コールセンター業務を筆頭に、デジタルマーケティングやビジネスプロセスアウトソーシングなどの広範な事業を展開するトランスコスモス。多くの企業の業務を支援する中、これからの業務のあるべき姿をどう考えているのか。AIなどの先端テクノロジーが事業にどんな影響を与えると考えているのか。同社の取り組みを3回に分けて、トランスコスモス 上席常務執行役員で、トランスコスモス・デジタル・テクノロジーの代表取締役社⻑を務める所年雄氏に聞きました。第1回となる今回は、所氏のこれまでの経歴にフォーカスします。(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)
――所さんのこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますでしょうか。
所:はい。私は1999年にトランスコスモスに中途で入社しました。実は、前職は全くITとは関係のない貿易専門商社で、通関士としてASEAN向けの機械部品輸出などを担当していました。ただ、もともと学生時代から自分でパソコンを使ってゲームを作ったり、プログラミングをしたりするのが好きで、IT分野への関心は持っていました。
――ITとは全く異なる業界からの転職だったのですね。なぜトランスコスモスに入社されたのですか?
所:30年ほど前、一度IT系の仕事をしてみたいと思い転職活動を始めました。実はもう1社、別のIT会社からも内定をいただいていました。どちらに行こうか迷ったのですが、最終的な決め手は「平日休めること」でした。当時、スキーやスノーボードが趣味で、週末はゲレンデが非常に混んでいたんです。「トランスコスモスはコールセンター事業をやっているからシフト制で平日休みが取れるだろう」という、少し不純な動機で入社を決めましたね。

――意外な入社動機ですね!では、入社後は希望通りコールセンター業務を?
所:いいえ。それが配属はコールセンターだったのですが、研修を受けた後、顧客からの電話は1本も取らせてもらえませんでした。いきなり「マイクロソフトさんに行って常駐してほしい」と言われ、そこでの最初の仕事は、マイクロソフト社内にあるLinuxサーバーの管理でした。
――そこからどのようにキャリアを築いていかれたのでしょうか?
所:マイクロソフトさんでの仕事が、サーバー管理からナレッジマネジメント、つまりFAQサイトのコンテンツ管理へと広がっていきました。その経験を通じて、ふと自社のコールセンターに目を向けた時、「うちはたくさんのコールセンターを運営しているのに、顧客が自己解決できるFAQを提案していないな」ということに気づいたのです。そこで、同期や営業担当に相談し、FAQの提案を始めました。これが私のキャリアの最初の転機ですね。
――ご自身で新しい事業を立ち上げられたのですね。反響はいかがでしたか?
所:はい、FAQ事業は少しずつ顧客に受け入れられ、チームもできました。ただ、面白いエピソードがありまして、ある顧客にFAQを導入していただいたところ、半年後には電話の問い合わせ件数が目に見えて減ってしまったのです。すると、当時の上長から「飯の種を削るんじゃない!」と本気で怒られましたね。それでも、「顧客が電話しなくても解決できる方が良いに決まっている」という思いで続け、FAQチームのリーダーとして、事業を月間売上1,000万円規模にまで拡大させました。
――なるほど。その後はどのような事業を手がけられたのですか?
所:FAQ事業が軌道に乗った後、2006年頃からはWebサイトの運用を代行する「オンサイトWebマスター事業」を立ち上げました。当時は企業のサイト運用を担う人材が不足しており、このサービスは大きく成長し、初年度で300人ものスタッフをクライアント企業に常駐させるまでになりました。その後、2010年頃にX(旧 Twitter)やFacebookといったソーシャルメディアが登場したタイミングで、今度は「ソーシャルメディアマーケティング」のサービスを立ち上げました。
――次々と新しい事業を立ち上げてこられたのですね。ソーシャルメディア事業はいかがでしたか?
所:これも面白い経緯がありまして、当初はデジタルマーケティング部門で立ち上げたのですが、「炎上したらどうするんだ」というリスクを懸念され、サービスをやめるという話まで出ました。そこで、コールセンター部門が「うちはサポートが本業だから」と手を挙げてくれ、事業部ごとコールセンター部門に異動したのです。そこでX(旧 Twitter)を使った「アクティブサポート」という、困っている顧客にこちらから能動的にアプローチするサービスがヒットしました。事業が数億円から20億円規模に成長すると、今度は「やはりデジタルマーケティング部門の事業だろう」と、また元の部門に戻ることになりました。
――会社の中で事業部を行ったり来たりされたのですね。
所:そうなんです。その後、ちょうどLINEがビジネス活用され始めたタイミングで、LINEのチャットで顧客からのお問い合わせを受け付ける仕組みを作りました。これがまた大きな反響を呼び、主力事業の一つに成長しました。なので、社内の古い人は私のことを「FAQの人」、その次の世代は「ソーシャルの人」、そして「LINEの人」と、時代によって呼び方が変わるんです(笑)。今は「システムの人」と呼ばれています。

――まさに会社の成長と共にキャリアを歩んでこられたのですね。現在のトランスコスモスはどのような事業を展開しているのでしょうか?
所:トランスコスモスは、顧客企業の「Global Digital Transformation Partner.」をスローガンに掲げています。事業の大きな柱は3つあります。1つ目は、私がこれまで関わってきたコールセンターやデジタルマーケティング、ECなどを統合した「CX(カスタマーエクスペリエンス)事業」。2つ目は、総務や人事、経理といったバックオフィス業務などを代行する「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業」。そして3つ目は、これらのビジネスモデルを海外で展開する「海外事業」です。
――非常に多岐にわたる事業を手がけているのですね。
所:はい。それぞれの事業の中身も、例えばBPOなら建設業界向けのDX支援まであるなど幅広く、「何をやっている会社かよくわからない」と言われることもあります。しかし、その根底には「やりたいことがあるならやってみろ」という社風があります。私自身も、隠れて始めたことが事業になり、会社に認められて組織化される、という経験を繰り返してきました。
――創業者の影響も大きいのでしょうか?
所:ええ、創業者の奥田耕己(故人)の影響は非常に大きいです。とにかく現場が好きで全国のコールセンターを歩き回り、光る人材を見つけては抜擢するような人でした。また、提出された資料はすべて読み込み、厳しい指摘をする方でしたが、そのおかげで会社が成長できたのだと思います。何か新しいことを始める時、今でも「ファウンダー(創業者)だったら何て言うかな」と考えることが、私の中での1つの判断基準になっています。
――所さんは現在、どのような役割を担っているのでしょうか。
所:現在は、トランスコスモスグループ全体のエンジニア組織を統括する「エンジニアリング統括本部」の本部長と、開発子会社である「トランスコスモス・デジタル・テクノロジー」の代表取締役社長を兼務しています。入社動機は「スキーに行きたい」でしたが、気づけば25年間、社内で転職を繰り返すように様々な事業を経験させてもらい、飽きる暇なくここまで来ましたね。
――それだけの魅力がトランスコスモスという会社に詰まっているとも言えますね。
所:多くの事業に携わっているからこそ、いろいろなことにチャレンジできる会社だと考えます。これまで築いてきた実績と文化を大切にしつつ、新たな働き方や最新のテクノロジーの動向にきちんと目を向けるという会社の風土が、トランスコスモスを少しずつ、そして確実に成長させているのだと思います。これからの社会や顧客の課題と徹底的に向き合い、最善策を提案し続ける会社でありたいと思いますね。
関連リンク
トランスコスモス株式会社
株式会社トランスコスモス・デジタル・テクノロジー























