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インタビュー

経営者の強い覚悟がDXを加速、失敗を恐れず変革を断行せよ【日本オラクル 渋谷由貴×デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘 特別対談1】

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渋谷:アメリカの企業と話すと、日本企業とは少し違った印象を受けます。良い意味で前向きで、変革によるリスクよりも、変革を通じて新たな会社に生まれ変わる可能性を重視しているように見えます。これは企業規模に関わらず、中小企業でも大企業でも共通しているようです。過去の実績や現状にとらわれず、将来の変化に柔軟に対応しようとする姿勢は、日本企業が参考にできるポイントの1つかもしれません。

鈴木:大企業は潤沢な資金を投じて改革を進めやすいという背景があります。失敗すればやり直せばいいと、トライアンドエラーを繰り返せるのが強みです。中小企業の場合、変革に投資して失敗したら経営破綻さえ招きかねません。こうした違いも考慮すべきなのかもしれませんね。とはいえ、中小企業は大企業にはないフットワークの軽さが強みです。DXのような全社で取り組む変革は、大企業が取り組むよりも早く成果を出しやすいという側面もあります。成果をいち早く出すためにも、中小企業は躊躇せずに変革に向けた第一歩をすぐ踏み出すべきと考えます。

渋谷:「何もしない」という状態が、実は一番よくないと思います。今はとりあえず「変わらない」「変えない」と思っていると、結果的に取り残されてしまうこともありますよね。まずは恐れる前に、小さなことでも行動を始めてみることが大切だと思います。早く始めれば軌道修正する時間もありますし、そうしている中で早く正解に近づくことができます。

鈴木:海外企業と日本企業の違いって他に感じることはありますか。

渋谷:スピードに対する考え方の違いを強く感じます。日本企業はクオリティへの意識が高く、「よいものを作ろう」という姿勢は海外企業にも引けを取らない強みだと思います。しかし、市場は常に変化しており、消費者のニーズも目まぐるしく変わります。こうした状況で常に完璧なものを作り続けるのは難しいかもしれません。アメリカ企業の場合は、「とりあえず作ってみて、作りながら調整する」ことでクオリティを保つことが多いようです。日本企業は、完璧なものを市場投入する考え方に重きを置きすぎて、その後の変化に柔軟に対応しきれない場合もあるのではないかと感じます。これまでの「最高品質へのこだわり」が、逆に変化への柔軟性を制限している側面もあるのかもしれません。

鈴木:日本企業だからできない、ということはないと思います。そもそも高度経済成長期には、多くの企業が、先が見えない中で新たなことにチャレンジし続けていました。その結果、経済大国となったのです。トライアンドエラーで新しいことに挑戦し続けた結果が、日本を築き上げたのです。このころに創業した企業なら、創業当時はチャレンジする文化があったわけですよね。しかし今、その思いは消し去り、多くの企業が守りに入っています。まずは原点に立ち返ることも必要ではないでしょうか。

渋谷:当時の日本企業の多くは、自分たちを「チャレンジャー」と捉えていたのかもしれませんね。しかし、日本が急速に成長し、自社が「リーディングポジション」に立った途端、守りに入ってしまったのではないかとも感じます。今では、そのポジションですら簡単には保てない状況にあるように思います。

鈴木:振り返ると、日本はかつて世界2位の経済大国だったわけです。しかしその後、周囲の海外勢が成長し、今では経済大国という言葉を使うのが恥ずかしいくらい落ち続けています。こうした日本を認めようとしない人が今なおいるのも、変革が進まない要因の1つかもしれませんね。

ITへの理解不足解消がDXを推進

鈴木:日本企業のDXが進まない要因として特に気になるのが、経営者の意識です。経営者が「DXを必ず成功させるんだ」と強い覚悟で臨まない限り、成功することはありません。企業の中には、DX推進を情報システム部門に一任しているケースさえあります。しかし、自社を新たなステージに引き上げるDXを情報システム部門に丸投げするなんて考えられません。舵を取るのは経営者であるべきで、経営者の参画なしに変革は成し遂げられません。

渋谷:DXという言葉の「D(デジタル)」に意識が偏ってしまう企業が多いように感じます。システム導入をDXのゴールと考えてしまう場合もありますが、本来の目的はあくまで変革そのものにあります。技術は手段の一つであり、目指すのは企業の成長や業務の進化です。この点を意識するだけでも、DXの進め方が少し変わってくるのではないかと思います。

鈴木:同感です。DXという言葉は、デジタルを駆使した変革を意味します。「D」より重視すべきは「X」の方です。にもかかわらず、「SaaSを導入したから自社のDX企業だ」なんて考える経営者が今もいますね。こうした日本企業の動きは非常に残念に思います。はっきり言ってデジタルを駆使するかどうかは問いません。大切なのは変革するかどうかです。デジタルを駆使せずとも変革を成し遂げればいいわけです。「D(デジタル)」という言葉が入ってしまうからややこしくなっているのかもしれませんね。

渋谷:デジタルやITが関わりだした途端、多くの経営者が”後はよろしく”、になってしまうことが多いですね。

鈴木:海外企業の場合、トップが先頭に立ってDXを推進するケースがほとんどなのではないでしょうか。

渋谷:まさにその通りです。経営者がDXのプロジェクトにしっかり関わることは、とても重要です。どれだけ関心を持ち、熱意をもって取り組むかが、プロジェクトの成否に影響しますね。私が顧客の方とお話しする中でも、経営者が関与しないと上手く進まないことが多いです。トップ不在のプロジェクトは、どうしても形だけになってしまい、期待した成果が出にくいケースが多いように思います。

鈴木:日本企業に限ると、ITやデジタルを難しく考える傾向も見逃せません。確かにIT導入が盛んだった1990年代から2000年代はIT導入で失敗するケースが多く、「IT導入=難しい」というイメージがまん延していました。しかし、あれから30年。システムは当時と比べ、簡易なものへと大きく様変わりしました。ITやデジタルの変遷をきちんと理解していれば、IT導入に恐れずに済むと思います。もちろん導入時に手を動かすのは情報システム部門の担当者であって、経営者はITの概念さえ理解すればよいのです。ITで自社がどう変わるのかを思い描ければよいのです。最新テクノロジーを使えば何ができるのかさえ分かればよいのです。こうした「あるべき姿」を描くのは経営者にしかできません。

渋谷:ITやデジタルに対して、あまり身構えずに触れてみてください。実際に関わってみると、「なーんだ、意外と簡単だ」と感じることもあるかもしれません。経営者の方が抱く「なぜこうならないのだろう?」という疑問も、ITに触れることで理解が深まることがあると思います。

鈴木:分かりやすい例えがあります。スマートフォンです。多くの人が当たり前のように使っているスマートフォンですが、最初に手にしたとき、どのように操作を覚えたでしょうか。多くの人がきっと、使いながら覚えたはずです。最初に説明書のすべてに目を通してから使い始める人はいないのではないでしょうか。ITも同様です。使いながら覚えればいいのです。もし、「スマートフォンの使い方が分からないから使うのが怖い」という人がいたら、社会からすでに乗り遅れてしまっているわけですよね。ITも同じで、怖いから使わないという決断を下せば、あっという間に周囲から取り残されます。

渋谷:その通りだと思います。怖がらずにまず試してみること。変化に直面したときには、こうした姿勢で臨むことが、日本企業にとっても大切なのではないかと感じます。

鈴木:経営者によるITへの理解が著しく欠如しているのが日本企業です。海外企業はITに対する理解がずっと進んでいると感じます。

渋谷:経営者の皆さまは、ITを変革のための手段としてしっかりと位置づけておられ、投資にも非常に積極的です。ITを駆使して常に組織をより良くしようとされている点が印象的です。「これから変革を始める」と意気込むのではなく、日々の業務の中で自ずと変革を進めていくというのが良いと思います。

鈴木:海外企業にとって「DX」という言葉は、ごく当たり前の取り組みと受け止められているのかもしれません。もしかすると、「日本企業はなぜ今、DXの機運が高まっているの?」と思っているかもですね。それくらい一般的な言葉として海外企業には浸透している気がします。

渋谷:私も同感です。日本では、変革の重要性を意識してもらうために、あえて「DX」という言葉を使って企業に促しているのかもしれません。もし、変革を常に進めている海外企業が日本のDX事情を見たら、「わざわざトランスフォームと騒がなくても、毎日必要に対応していたら逆にトランスフォーム(変化)しないことの方が難しいよね」と感じるかもしれません。日本で「DX」という言葉が使われなくなったとき、ようやく変革が企業に根付いたと言えるのではないでしょうか。

鈴木:私が代表を務める会社では企業のDX推進を支援していますが、この取り組みが日本から「DX」という言葉をなくすことにつながっているわけですね。

渋谷:こうした世界は、日本企業にとって理想的な方向性の1つかもしれません。何年か後に振り返って、「あの頃はDXが大騒ぎだったね」と笑って話せるような時代になればいいなと思います。

現場に屈しない強い意志を持て

鈴木:経営者が「DXを進めよう」と先頭に立っても、「現場が納得しなくて…」などの悩みを抱える経営者は少なくありません。全社で取り組まなければならないDXには多くの人が関わります。そのため、さまざまな意見が出てくるし、意見の衝突も珍しくありません。しかし、どんな壁に直面しても経営者は乗り越えて成し遂げなければならないのです。

渋谷:経営者の方は、DXの重要性を社員に伝え、理解を得る役割を担っていらっしゃると思います。その過程で、現場から「変えたくない」といった意見が出ることもあるでしょう。そうした意見が増えると、経営者ご自身も覚悟を揺さぶられることがあるのではないかと感じます。

鈴木:そこは毅然とした態度が求められますよね。どんなに反発されようが、「DXを必ず成功させる」という強い思いを貫き通すべきです。「変えたくない」という社員とは徹底的に話し合い、社員がそう思い理由を把握するとともに、DXの効果や自社の未来をきちんと説明しなければなりません。現場が納得しないから、現場が反発しているからなどの理由でDXを進められないというのは、単なる言い訳に過ぎません。現場のさまざまな意見をくみ上げ続けていたら、いつまで経っても企業は成長できません。

渋谷:日本企業の中には、現場の意見が正しいのかどうかを判断するための基準や視点をまだ十分に持ち合わせていないケースも見受けられます。「こんなリスクがあります」「こうした弊害が懸念されます」といった現場からの声に対して、その内容の正当性を見極めるための知識やリテラシーを、経営者自身が身につけていくことが大切だと思います。現場の意見をそのまま受け入れるのではなく、自らの理解や判断を加えたうえで意思決定する姿勢が求められます。海外企業では、経営層が常に学び続け、現場の意見に対しても自分の考えを持って対話している、その点は私たちも見習うべきところだと感じます。

鈴木:一部の日本企業も当てはまりますが、多くの海外企業は経営者の直下にCIOやCFOなどの責任者を配置し、経営チームとして事業を統括しています。こうしたチームを組成すれば、ITや財務などに精通する責任者が現場の意見に対して適切に回答できるようになるのではないでしょうか。最近は日本企業の中にもCIOやCFO、CMOなどのポジションができつつありますが、その業務は情報システム部長や経理部長のように、部署を管理、統括するのが主な役割であるケースが目立ちます。そのため、現場からの意見を自身で判断せず、経営者に「こんな意見があるのですが…」と相談していますよね。これではCIOやCFOも形骸です。

渋谷:経営者の方にとって、CIOやCFOが「言われたことをこなすだけ」の状態になってしまうこともあるのではないでしょうか。自分の専門知識を活かして経営者に提言することが少なくなると、経営チームとして十分に力を発揮できない場合もあるかもしれません。

鈴木:自社を取り巻く環境が刻々と変わる中、経営者がそれらの情勢をすべて把握し、適切な意思決定を下すのは無理です。専門性を有する責任者を擁立し、経営チームとして会社を前進させられるようにするのが望ましい姿だと思います。特にITやデジタルが欠かせないDXを加速させるには、ITに関する意見に対して適切にフィードバックするCIOを擁立すべきです。経営者はCIOと意見をぶつけ合い、何をすべきか、どう解消すべきかの解決策を模索し、意思決定する役割に徹するべきです。

【関連リンク】
日本オラクル株式会社 NetSuite事業統括
https://www.netsuite.co.jp/

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