナー的な視点を持ち企業に就職して組織内で新規事業を立ち上げるイントレプレナー的な活動を目指してほしいと思います。ただ、大学は研究者を育てる機関で、多くの大学の起業家育成の取り組みは中途半端な状況です。なので、大学の外に起業家的な意識を持つ人材の育成機関を作るべきと考えます。こんな考えを持ちつつ、大学や学生NPOなどでも活動しています。  自治体のアドバイザーやCIO補佐官の肩書きもあります。よく最近、「森戸さんは自治体のDX支援を数多く手がけていますよね」と言われますが、現在、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会という団体の代表理事を務めています。この団体は、以前、一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会という名称で活動し、全国の中小企業や自治体、公的機関のIT化支援を、経済産業省や総務省などと連携して行っていました。この活動を通じて感じたのは、事業規模が小さい企業にIT化による業務効率化を無理強いしても効果は薄いということです。 鈴木:つまりどういうことですか? 森戸:地域の市場が縮小している地方都市の企業や事業規模な小さな企業がITを導入しても、導入や運営コストがかかりすぎて経営が厳しくなるという状況をたくさん見てきました。地方都市の企業は、ビジネスモデルを変えない限りはスケールメリットも見込めませんし、IT化による業務効率化だけでは中小企業の経営は大幅に改善できません。だから、中小企業を個別に支援するのではなく、地域全体を「面」でとらえ、その地域全体の情報化を支援する地方自治体や公的機関のDXを進めることが、地域の企業の業績改善や新事業創造による地域課題解決に寄与すると考えるようになりました。地域の産業全体を巻き込んで、地域間連携による付加価値を創造する、といったスケールメリットも見込めますので。  そのような経験もあり、現在、地方自治体のDX支援として、「デジタル庁を含む各省庁との業務標準化やRPAを含む庁内電子化の支援」「地域住民や企業とのコミュニケーション環境の構築」「新たに生み出した時間を地域のデジタル化の時間に転化する」の3つを軸(矢)にして支援活動をしています。こうした活動で自治体の職員の意識が変革され、地域課題を解決するための地場産業のDXが盛り上がる、その地域に関係するステークホルダーも多様化し地域が活性化する、そんな道筋を描いています。いろいろな肩書きがありますが、日本全体を盛り上げるためには大学(人材育成)や地方自治体(政策立案)などのDX推進が急務で、企業を取り巻く仕組みをDXするという考えのもとで活動しています。 鈴木:新型コロナウイルス感染症の影響で、地方自治体や公的機関、企業の意識もだいぶ変わったのではないでしょうか。 森戸:そうですね。デジタル化への取り組みがだいぶ前のめりになってこられたという印象があります。以前より政府は、地方創生、女性の活躍推進、働き方改革という3つの取り組みを推進してきましたが、地方ではなかなか進んでいないという印象もありました。これらの施策は少子高齢化による生産人口が激減する日本では重要施策とも言えますので、コロナ禍となり不要不急の移動などが制限されデジタル化が進み、少しでも動き出したのは嬉しいですね。  デジタル化に意識が向く以前の話をすると、例えば「地方創生」。今なお「東京一極集中」の構造は変わらない。「働き方改革」も、在宅勤務が進んだとはいえ、やはりコロナが落ち着いたら「オフィスで働いた方がいい」という声が増している。前述のように、もともと組織マネジメントできない管理職が、組織をマネジメントしている“ようにみえる”職場環境に戻したいことも背景にはあるんでしょうね。「経営層や管理職の何割以上を女性に」なんて声も聞きますが、掛け声だけで積極的に女性が活躍する場を作ろうとする動きは生まれていないように感じますね。性別にかかわらず、人材のポテンシャルを引き出すマネジメントや企業風土が欠如していると思います。そもそもこれらに本気で取り組む企業が少なかったということが、コロナを機に推奨されたテレワークなどで如実に現れた印象があります。 鈴木:オフィスに行けば「働いている」と錯覚してしまうケースが多いですよね。 森戸:その通りですね。それはサラリーマンの皆さんの勘違いです(笑)。仕事に積極的ではない人は、ワークプレイスに関係なく仕事に積極的ではないと思います。管理職も、ワークプレイスに関係なくアウトプット(成果)で評価を考えなければなりませんが、そもそも評価基準が曖昧だったので、テレワークではなくオフィスに戻るケースが徐々に増えているのではないでしょうか。 鈴木:きちんと成果を出しさえすればいい。そういう基準が日本企業には足りない。それこそ勤務時間中に昼寝したとしても、アウトプットさえきちんと出しさえすれいい。そんな指標をいよいよ考えないといけないのかもしれませんね。それさえ備えれば、地方創生や働き方改革、さらには女性の活躍推進も加速するのではと思います。  日本デジタルトランスフォーメーション推進協会ではどんな活動をしているのでしょうか。 森戸:地方自治体のDX推進支援以外にも、総務省や内閣官房、経済産業省など官公庁の施策を元に公的機関や民間企業などに向けて講演やセミナーを開催して、DXに関する啓蒙活動などをしています。地方自治体や公的機関の職員に対しては、タイムマネジメントや地域課題解決のためのデジタル活用の勉強会に注力しています。デジタル化が遅れている地方自治体と包括連携協定を締結するなど、2025年に向けてデジタル化推進の取り組みも進めています。  協会では、地方自治体は地域の住民だけでなく企業のデジタル化に大きな影響力があるんです、と訴求しています。地域で一番大きな組織は自治体なので、地域の企業のデジタル化を進めるためには率先垂範で自治体のデジタル化が必要だと考えます。協会に会員として参加している企業やアドバイザリーが、いろいろな地域や企業の組織改革も支援しています。特定の企業が地域のDX支援に乗り出すより、多様な企業が参画している協会が地方都市を支援する方が、地域課題解決のアイデアが生まれやすいと考えます。 鈴木:森戸さんの取り組みや考え方、似ているところが多いように感じますね。何か一緒に連携を模索できればいいですね。個々に小さく活動せず、連携して大きな波を起こせれば、日本のDXも促進するのではないでしょうか。 森戸:そうですね。特に地方自治体では、中長期で総合計画を立案し、毎年の具体的な施策に落とし込むという流れが一般的ですが、人口流出や高齢化に悩む地方自治体の場合、企業誘致や移住定住支援などに力を入れているものの、最終的にはどのような地域にしていきたいのかというワクワクするようなビジョンを描ききれない。DXを実現させるためには、こうした明確なビジョン策定こそ重要と考えます。住民も住民ではない人もその地域のワクワクするビジョンと現状とのギャップを明確にし、そのギャップという問題に対しての解決策をデジタル活用して考える、という流れにならないと、第一歩を踏み出すこともできませんし、デジタル化の意識も生まれません。  今回のコロナ禍を機に、地方自治体も通常業務がいよいよまわらなくなり、「RPAを検討しよう」などという声が聞こえるようになりました。さらに、台風や線状降水帯による大雨、地震などといった自然災害の頻発で、危機意識がより強くなりデジタル化の機運が高まっていると感じます。コロナワクチン接種のオンライン予約などの取り組みを機に、自治体のデジタル活用に対する意識もかなり芽生えたのではないでしょうか。

地域からの“広報力”強化がDX促進の起爆剤に

鈴木:日本のデジタル化を推進するには。自治体からアプローチすべきという考え。コロナを機に変わったとはいえ、まだまだという状況なのではないでしょうか。 森戸:民間企業の場合、ビジネス環境の変化を敏感に察知して自ら変われる人は2割くらいだと想定しています。ただ2割の人や企業の意識や行動が変わっただけでは、日本経済は救えません。この2割の方々の協力と、残りの8割の人や企業の意識と行動の変革がないと推進力は生まれません。だからこそ、地方自治体と金融機関のDXを先に推進して「企業が変革しないといけない状況」をつくるしかないと考えています。 鈴木:とはいえ、なかなか変わらない。 森戸:地方の中小企業などにヒアリングすると、「そもそも役所はデジタル化してないよね?」という声をよく聞きます。コンサルティングや研修などで時代に合わせて変化する必要性を説くと、「あの人はやってないのに、なぜ私ばかりに言うの?」って返答が返ってくることが多いです。現状では「あの人」というのが地方の自治体や公的機関、金融機関で、変わらなくてもよい理由にされているんですよね。ならば、自治体が変わりさえすれば、地域の公的機関や金融機関も変わり、地場の企業も言い訳できなくなるのかと。実際、私たちが支援している自治体は、住民や企業担当者の移動レスを実現するためのオンライン申請やペーパーレス、印鑑レス、キャッシュレスなどを積極的に導入し、企業がデジタル化しない言い訳ができない状況を作りつつあります。 鈴木:自治体もいよいよという感じになってきた? 森戸:自治体の場合、事務処理的な業務はITを導入すれば業務効率化できるのは分かっています。ただ、業務を効率化して新しく何をするか?という部分が明確ではない。変わることに抵抗があるんです。地域の住民も職員もワクワクするビジョンを描くことで、そちらに向かいたいとも考えますし、一時的には大変でもデジタル化に取り組もうという気運も生まれます。 鈴木:DXマガジンではメディアとして情報発信が主ではあるものの、第三者の立場で企業などの取り組みを紹介、拡散することも目的の1つだと思っています。自分たちで「こんなにすごい取り組みをした」と言っても効果は薄い。そこで、メディアという立場で「こんなにすごい」を発信し、地方自治体や企業の取り組みを支援できればと考えます。 森戸:地方自治体や地方の企業の場合、「広報」の専任者が極めて少ないように感じています。せっかくDXなどに取り組んでもメディア向けに発信していない、もしくは発信しても取り上げられない状況なので、それを支援するだけでも地域のデジタル化の取り組みが注目され、DXへの気運も上がってくると考えます。東京や大阪などに拠点を構える企業であれば、広報専任者がいて、メディアとのリレーションも深めやすい。そこで当協会が、こうしたメディアとのリレーション構築を支援していければと考えています。どんな広報体制を備えるべきか、協会としてどんな広報サービスを用意して支援するかなどを検討しています。それこそ協会自体がメディアとなり、地方からの情報を拡散しやすい環境を構築するということも考えています。日本全体には拡散できずとも、地域のユニークな取り組みをエッジが効いた情報として首都圏のメディアにリリースする機能を持たせるたけでも十分な効果を見込めるのではと思います。地方自治体の広報DXについては第一優先で進めています。 鈴木:自治体のDX支援…。私もさまざまな企業のDXを支援しているが、とても面白そうですね。 森戸:そうですね。いろいろと面白いことがあると実感しています。自治体って現在、約1700ありますが、そのうち100くらいの地方自治体と当協会が包括連携協定を締結できればと思い活動しています。そうすれば、地方自治体が抱える課題をタイムリーに把握できますし、自治体も頼りになる「パートナー」と認知してくれると考えています。自治体のパートナーになることで、より深くアドバイスしたり、一緒に地域課題解決への取り組みを進めたりといったことも可能になります。2025年までは自治体のデジタル化も試行錯誤だと思いますので、それを現場で汗をかきながら推進していきたいですね。当協会には、私のように新しい形でDX支援ができるメンバーがたくさんいます。地域課題に応じて最適なメンバーをオンラインでアサインすることもできますので、地方自治体にとってもメリットは大きいと考えます。

2030年のビジョンを見据えて今の行動を創る

鈴木:森戸さんは企業の経営者に対し、DXを進める上でどんなことを伝えていますか? 森戸:本格的なデジタル社会の到来に向け、「貴社は2030年にどんなビジョンやポジションで事業を行っていますか?」とよく聞きます。すると、8割の経営者の方が具体的なビジョンを答えられないようです。特に最近は2030年に向け「SDGs」や2050年に向け「カーボンニュートラル」のような言葉が躍っています。こうした世界レベルでの開発目標などがあるのは分かっているものの、そもそも足元の組織マネジメント変革やデジタル化すらままならない。「本当にこのままでいいのですか?」と話をするケースが多いですね。  私は大学の教員として学生に対し、「2030年のデジタル社会における自社の将来像を描けていない企業に就職するのは危険だ」という話をします。なぜかというと、彼らが30歳くらいになったとき、その会社で活躍できるかどうかが不透明だからです。企業経営者向けの講演などでは大学の教員という立場も踏まえて学生の動向を話すと、危機意識を持たれるケースも多いです。 鈴木:いろいろな立場を使い分けて話をするから、経営者にとっても興味深い話になるんでしょうね。 森戸:企業の経営者として、大学の教授として、そしてDXの推進団体の代表としての立場で話をしますからね。それから、私自身も福岡に住んでおり、地方都市固有の悩みも分かっているつもりです。「東京だから、大手企業だからデジタル化は推進できる」などと言い訳ができないよう、率先垂範の姿勢で、地方都市で実践しています。企業立地や企業規模の大小が関係なくなるデジタル社会の姿は誰が発言するのかによって相手の捉え方も変わります。  2030年にはSDGsやカーボンニュートラル に取り組まない企業の評価は下がってくると予想されます。こうした未来に対し、企業として何をすべきかを今から真剣に考えるべきだと思います。これは経営課題にほかなりません。その課題解決のための取り組みをデジタルで具現化し、自社の競争力となる経営基盤を構築する。経営者はこのような経営にシフトすべきで、すぐにでもDX戦略を練るべきではないでしょうか。生産人口減少による人材不足や社員の高齢化、後継者不足など、企業が抱える課題は山積しています。これらに加え、SDGsのような新たな世界レベルの課題にも取り組まなければならない。今、立ち止まらずに、少しずつでも前進できるか。こんな姿勢こそ企業には求められるのではないでしょうか。 鈴木:10年先を見据えた行動。企業にとってはコロナ対策にだけ目を向けるのではなく、さらに先を見据えてDXに取り組むべきですよね。貴重なご意見、ありがとうございました。 森戸:ありがとうございました。

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