日本オムニチャネル協会は2024年7月17日、定例のITサービスセミナーを開催しました。今回のテーマは「激動のAIの最新動向及びソリューションを学ぶ」。あらゆる業務への適用が進みつつある「AI」の最新動向と、AIを駆使した製品・サービス、企業の活用事例などを紹介しました。
驚くスピードで進化をとげていくAI。AI活用の巧拙がビジネスの競争力に直結してくる時代がせまりつつあります。そこで今回、マイクロソフト社をお招きし、AI活用の状況やChatGPT進化の最新動向をお話いただきました。All-in-one AIメッセンジャーのチャネルトーク、AIでEC運営をよりシンプルにSync8、マイクロソフトのAI技術を利用するecbeingのソリューションについて探求しました。
海外の先端事例をもとにAIの進化を考察
最初に登壇したのは、マイクロソフトコーポレーション ワールドワイドリテイル&コンシューマグッズ 日本担当インダストリーアドバイザーの藤井創一氏。最先端のビジネス戦略とテクノロジーの融合に焦点が当てて講演しました。特に、米国の先進工業テーマや電力利用の話題、そしてリテール業界のデジタル変革(DX)についての深い洞察が提供されました。
セッションの中心テーマは、データ活用とAI技術の応用であり、具体的にはリテールメディアやオンライン販売の強化が議論されました。藤井氏は、データを基にした新規事業の開発として、具体的にはウォルマートやアマゾンといった大手企業が取り組む、顧客体験の向上を目指したイノベーションを例示しました。これらの企業は、コンテンツの動画使用など、革新的な手法を用いて顧客との関係を深めています。
また、パンデミックを受けての消費者行動の変化に対する対応も重要な議題でした。オンラインでの需要が拡大する中、店舗側ではこれに応える形でのサービス改善が進められており、物流の効率化やサプライチェーンの最適化が急務とされています。藤井氏は、これらの改善が企業の持続可能な成長をどう支えるかについても触れました。
さらに、セッションではAI技術の進化によって、ビジネスプロセス自体がどのように変わり得るかが議論されました。特に、マイクロソフトのChatGPTを例に、生成AIがいかにして新しいビジネス機会を創出しているかが示されました。これには、消費者の声を自動的に解析し、即座に反映させるシステムの実装などが含まれます。
最後に、ウェビナーはAIとデータの統合が、今後のビジネスの大きな波となることを強調しました。具体的には、AIを利用した顧客理解の深化や、それに基づく製品・サービスの改善が、各業界での競争力向上に不可欠であるとされました。藤井氏はこれを「AIとリテールの関係性が変革を遂げる」と位置づけ、AIの可能性を注意深く見続ける必要性を参加者に訴えました。
顧客とのコミュニケーションにAI活用、顧客に応じた会話も可能に
続いて登壇したのは、Channel corporation 執行役員 AI事業開発責任者の水野正和氏。顧客のタッチポイントを企業資産と捉え、これを最大化するためのAI技術の活用方法について詳述しました。
水野氏は「チャネルトーク」という顧客対応AIプラットフォームを例に挙げ、その機能と効果を紹介。このプラットフォームは、カスタマーサポートの業務を効率化し、企業と顧客間のコミュニケーションの課題を解決することを目的としています。具体的には、メール、電話、SNS、チャットを含む様々な問い合わせチャネルを一元管理し、顧客対応の質と速度を向上させることが可能です。
また、水野氏はAIの導入によってカスタマーサポートの問い合わせを最低でも30%削減できると主張。AIが顧客からの一般的な問い合わせに自動で応答し、人手が必要な複雑なケースだけを人間のオペレーターが対応することで、効率的なサービス提供が可能になると説明しました。
このテクノロジーの利点として、顧客の詳細なデータを収集し、それに基づいてサイトの改善やFAQの充実を図ることができる点が挙げられます。さらに、「チャネルトーク」はECプラットフォームと自動連携することができ、顧客の購買履歴や好みに基づいてパーソナライズされたコミュニケーションを実現します。
水野氏によれば、「チャネルトーク」は現在、グローバルで17万社に導入されており、その中の多くがeコマース関連企業であるとのこと。彼は、AIとオムニチャンネル戦略を低コストで効果的に実現する方法として、顧客とのコミュニケーションに焦点を当てることの重要性を強調しました。
最終的に水野氏は、AIを活用したカスタマーサポートの効率化は、今後のビジネス環境において不可欠であり、特に人手不足が予測される中、より質の高い顧客サービスを提供するための鍵となると締めくくりました。このセッションは、AI技術を用いた顧客体験の革新についての理解を深める貴重な機会であり、参加者にとって多くの示唆に富む内容であったと言えます。
人材の効果的な活用とデータの正確性がAIの精度を引き上げる
続いて登壇したのは、Sync8 代表取締役CEOの吉田透氏。吉田氏はSync8の取り組みとして、AIを用いたEC運営のシンプル化と効率化について詳細に語りました。Sync8は福岡と愛知に拠点を置く企業で、特にEC事業者の売上拡大と業務効率化をサポートするサービスとBPOを組み合わせたソリューションを提供しています。このウェビナーでは、AI技術の現場での実践的な利用方法や、その際に直面する課題とその解決策に焦点を当てています。
吉田氏は、AIの利用が常に成功するわけではないと指摘。AIを適切に活用するためには、事業者が具体的なガイダンスと正しい知識を持っている必要があると強調しました。吉田氏は、多くの企業がAIを導入する際に人間の資源をうまく活用できていないという見解を示し、AIの導入前に人間の効率化を図るべきだと述べました。
また、Sync8はネットショップの立ち上げサポートや、商品の撮影から販売までのプロセスを支援しており、特に在宅ワークを希望する人向けに教育プログラムを提供している点も強調されました。これにより、ECサイト運営の自動化だけでなく、個々のビジネスオーナーや担当者の能力向上も図れるような環境を整えています。
ウェビナーでは、EC事業におけるAIの誤った使用例として、単純な作業の自動化に留まらず、より複雑な課題解決への取り組みが必要であることが示されました。具体的な事例として、AIが提供する解答の質は、そのインプットとなる情報の質に直接関連しているため、データの正確性と詳細が重要であると指摘されました。
このウェビナーを通じて、吉田氏はAIの適切な活用がEC事業の効率化だけでなく、長期的なビジネス成長にどのように寄与するかを参加者に示しました。彼の話からは、AI技術をただ導入するのではなく、それを戦略的に活用し、持続可能な成果を生み出す方法の理解が深まる内容であったと言えるでしょう。
AIで業務効率を高める企業が増えるも、大手の中には慎重姿勢を示すケースも
最後に登壇したのは、ecbeing 執行役員の井上英樹氏。井上氏はecbeingにおけるAIの利用とその組織内での応用についての洞察を提供しました。彼のプレゼンテーションは、AI技術の導入が企業の運営効率をどのように向上させるかに焦点を当てており、特に内部プロセスの自動化におけるその役割に注目しました。
井上氏は、AI技術がecbeingの顧客である大手企業によってどのように受け入れられているかについて言及しました。井上氏によれば、この技術の導入には極めて慎重なアプローチが取られており、特に生成された内容の精度に対する懸念(ハルシネーション問題)が高いと述べています。同氏はAIを使ったチャットボットサービスの開発と、その実装が容易であることを強調しましたが、その採用は依然として慎重であることを示唆しています。
また、井上氏は社内でのAI技術の活用についても触れ、特に教育とトレーニングの側面を強調しました。ecbeingでは、AIに関する内部研修を行い、社員がこの新しい技術を理解し活用できるよう支援していると説明しました。これにより、社員はAIを日常業務に効果的に組み込む方法を学び、その結果、業務の効率化が進んでいるとのことです。
井上氏は、Microsoftのツールを用いた事例を紹介し、Teams会議の議事録作成など、具体的な業務プロセスでの時間節約を例に挙げました。AIを利用することで、会議後のフォローアップ作業の時間を大幅に短縮できると述べています。
井上氏の講演は、AI技術が企業内でどのように利用され、組織の効率化にどのように貢献しているかを理解する上で非常に有益なものでした。AIの導入が進むにつれて、その利用方法や業務への影響についてさらに多くの事例が出てくることが期待されます。
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