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AIを積極活用するカメラのキタムラ、成功事例の積み上げが店舗改革を加速させる

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日本オムニチャネル協会は2024年4月17日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「現場も経営も喜ぶリテールDX~地に足をつけたアプローチが、DX成功の近道~」。カメラ専門店を展開するキタムラのデジタル推進責任者をゲストに迎え、小売事業者がDXに取り組むときのポイントを解説しました。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。

新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、多くの企業がDXに舵を切った小売業界。しかしアフターコロナを迎えた今、その歩みを止めつつある企業が増えています。「デジタル化を進める必要がなくなった」「システム導入よりも目先の売上を確保するのが先決」などの理由でDXを後回しにするケースが散見されます。

とはいえ、これからの時代を勝ち抜くにはDXが必要不可欠。効率性や生産性を追求し、利益体質に変える体制作りを中長期的に進めることが強く求められます。

そこで今回のセミナーでは、小売事業者がこれからDXを進める際の勘所を紹介しました。キタムラ 代表取締役 社長執行役員、キタムラ・ホールディングス 上席執行役員、カメラのキタムラ 取締役、しまうまプリント 取締役の柳沢啓氏をゲストに迎え、同社が取り組むDXと、DXを加速させるために必要な考え方やポイントを解説しました。

カメラの買い取りをAIで均一に査定

キタムラホールディングスといえば、「カメラのキタムラ」や「スタジオマリオ」といった店舗を展開する企業として知られています。2024年3月に創業90周年を迎えた歴史ある企業で、店舗は北海道から沖縄まで全国に展開。カメラ販売や写真プリント、年賀状のプリンティングなどの幅広いサービスを提供しています。「スタジオマリオ」では七五三の撮影にとどまらず、EC(電子商取引)事業も積極的に展開しています。さらに、Apple製品の正規代理店としてiPhoneやMacの販売も手掛けています。「人生のさまざまな場面で写真を通じ、顧客との関わりを持ち続けられる点を全面に打ち出す。リアルだけにとどまらず、積極的にデジタルを活用した施策も展開している。例えば、学校の運動会で撮影した写真をLINEやスマホで閲覧し、購入できる『スクールフォト』というサービスもその1つ。写真という媒体を通じ、思い出をつなぐことを想定したサービス作りに注力する」(柳沢氏)といいます。

写真:キタムラ 代表取締役 社長執行役員、キタムラ・ホールディングス 上席執行役員、カメラのキタムラ 取締役、しまうまプリント 取締役の柳沢啓氏

AIについて積極的に活用する姿勢を打ち出します。そもそも同社を取り巻くカメラ市場は現在、スマートフォンの普及によりカメラの販売台数が年々減少する状況。コンパクトカメラの需要が減少する一方で、高価な一眼レフカメラの需要は増加しているといいます。

さらに、中古カメラ市場も急成長しています。「スマートフォンの便利さに対し、フィルムカメラなどのアナログなカメラを好む若者が増えている。中古カメラの販売は毎年二桁の成長を見せている。このような変化に対応するには、従来のビジネスモデルを見直す必要があると考えた」(柳沢氏)と、AI導入前の課題を振り返ります。

例えば、中古カメラを販売するには、カメラの買い取りが欠かせません。このとき、新品カメラの販売と異なり、中古カメラの買い取りには専門知識が求められることになります。「こうした状況に対応するために活用するのがAIだ。専門知識のない従業員でもAIを使えば、中古カメラの適正価格を容易に割り出せる」(柳沢氏)といい、より多くの中古カメラを取り扱えるようにする手段としてAIを活用します。「当社は現在、600店舗を構え、従業員数は7000人に及ぶ。しかし、カメラに精通し、あらゆるカメラを適正に査定できるのは50人程度だ。とはいえ、全国展開している当社にとって、査定は均一でなければならない。この課題を解決するのが、デジタルでありAIだと判断した」(柳沢氏)と強調します。

具体的には店舗にカメラの買い取り相談が来たとき、持ち込まれたカメラを撮影するとAIが画像をもとに機種を正確に割り出します。これにより、どの店舗、どの従業員であっても均一の査定価格を算出できるようにしています。「査定基準が人ごとに異なるといったことがない。人が査定すると、たとえ同じ機種のカメラでも評価がばらつきかねない。こうした体制を解消し、キタムラのブランドとして高品質を維持できるようにした」(柳沢氏)と、AIの効果を説明します。現在導入するAIシステムでは、カメラの写真を撮るだけで機種はもちろん、状態も判定できるといいます。この内容をもとに買い取り金額を提示するようにしています。なお、カメラのボタンの効き具合や傷の有無、付属品の有無などは、事前に用意したチェックリストに従って確認するため、これらもきちんと評価されるようになっています。「入社して半年の従業員でも、カメラの買い取りを正確に実施できる」と、導入のメリットを柳沢氏は説明します。ちなみにAIシステムでは画像認識技術を使うのはもちろん、ベテラン従業員の査定ノウハウをデータベース化。単なる画像認識にとどまらない同社ならではのノウハウも査定に活かしているといいます。

セミナーには、日本オムニチャネル協会 共創部会リーダーの郡司昇氏がスピーカーとして参加した
日本オムニチャネル協会理事の逸見光次郎氏もモデレーターとして、質問を挟みながらセミナーを進行した

もっともAIの精度を高めるには大量の教師データが不可欠です。古いカメラの画像を集めるだけでも容易ではなかったと柳沢氏は振り返ります。「店舗にあるすべてのカメラを撮影し、その画像をAIに読み込ませた。従業員にはその画像の正確性を確認してもらい、フィードバックも収集。こうした作業を繰り返すことでAIの精度を高めていった。つまり全従業員が教師というわけだ。従業員のカメラの知識をAIに教えることで、短期間で高品質なデータベースを構築した」(柳沢氏)といいます。

AIシステムの実用化を目指す際には、査定による正解率が「92%以上になる目標を掲げた。従業員のフィードバックなどを繰り返すことで、開発から半年で正解率は90%まで達した。単なる研究用システムにとどまらず、実際にビジネスでの効果を見込める実践的なAIシステムを短期間で構築できた」(柳沢氏)といいます。

AIシステムの効果を高めるため、同社では買い取りキャンペーンを展開するなどして、多くの中古カメラを取り扱えるようにもしました。「これまでは買い取りキャンペーンを実施すると、負担が増えるからという理由で店舗スタッフから反対されがちだった。しかし、AIシステムを利用することで従業員の負担は軽減。大々的にキャンペーンに打って出られるようになった」(柳沢氏)とメリットを指摘します。その結果、買い取り金額は従来より10億円以上増加したといいます。「非常に高い利益率を実現し、1ヵ月以内に初期投資を回収できた。店舗スタッフは負担を感じることなく、楽しみながら仕事ができるようになったのも大きなメリットだ。もっとも、重要なのはAIが主役ではないということだ。店舗がどう変わるか、従業員の働き方がどう変わるか。本来の目的を見失わないことがAI導入の本質だと考える」(柳沢氏)と指摘します。

なお、フォトスタジオ「スタジオマリオ」でもAIを効果的に活用しているといいます。「店舗で撮影した画像をAIで分析し、どの衣装がよく使われているのかを洗い出した。人気のある衣装を把握し、どの店舗にどの衣装が必要なのかを正確に割り出し、在庫を効率よく運用できるようにした」(柳沢氏)と、AIの新たな使い方にも乗り出します。顧客の満足度向上にもつながり、店舗の売上向上にも直結するようになったといいます。

柳沢氏はデジタル化の取り組みについて、「成功事例を1つずつコツコツ積み上げることが大切だ。そのためには地道にデータを整備するなどの作業に取り組まなければならない。こうした取り組みを確実に進め、サービスや顧客満足度に結実できるようにすべきだ。顧客に対し、高い価値を提供するためには何が必要か。こうした意識を常に持ち、AIなどの先端技術を目的達成の手段として活用することが欠かせない」(柳沢氏)と指摘しました。


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