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インタビュー

【JOAフェロー岩瀬昌美氏に聞く】セグメントの重要性高まるマーケティング、基礎知識ナシに施策は成功しない

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日本オムニチャネル協会の活動をサポートする「フェロー」。分科会に参加してオブザーバーとして意見したり、会員にアドバイスしたりとその取り組みは多岐に及びます。オムニチャネルやDXに取り組む企業に対し、どんな課題を払拭し、どんな一歩を踏み出すべきと考えるのか。今回は、米国で広告・マーケティング施策などのコンサルティングに従事する岩瀬昌美氏に話を聞きました。(聞き手:DXマガジン編集部)

 フェローの岩瀬昌美氏は、MIW Marketing & Consulting Group, Inc.のPresident/CEOとして、海外進出を検討する日系企業の広告・マーケティング支援や、米系企業のマルチカルチュラルマーケティングのサポートなどに従事しています。米国在住30年。米企業のマーケティング施策を目の当たりにする環境で、岩瀬氏には日本企業のマーケティング、引いてはオムニチャネルやDXはどう映っているのでしょうか。
写真:日本オムニチャネル協会フェロー 岩瀬昌美氏

写真:日本オムニチャネル協会フェロー 岩瀬昌美氏

――アメリカのマーケティングと日本のマーケティングの違いをどうとらえていますか。

岩瀬:アメリカは「人種のるつぼ」と言われるように、さまざまな人種、民族の人が暮らしています。白人やヒスパニック(中南米系)、黒人、アジア系…、さらにアジア系でも中国や韓国、日本などに分かれるように、それぞれが独自の文化や風習を維持しながら共生しています。さまざまな人種や民族が溶け合う「人種のるつぼ」という言葉より、トマトやレタス、キュウリなどが混ざり合って溶けて1つのものにはならない状態から「人種のサラダボウル」という言葉の方が適切だと考えます。

  つまりマーケティングは「マルチカルチュラルマーケティング」と呼ばれ、人種や民族ごとに細分化した施策を立案するのが常識です。その上で、「地域」や「年収」「年代」などに細かくセグメントします。多人種、時差がある広い国土というアメリカの特性上、ターゲットを細かくセグメントしなければ、マーケティング施策は成功しないのです。

 日本では原則、人種は「日本人」に限られます。その上で「地域」や「年収」「年代」などにセグメントするのが一般的です。アメリカのような地理的な要因もないことから「セグメントはこの程度で十分」と捉えられがちですが、消費者の嗜好や行動が多様化する中、深く踏み込んでセグメントする可能性を模索すべきです。

 日本はアメリカと違い、全国紙や全国放送が当たり前であることから「マスマーケティング」しやすいのが利点です。しかし現在、新聞を読む人、テレビを見る人が減りつつある中、マスマーティングも成り立たなくなっています。アメリカ同様、企業は緻密なセグメントによるマーケティング施策をいよいよ打ち出さなければならない状況に入ったと考えるべきでしょう。

――日本企業もマーケティングを実施する企業は増えています。しかし、思うような効果を見込めずに苦戦する企業が多いのも事実です。課題はどこにあると考えますか。

岩瀬:必ずしも悪いわけではありませんが、日本企業のマーケティング部門を見ると、マーケティングがきちんと確立された学問として見られてない場合があるのではないでしょうか。アメリカではMBAのマーケティングを最低でも取得している人がトップに立つのが常識です。MBAの知識を前提として持っていなければ部署内の会話すら入っていけないでしょう。

 日本企業の場合、営業などの他部署の経験や実績をもとにマーケティング部署責任者になる人が多いように感じます。しかし、他部署の経験や実績だけではマーケティング部署では必ずしも役に立ちません。マーケティングを統括するなら、マーケティングについて何かしら学んでおくことが不可欠です。これは、会計や法務などといった部署と同じです。専門的な部署として最低限の知識を習得しておくべきです。

 アメリカの大学では2~3年をかけてマーケティングを学びます。つまりそれだけ学ぶべきことがたくさんあるのです。それを知らずにマーケティング部を統括することに疑問を感じます。もちろん、商品・サービスに適したマーケティング施策にはさまざまな手法、最適な手段があるでしょう。とはいえ、基本となる知識なしに取り組んでもうまくいきません。まずは基礎をきちんと学び、その上で自社に最適な施策へ応用させるべきでしょう。

 優秀な人材が集まる環境づくりにも目を向けるべきです。マーケターとしてのやりがい、業務に見合う報酬がなければ優秀な人材は集まりません。自社が打ち出すマーケティング施策が消費者にとって有意義な内容であるか。マーケターが真剣に向き合える施策や方策を示し、マーケターの能力を十分発揮できる業務を醸成することも大切です。Webサイトの広告を見ると、中には怪しいコピー、怪しい商品を扱うものが散見されます。「マーケティングって怪しい」と思われると、マーケティング領域に優秀な人材が集まらなくなってしまいかねません。日本企業はマーケターという職種に優秀な人材が集まるよう、クリーンでインパクトのある施策に取り組んでほしいですね。

――日本企業の中には、十分なマーケティング活動、ひいてはオムニチャネルやDXに取り組めずにいるケースは少なくありません。こうした企業が新たな一歩を踏み出すには何が必要で、何から取り組むべきだと考えますか。

岩瀬:新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、私はJETROの依頼で在米日系レストランのコンサルティングに関わることになりました。米国でもレストランは大打撃を受け、日本食レストランもその例外ではありませんでした。撤退した飲食店も含め話を聞くと、マーケティングやDXに消極的な考えを持つケースが目立ちます。「コロナはいずれ終息するから、テイクアウトやオンライン化などに取り組む必要はない。何もせずに嵐が過ぎるのを待つ」という考えが大勢を占めていたのです。

 つまり、コロナを機に多くの企業がDXやデジタル化に踏み出したものの、今も難色を示す企業がDXへ一歩踏み出すというのは相当ハードルが高いと思います。ITやEC、SNSの運用などを一から支援すると言っても断る人は少なくないのです。

 これから自社のデジタル化を進めるには、まずは経営者のマインドセットから変えなければならないでしょう。私はさまざまな企業の広告・マーケティングやデジタル化を支援していますが、「マーケティング」や「DX」などの言葉を使えば使うほど、こうした企業はデジタル化に難色を示します。「マーケティングで現状がどう変わるのか」「DXは具体的にどんな取り組みで、どんな効果があるのか」など、経営者は「DX」などの言葉に引きずられることなく、何が変わるのかを具体的に1つずつ理解することから始めるべきでしょう。

 これまでマーケティングやDXに取り組んでこなかった企業は、IT導入や業務改革などに精通する外部企業の活用を模索するでしょう。外部企業はこのとき、いかに分かりやすい言葉で施策や効果を説明できるかが求められるでしょう。アメリカの広告業界の鉄則は、“小学5年生が分かる程度の分かりやすいコピーであるべし”。玄人向けの広告ではダメということです。それだけ分かりやすくなければ、広告としての効果は見込めないのです。

 「マーケティングとは何か」「DXとは何か」。この答えを小学5年生が理解できるレベルで示せるかどうか。これがマーケティングの浸透、DXに取り組まずにいた企業が一歩を踏み出すきっかけになるのではないでしょうか。日本オムニチャネル協会のフェローとして、この答えを模索し、多くの人に打ち出すことが使命であると考えます。

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