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ロッテが進めるDX、ポイントは環境変化による社員の意識改革

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DXマガジンは2022年5月13日、DX実践セミナーを開催しました。今回のテーマは「サプライチェーンDXでメーカーとリテールの壁がなくなる?」。ゲストのロッテ ICT戦略部 部長の緒方久朗氏が、同社のデジタル化への取り組みやサプライチェーンの課題を紹介しました。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
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DX加速には社員の意識改革が必須

 ロッテのDXを主導する緒方氏は、2016年から情報システム部門の責任者としてBPRや基幹システム刷新などに従事。その一方で、DXの必要性が叫ばれるようになる中、情報システム部を「ICT戦略部」という部署名になるよう自ら提言し、デジタル基盤を構築した上でDXを円滑に進められる環境・体制づくりに乗り出します。

とはいえ、社員のITリテラシーの低さがDX推進の課題だと緒方氏は指摘します。「DXに対する経営陣の理解は徐々に深まっていった。しかし現場に限ると、DXへの意識や知識は低い。こうした状況のままDXを進めるのは難しい」といいます。同社が2021年3月に実施した新任マネージャー研修の参加者にDXの理解度を聞いたところ、約20%が「DX(デジタルトランスフォーメーション)を聞いたことがない」と回答したそうです。2021年入社の新入社員では、その割合は約40%でした。

写真:ロッテ ICT戦略部 部長 緒方久朗氏

写真:ロッテ ICT戦略部 部長 緒方久朗氏

 こうした状況の中、緒方氏は自社のDXをどう進めたのか。「ITリテラシーの低い社員でも、その取り組みが腹落ちすることに主眼を置いた。そこで、『システム基礎教育』『ビジネスプロセス効率化(デジタイゼーション)』『新しいビジネス・変化への対応(デジタライゼーション)』といった別々の取り組みを順に進めては時間がかかりすぎてしまう。そこで、3つ同時に実施することに踏み切った」(緒方氏)といいます。システム基礎教育からデジタイゼーション、デジタライゼーションと段階的に取り組まず、大規模な変化(波)を一気に起こすことで社員の意識も大きく変えられると同氏は考えました。 社員の意識改革にも取り組みます。とりわけ同社は、次の3つの取り組みに注力します。

・危機感の醸成(デジタルディスラプターの脅威)
・意識を変えるための環境変化(変わっていることの実感)
・マネージメントとのコミュニケーション(変えることへの理解)

図1:ロッテがDX推進に必要と考える3つの意識改革

図1:ロッテがDX推進に必要と考える3つの意識改革

 例えば、菓子業界に限るとデジタルディスラプターの脅威は「まだ大きく顕在化していない」(緒方氏)といいます。もっとも新型コロナウイルス感染症がまん延する以前から、事業はデジタルの脅威にさらされていると緒方氏は強調します。「当社の主力商品であるガムは、店舗のレジ前に陳列されることが多い。もっとも販売効率の高い場所に陳列してもらっている。しかし昨今は、レジのない店舗が徐々に増えだした。カメラやAI、スマートフォンなどを駆使し、レジに並ばずに商品を購入できるようになりつつある。この場合、レジ前に陳列していたガムの販売機会は大きく低下するだろう。デジタルは自社のビジネスを拡大する可能性を秘めるが、一方で自社の既存ビジネスを簡単に破壊する可能性もある。こうした危機感を社員に問いかけ、考えてもらうことが大切だ」(緒方氏)といいます。

 そのほか、小さな環境変化ではなく「ふり幅の大きな環境変化に取り組むことで、自社が変わっていることを社員に気づいてもらうようにしている」(緒方氏)といいます。そのためには「自社が大きく変わっていることを『演出』することも必要だ。ICT戦略部の役割として、これまでと違う意識を社員に植え付ける施策も打ち出すべき」(緒方氏)と考えます。さらに、マネージメントのシステムに対する意識改革も重要です。なぜシステムを刷新するのか、なぜ従来のままではいけないのかといった考えを、マネージメントが十分理解しなければ意識改革は進まないと言います。

その上で同社は現在、システムを中心とした環境変化に着手します。グループウエアを「Notes」から「Google Workspace」に刷新したほか、全社員に「Chromebook(クロームブック)」を導入。Notesによるメールベースのコミュニケーションから脱却を図るとともに、新型コロナウイルス感染症対応を含むテレワーク環境の拡充を図ります。さらに、業務アプリケーションのクラウド・SaaS化を推進。現在はすでに、大半の業務アプリケーションのクラウド・SaaS化は完了していると言います。「業務の効率性や生産性はもちろんだが、働く環境を大きく変えることにより、社員の『変わらなければ』という意識を醸成することに主眼を置いた」(緒方氏)といいます。

そのほかにも製造実績や出荷実績といった帳票を手書きからデジタル化してデータベース化。手書き作業や無駄な転記を不要にするとともに、出荷状況をDBで確認、把握できる環境も構築します。菓子やアイスで別々だった販売計画や販促状況、販売概要を一元化し、菓子とアイスの各種指標をまとめて可視化できるようにしています。

サプライチェーンによるデータ共有、標準化の重要性高まる

 一方、同社はサプライチェーン改革をどう進めているのか。メーカーとしてサプライチェーンの一角を担う同社の場合、原材料を調達する上でさまざまな課題があると緒方氏は指摘します。「最近はウクライナ情勢などの地政学的リスクが増え、原材料だけでなく物流コストも高騰している。さらには為替や気候の影響も調達リスクになり得る。反社の問題や世界的な人権問題も、実は原材料調達に影響する」(緒方氏)といいます。原材料の調達リスクを極力抑えるとともに、商品を消費者に届けるまでの需供給のバランスを調整できる体制作りが必要だと緒方氏は指摘します。そのためには、「在庫管理やコスト管理はもちろん、食品を扱う当社の特性上、トレーサビリティを実現することが求められる。商品のマスタ情報などをサプライチェーンに関わる事業者間できちんと共有できる体制づくりにも目を向けなければならない」(緒方氏)と述べます。
写真:セミナーのモデレータを務めた日本オムニチャネル協...

写真:セミナーのモデレータを務めた日本オムニチャネル協会理事の逸見光次郎氏。メーカーと小売や流通が協業することがサプライチェーンの課題解決に寄与するとの考えを述べた

 例えばロッテの場合、在庫は「メーカー(ロッテ)」「卸店」「流通センター」「小売店(店舗)」の4カ所に保管されるといいます。「多少余裕を持って在庫を蓄えている場所もあれば、余裕がない場所もある。問題なのは在庫の過不足を調整することではなく、当社がこうした状況を把握できずにいることだ。これでは需供給を正確に読み取れず、バランスを適正化するのは難しい」(緒方氏)と言います。

 そこで、商品マスタを卸店や小売店などのフォーマットに合わせて提供するのではなく、サプライチェーン全体で商品マスタを統一することも検討すべきと緒方氏は強調します。「必要なマスタ項目をサプライチェーン間で議論し、卸店や小売店がマスタ情報を個別登録せずに一括登録する仕組みを考えるべきだ。さらには、ロット別で在庫を管理する仕組みや、取得タイミングがバラバラなPOSデータの取得方法を標準化することも必要だ」(緒方氏)と提言します。モノの流れを把握するだけではなく、標準的なデータを使ってサプライチェーンの状況を把握する仕組みこそ重要であると、緒方氏はまとめました。

 前回のDX実践セミナーでは、船井総合研究所が中小企業のDXの可能性を解説しています。こちらの記事も合わせてお読みください。
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