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これからの街づくりを支えるパワーワード「リジェネラティブ」、人中心ではなく生態系の中に人がいるという考え方が重要に

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デジタルシフトウェーブは2024年4月3日、定例のDX経営セミナーを開催しました。今回のテーマは「リジェネラティブ(再生)社会を考える~社会と人の再生こそがわたしたちを幸福にする~」。ソトコト・ネットワーク 執行役員でメディア「ソトコト」編集長の指出一正氏をゲストに迎え、「リジェネラティブ(再生)」の文脈でこれからの社会と人の関係について議論しました。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください

再生や回生を意味する「リジェネラティブ」。今、この言葉への関心が急速に高まっています。私たちの暮らしをより良くする手段として、さらには企業や社会の仕組みを見直す手段として、リジェネラティブの文脈で施策が語られるようになっています。個人はもとより、企業や社会も含めてリジェネラティブの考え方の重要性が増しているのです。

とはいえ、リジェネラティブとは具体的にどんな考え方なのか。私たちの暮らしや社会とどう関係するのか。企業にどんな効果をもたらすのか…。リジェネラティブをどう捉えるべきか分からない人は決して少なくありません。そこで今回のセミナーではリジェネラティブという言葉と向き合い、社会や人にとって欠かせなくなりつつあるリジェネラティブの考え方を掘り下げました。

ゲストとして、ソトコト・ネットワーク 執行役員でメディア「ソトコト」編集長の指出一正氏が登壇。社会や地域、関係人口などに精通する同氏が、リジェネラティブの必要性とリジェネラティブを前提としたこれからの社会像を解説しました。

社会や街に求められるリジェネラティブの考え方

米国をはじめとする世界はすでに『リジェネラティブ』へ舵を切っている――。セミナー冒頭、指出氏はこう切り出しました。同氏は2024年初めに米サンフランシスコを訪れたとき、リジェネラティブの胎動を強く感じたといいます。「日本ではSGDsの17の目標を記したパネルをよく見かけるが、米国ではまったく見ない。これは米国がSDGsを否定しているわけではない。SDGsを包括する別の視点ですでに動き出しているのだ。その視点こそ『リジェネラティブ』である」(指出氏)と指摘。SDGsを内包するリジェネラティブを正しく理解することの必要性を聴衆に訴えました。

ソトコト・ネットワーク 執行役員でメディア「ソトコト」編集長の指出一正氏。馴染みの薄い「リジェネラティブ」という言葉を聴衆に分かりやすく解説した

そもそも「リジェネラティブ」とは何を指すのか。指出氏は、「従来の場所や仕組みを改善し、人がより幸福になるよう取り組んでいく行為を指す。もともとは『土壌を修復し、自然環境を回復する』という環境再生型農業がルーツの1つである。土を無理に耕さず、土をより豊かにすることでさまざまな作物を収穫できるようにする再生型農業が各地で取り入れられ始めた。この流れが1つの起点となっている」と考察。現在は「再生させる」という言葉が進化し、街づくりや福祉、教育、ジェンダーバランスの分野などでも広く使われ始めているといいます。

では「サステナブル」と何が違うのか、リジェネラティブはサステナブルを否定する言葉なのか。これについて指出氏は、「例えるなら、リジェネラティブは『土』の話であるのに対し、サステナブルは『海』の話だ。『サステナビリティ』という言葉はもともと、大量のプラスティックごみが海に廃棄される問題に端を発して急速に脚光を集め始めた。両者は社会を形成する重要な要素ではあるものの、互いを反駁し合うような関係ではない」と指摘。さらに、「サステナブルは『防ぎ、持続させること』という意味を持つ。これに対してリジェネラティブは『防ぎ、再生させる』という意味がある。どちらにも『防ぐ』という意味が内包するが、リジェネラティブは持続することの先に主眼を置いている」(指出氏)と、両者の関係を説明します。

なお、SDSsとの関係については「SDSsはサステナブルではない。リジェネラティブだ。SDGsのゴールには人が豊かになることや、幸せになることを掲げるものが多い。その意味で言えば、人の幸せや生き方に焦点を当てるサステナブルはSDGsと同義と捉えられやすい。しかし、リジェネラティブは人の幸せや生き方だけに留まらない。地球上の他の生き物はもちろん、建物や鉱物などにも焦点を当てている。SDGsのゴールをより広い視点で考えるのがリジェネラティブだ。これが大きな違いで見逃してはならないポイントだ。いわゆる“ヒューマンセンタード”な社会ではなく、“アースセンタード”な社会を築くための根底となるのがリジェネラティブである」(指出氏)と強調します。

モデレーターを務めたデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏。セミナー後半ではリジェネラティブがもたらす効果や企業の役割について、指出氏と議論した

リジェネラティブを前提とした社会や街を作るときの大切なポイントにも指出氏は言及します。「環境保護や社会の変革が叫ばれて久しいが、各分野に精通する専門家や技術者に任せればこれら課題を克服できると思いがちだ。しかし現在、生き物は減り続け、河川環境も悪化し続けている。多くの専門家が先端技術を駆使し、こうした課題を制しようとしているのが実状だ。こうした動きは決して間違いではないが、大きく欠落していることがある。その場に足を運んでいるかどうかだ。いくら専門知識や技術を駆使しても、現場を見て感じない限り、課題を解決できない。物事を平面的にしか捉えられないし、課題に深く切り込めない」と指摘。特定の課題だけに目を向けず、社会や街で起きていることを包括的に感じられなければ、リジェネラティブな取り組みへと昇華できないといいます。

では、リジェネラティブな社会を描くためには何が必要か。指出氏は重要な視点として4つのポイントを指摘します。「1つは『再生型持続可能性』だ。持続可能と聞くと、『削減しなければ』などと追い込まれる気持ちになりやすい。しかし『再生』という言葉が付くだけで前を向く取り組みに変わる。持続可能な取り組みで現状維持を目指すのではなく、再生を念頭に置くことで上向きに改善できるような考え方で課題と向き合うのが望ましい。2つめは『社会生態系』だ。人が中心の社会ではなく、生態系の中に人が入るという考え方が大切だ。こうした社会こそリジェネラティブと言えるし、これから求められる世の中になるだろう」(指出氏)と指摘します。

3つめは「関わりしろ」です。これは、人がその場所にいることで安心できる仕組みを指します。「自分は孤独、人との関わりがない、帰る場所もないなどと考える人は少なくない。こうした人が安心し、ゆっくりできる環境を用意することが大切だ。現在の社会を構成する大規模インフラにこうした環境はない。『社会生態系』を考えるなら、欠かせない視点となるのが『関わりしろ』である」(指出氏)と続けます。「関わりしろ」を前提とした社会なら、「自分が安心できる場所にいることで何かをやってみたくなる。何かに取り組みたくなる。こんな思いをきっと想起させられるだろう」(指出氏)と、関わりしろの利点にも言及します。

最後は「『ここにいる』安心感」です。指出氏は「今の社会は、人に安心感を与えられているとは必ずしも思わない。寛いだりゆっくりしたりできる場づくりが進み、多くの場がすでに用意されているものの、その場にいることが許されないケースは多い。限られた時間しか滞在できなかったり、セキュリティや防犯の観点で夜は入れなかったりする場は少なくない。『その場にいつまでいてもいいんだ』と、周囲を気にせず安心できる場を作り出すことがリジェネラティブ社会に求められる視点の1つとなる」と指摘しました。

なお、セミナーでは具体的なリジェネラティブな取り組み事例も紹介。京都市の若者が未来の街を描く取り組みや、若い世代の移住者が増えつつある福島県双葉町で実施するさまざまな取り組みなども詳しく解説しました。「これからの街づくりは、『リジェネラティブ』という視点が不可欠になる。何が大切か、何を優先すべきかを考えるとき、4つの視点を見逃してはならない。人と社会がより密接に、よりよい関係になるための考え方としてリジェネラティブは重要な役割を担うことになる」(指出氏)と述べました。

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