2025年度のDX銘柄において「DXグランプリ企業2026」に選定されたミスミ。顧客の時間価値を高めるデジタルサービスの展開に加え、それを支えるものづくりや組織の変革を進めてきた点などが評価されています。その製造を担う駿河生産プラットフォームでは、人の経験や判断に頼っていた製造現場を、デジタル技術と現場改善によって変革してきました。今回は、その変革を担ってきた生産プラットフォーム・ハブ 執行役員 ME事業グループ MEバックエンドセンター センター長の黒田悟氏、金型バックエンドセンター センター長の堀英樹氏に話を聞きました。前編では、約20年にわたる変革の歩みと、「ALASHI」や「meviy」へとつながったものづくりの進化に迫ります。
(聞き手:株式会社YKB代表取締役・東京都市大学准教授・日本オムニチャネル協会副事務局長 川邉雄司氏、株式会社リンクス代表取締役社長・日本オムニチャネル協会フェロー 小橋重信氏)

ミスミのものづくりを支える駿河生産プラットフォーム
ミスミは、製造現場で使われる機械部品や金型部品などを幅広く提供しています。顧客が必要な部品を選び、価格や納期を確認して注文できる仕組みを構築してきたほか、3D CADデータを活用した機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」など、デジタルを活用したサービスも展開しています。

そのものづくりの一翼を担うのが、駿河生産プラットフォームです。多品種少量・確実短納期というミスミのビジネスを製造面から支えています。
日本の製造業では、長年にわたり生産拠点の海外展開が進められてきました。そうした環境の変化の中で、ミスミのものづくりを支える日本の製造拠点は、どのような役割を担ってきたのでしょうか。ここから、駿河生産プラットフォームが進めてきた約20年の変革をたどります。
1本の金型部品を作るために、かつては8~9のプロセスが存在し、8~9人が関与
川邉:現在の工場ではさまざまな工程がデジタルでつながっていますが、以前はどのように製造していたのでしょうか。
黒田:私が入社した2002年頃は、システムがほとんどなく、とにかく人が覚える世界でした。型番を見たら、どの工程を通り、どの材料を使い、どこでどの公差を保証するのかが分かるよう、何千もの型番を頭に叩き込んでいました。
堀:製造現場も同じです。生産指示書を人が読み、使う材料を取って測り、治具を用意して、設備にパラメータを入力する。加工が終わればまた測って、公差に入っているかを人が判断する。一つひとつ人が判断していました。
黒田:一つのパンチを作るために8~9工程あり、8~9人が関わっていました。工程が多ければ、その間で製品が滞留します。そこで設備同士をつないで流れを作り、一部を自動化して、掛け持ちすることで3人でも回せるようにしていきました。
小橋:多品種で、それぞれ仕様も違うものを短納期で作るとなると、「次に何を、どの設備へ流すのか」という判断も難しくなりますね。
黒田:その通りです。そこで、最初に着手したのが投入管理です。多くの注文が入ってくる中で、次の1本をどこへ投入するのが最適なのかを人が判断するのは難しい。順番を間違えれば納期遅れにつながります。そこで、ボトルネックを優先するシンプルなロジックから始めました。

8~9工程を一つにつないだ「ALASHI」
川邉:その先に生まれたのが、工場で見せていただいた「ALASHI」ですね。そもそも、どのような設備なのでしょうか。
黒田:複数の工程を一つの設備に統合して、自動で生産するために自社開発した加工設備です。構想が始まったのが2011年頃で、1号機が完成したのは2014年です。最初から考えていたのは無人化でした。これから先、人の技能に頼りながら生産量を増やしていくことは難しくなると考えたからです。
小橋:今日見せていただいたALASHIスタジアムでは、加工機だけを自動化しているわけではないですよね。
堀:そうですね。設備だけを自動化しても、その前後に人の作業が残っていれば無人化に近づきません。メカや電気だけではなく、情報システムも一緒に整えていく必要があります。
システムが生産着手する優先順位を判断して、どの製品を次に流すかを決める。加工後の測定データもシステムに送られます。測定結果がNGなら次の加工へ進めない。以前は人が指示書と測定値を見て判断していた品質保証まで、デジタルでつながっています。
川邉:つまり、ALASHIという加工設備だけを自動化したのではなく、製品を投入して、加工し、測定・検査し、次へ流すところまで変えてきたわけですね。
黒田:そうです。我々は従来の汎用的なものづくりを第一世代、半自動化を第二世代、無人化を第三世代と呼んでいます。一気に無人化したのではなく、第一世代から第二世代、第三世代へと進めてきました。
小橋:実際、生産にかかる時間はどれくらい変わったのでしょうか。
堀:ALASHIによる工程統合だけでなく、投入管理や自動出庫・自動搬送などの改善を重ねた結果、パンチの生産リードタイムは2010年の40.5時間から、2024年には0.6時間まで短縮しています。
小橋:40時間以上かかっていたものが、約40分まで縮まったわけですね。
堀:そうですね。設備だけを変えるのではなく、製品の流し方や人が判断していた作業も含めて変えてきた結果です。

「作る時間」だけでなく、「注文する時間」も変えたmeviy
川邉:ALASHIが工場の「作る」を変えたとすると、meviyは顧客側の仕事まで変えていますね。
黒田:そうですね。従来、カタログにない特注品を注文しようとすると、お客様が2D図面を作って、見積もりを依頼して、回答を待って、それから発注する必要がありました。
meviyでは3D CADデータをアップロードすることで、そのデータを起点に価格や納期を確認し、発注、製造までつなげることができます。従来、お客様が行っていた工程そのものを一つなくせるという考え方です。
堀:もともとミスミのECでは、型番で注文を受けますが、その型番そのものが標準化されており、材質・形状に加えサイズのパラメータ情報が含まれています。ある時期から、その情報をそのまま生産にデジタル情報として直接繋げられないかと考えるようになりました。
一つの仕組みが成功すると、それを別の工程にも展開する。検査支援などにも広げ、設備や情報をつないでいった。その進化の延長線上にmeviyのものづくりがあると私は考えています。
小橋:「作る時間」を縮めても、その前の見積もりや発注に時間がかかっていたら、顧客にとっての時間は十分には短くならない。そこまで含めて変えているということですね。
黒田:そうですね。ものづくりの現場だけを速くするのではなく、お客様が必要な部品を手にするまでの時間をどう短くするか、ということだと思います。

約20年前の「投入管理」から、現在のDXへ
川邉:ALASHIやmeviyだけを見ると、最初から現在の姿が完成形として見えていたようにも感じます。
黒田:DXという言葉が使われる前から取り組んできました。投入管理を始めたのは2005年頃ですし、ALASHIも構想から1号機が完成するまで約4年かかっています。途中で止まりかけたことも何度もありました。
堀:目指す構想はありましたが、すべてを一度に実現できたわけではありません。何を標準化するのか、どの情報を使うのかを整理しながら、一つずつ形にしてきました。
小橋:今日の工場を見ると、単に機械を自動化したというより、注文が入ってから製品が流れ、加工され、検査され、出荷されるまでをデータでつないできたことが分かります。
堀:一つ成功すると、そこから展開していく。それを繰り返してきました。急に大きく変わったというより、静かにだんだん広がっていったという感覚です。今振り返ると、自分たちで積み重ねてきたものが、我々のものづくりの力になったのだと思います。





















