日本オムニチャネル協会は2023年8月29日、定例のウェビナー「IT勉強会」を開催しました。特定領域のITの動向や製品・サービスを解説する勉強会で、5回目となる今回は「デジタルマーケティング」の最新動向を紹介しました。
デジタルを活用して効率性や生産性を上げる機運が高まる中、マーケティング領域でもデジタルを前提とした業務効率化が進みつつあります。顧客接点創出や顧客との関係深化、さらには販促効果の最大化など、多くの企業が目的を達成するためのマーケティング施策を実施。ITを使って施策の進捗や結果を可視化し、効果検証を繰り返すことで施策の精度向上を図ろうとしています。
もっとも、十分な効果を上げる企業は必ずしも多くありません。効果的な戦略を立案できない、分析結果を仮説に結び付けられない、ITツールを十分使いこなせないなどの課題が顕在化。多様なデータを収集するものの、それらを施策にどう活かせばよいのか分からない企業が目立ちます。
では、デジタルマーケティングの効果を最大化するには何に注意すべきか。何に目を向けるべきか。今回のIT勉強会ではこうした課題を持つ企業向けに、IT製品・サービスの解説だけではなく、業界のトレンドや効果を高めた最新事例も紹介しました。
ゲストとして、Reproの取締役CBDO 中澤伸也氏、Loop Now TechnologiesのSales Director 振屋明日香氏、Sprocketの代表取締役 深田浩嗣氏の3人が登壇。マーケティング領域の専業ベンダーである3社の担当者が、自社のITツールの特徴や強み、業界の最新動向や導入事例を紹介しました。
顧客体験を磨き続けられるITや人材を整備せよ

勉強会の冒頭、モデレーターを務めるシンクロ 代表取締役の西井敏恭氏が登壇。マーケティング領域の変遷とトレンドについて解説しました。
西井氏はマーケティング領域の転換点としてスマートフォンの登場を指摘。「消費者の多くがスマートフォンを使って“オンライン”の時間を過ごすようになった。こうした消費者の行動は、アプリやIoTツールを使えば容易に把握できる。つまり、スマートフォン上の行動を追うことで、多くの消費者を対象としたマーケティング施策を展開できるようになった。これまでのWebマーケティングは自社のWebサイトを利用する人など、一部の利用者を対象とした施策を実施するに過ぎなかった」(西井氏)と考察します。
デジタルマーケティングを実施する上で見逃しがちなポイントにも言及します。「これまでのマーケティングは企業側の視点を重視していた。企業は商品を売るために何をすべきか、どんなキャンペーンを打ち出すべきかといった具合だ。しかし、デジタルマーケティングでは顧客側の視点を重視する。例えば、顧客が商品を知ったのはいつか、買ったのはいつか、ファンになったのはいつかなどのタイミングに合わせて、適切な施策を打ち出すことが求められる。顧客の行動を事細かく把握しなければならず、ITを駆使しなければ成し得ない」(西井氏)と指摘します。
さらに、「マーケティングの対象は商品を売るまでの期間に留まらない。購入後のサポートやファン化などといった継続的な支援が欠かせない。サブスクリプション型のサービスやD2Cといった新たなビジネスモデルが台頭する中、顧客との継続的な関係を維持するためのマーケティング施策の重要性が増している」(西井氏)と強調しました。よりよい顧客体験を提供し続けるためにも「ITを使った仕組みと、それらを使いこなす人材(組織)が重要だ」(西井氏)とまとめました。
デジマ人材が不足する状況でも使い倒せるITツールを選定せよ

西井氏に続いて講演したのは、Repro 取締役CBDOの中澤伸也氏。デジタルマーケティングを主導する人材が不足している現状と、そんな状況下で求められるITツールの役割について解説しました。
中澤氏は、企業がデジタルマーケティングを加速できない理由の1つとして、精通する人材が足りない点を指摘します。「デジタルマーケティングという職種は人気があるに違いない。それでも人材不足は深刻だ。Web分野に限ると、コンバージョンを達成するための施策やWebサイトの表示速度を改善させるための施策などに精通する人材は少ない。多くの企業が、Webサイトのパフォーマンスをどう最適化するのかといった知見やノウハウを持ち合わせず、十分取り組めずにいるのが現状だ」(中澤氏)と指摘します。
そこでReproは、「人材やノウハウ不足に直面する企業でも、Webサイトで確実に売上向上を見込めるソリューションを提供する」(中澤氏)ことに主眼を置きます。具体的には、「容易に導入でき、運用レス、さらに日々の運用に必要十分な機能を備え、使いやすいツール」(中澤氏)を目指しているといいます。加えて、「ツールの提供だけに留まらない。インハウス化を視野に入れた伴走支援もReproの強みの1つである」(中澤氏)と強調します。
では、Reproはどんなソリューションを整備するのか。今回の勉強会では、同社の3つのソリューションを紹介しました。
「Repro Booster」はサイト表示速度を向上させるツールで、EC事業者からの好評も得ているといいます。「APP/Web向けMAツール」は、1to1のコミュニケーションを自動化するMAツール。アプリ向けMAツールの国内シェア60%以上を獲得している点を強みにします。「コンバージョン最大化サービス」は、Reproのコンサルティングメンバーが顧客と共に業務を進め、最終的にはインハウス化を目指す支援サービス。「デジタルマーケティングに精通する人材が不足する状況だからこそ、マーケティング領域に20年以上関わってきた当社のような企業と協力して施策を進めるのが望ましい」(中澤氏)と指摘。課題や目的に応じ、適切なITツールを選ぶべきとまとめました。
縦型ショート動画で自社サイトの訴求力を高めよ

続いて、Loop Now TechnologiesのSales Director 振屋明日香氏が登壇。同社の動画ソリューション「Firework」の特徴や強みについて解説しました。
「Firework」は、Webサイト上に縦型のショート動画を配置できるソリューション。TikTokやインスタグラム、YouTubeショートといった主要SNSで多く使われている縦型ショート動画を、自社のWebサイト上に展開できるのが特徴です。
ライブ配信の機能も搭載。顧客とリアルタイムのコミュニケーションを取る用途に向きます。既存のSNSのライブ配信プラットフォームへの同時配信も可能です。
SNSの動画よりも詳細な視聴データを取得できるのも特徴です。Googleアナリティクスなどの解析ツールとの連携を通じて、再訪者の有無やコンバージョンの情報など、顧客の傾向や有効な施策のヒントを得られます。それらを元にセグメンテーションやターゲティングを行い、広告や商品サービスの企画に活用することができます。
振屋氏は「Firework」の導入事例についても言及。オーダースーツを開発、販売する企業の事例を取り上げ、店舗予約を促進する効果などを紹介しました。さらに、女性向けファッション雑誌のオンラインメディアがFireworkを広告枠として活用している事例や、デジタルガジェットのメーカーが商品の利便性を紹介する動画を投稿している事例などにも触れました。
Webサイトで迷わず目的にたどり着くための導線づくりを目指せ

最後に登壇したSprocket 代表取締役の深田浩嗣氏は、Webサイトの改善やコンバージョンの最適化などを支援する同社のサービスの特徴や強みについて解説しました。
Sprocketは、オンライン接客体験を得意としています。具体的には、リアルでの接客のようなオンラインでの声かけや、情報の提供をしながらの接客アプローチで、購入率の向上を実現しているといいます。
深田氏は、「当社のサービスはWeb接客だけでなく、A/BテストやLPO(ランディングページ・オプティマイゼーション)などの顧客体験改善領域もカバーするのが強み」と指摘。A/Bテストに限れば「7万回以上の検証を通して、顧客の動きや心理を深く理解している。それを基にした最適な接客アプローチを提案できる」(深田氏)と強調しました。
オンライン接客の開始となるポップアップの表示タイミングに関しても、何秒後が最適かといったマニアックな検証も行っているといいます。深田氏は化粧品会社の事例を挙げ、投下シナリオを200本以上、A/Bテストを300回以上行い、購入率を20%も向上させた導入効果も紹介していました。
最後に、深田氏はオムニチャネルの重要性に言及。店舗とWEBのデータをCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)で一元管理し、活用しやすくすることで、オムニチャネルでの成功例も増えてきたことを紹介しました。たとえば、高額商品の場合、ECで購入せずに、実店舗への来店につながる流れが、データが一元化されることでできてくるといいます。このような取り組みを通じて、Sprocketは継続的な顧客体験の改善や、長期的な成果の実現を目指していると深田氏は締めくくりました。
関連リンク
株式会社シンクロ|Thinqlo
Repro株式会社
Fireworks(Loop Now Technologies株式会社)
株式会社Sprocket