ノーベル賞を伝える力へ 東京理科大学の挑戦と新学科構想
情報化・技術革新が加速する現代社会において、科学技術を正しく理解し、広く社会に伝える能力はますます重要になっています。そうした社会の要請に応えるべく、東京理科大学は2026年4月、理学部第一部に「科学コミュニケーション学科」を新設する構想を公式に発表しました。さらに、その理念を具現化する取り組みとして、2025年10月16日には「高校生のためのノーベル賞解説&理科系研究室ガイド」と題するオンライン説明会を実施予定です。両取り組みを通じて、大学は“科学を社会につなぐ”新たな人材像を提示しようとしています。
新学科設置の構想と目的
東京理科大学は、学部・学科再編構想の一環として「科学コミュニケーション学科」の設置を打ち出しています。この学科構想では、理科大がもともと培ってきた理数教育と専門知識を土台に据えながら、情報・データサイエンスやサイエンスコミュニケーション、教育工学・学習科学といった新領域を融合させ、科学の知見を一般市民や社会に「伝える」能力を持つ人材を育てることを掲げています。
構想文中には、次のような意図も明記されています。
- 情報化社会のなかで、科学技術を社会が理解し活用できる社会をつくるためには、「伝える」力が不可欠であること
- 卒業後の進路として、教育機関・メディア・科学館・教育産業・スタートアップ企業など多様な道を想定していること
- 本学の教員養成伝統と接続を図り、教職教育センターとの連携や大学院課程との接続を視野に入れている点
新設予定の学科は、神楽坂キャンパスに置かれ、入学定員は80名(収容定員は320名)です。このように、学科設置構想自体が、理系人材育成を単に研究者育成と捉えるのではなく、科学を社会に発信・還元する力を持つ人材を育てようという広い視点を内包している点が、特徴と言えるでしょう。
ノーベル賞解説を入口に
新学科設置に先立ち、東京理科大学は2025年10月3日付公式サイトで、2025年10月16日(木)18:00~19:00にオンライン説明会「高校生のためのノーベル賞解説&理科系研究室ガイド」を開催すると発表しています。この説明会は、科学コミュニケーション学科が掲げる理念を体現する場として企画されており、就任予定の教員がノーベル生理学・医学賞、物理学賞、化学賞をわかりやすく解説します。大学側は、この説明会を通じて新学科の魅力を伝えるとともに、科学と社会をつなぐ“入口”を高校生たちに提供しようとしています。
教育・組織改革としての挑戦
この一連の構想・イベントは、単なる学科新設だけではなく、大学の教育・組織改革を包含している動きと見ることができます。構想段階のプレスリリース自体に、伝える力・情報力・社会発信能力を育むという設計思想が色濃く表れています。その意図の中には、科学の専門知識だけでなく、情報技術や学習工学を組み込んだ教育カリキュラムを提供するという方向性が示されています。また、新設学科を文脈づけるイベントを高校生向けに設ける点も、学内外をつなぐコミュニケーション戦略として巧妙です。ノーベル賞という注目度の高いテーマを入口に据えることで、関心を引きつけつつ、大学や研究の世界への興味を喚起する狙いがあります。
東京理科大学がこのような“科学を伝える力”を軸にした新しい学科構想を前面に打ち出したことは、理系人材育成だけでなく、科学と社会をつなぐ教育観の変化を象徴するものです。今後、この動きが他大学や研究機関にも影響を与え、教育・研究制度改革の一端となるかを注視していきたいところです。
レポート/DXマガジン編集部






















