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ロート製薬が取り組むD2C事業、顧客と直接つながる価値に主眼

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日本オムニチャネル協会は2025年10月15日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「なぜメーカーのD2C事業は失敗するのか?」。D2Cを新たな収益の柱と考えるメーカーが増える中、これから求められるD2C事業成功のポイントを考察しました。

多くのメーカーが相次ぎ参入するようになったD2C。ECなどを駆使した直販事業を展開し、これまでの小売店経由の販売チャネル以外の新たなチャネル創出による売り上げ拡大を目指しています。

もっとも、D2C事業が好調というメーカーは必ずしも多くありません。顧客との向き合い方、流通網の整備、ブランド戦略など、直販ならではの課題を解消し、具体的な戦略に基づく取り組みを打ち出し続けなければなりません。

では、メーカーにとってのD2C事業は今後、どうあるべきか。何を見直し、成功への道筋を描けるようにすべきか…。

今回のセミナーでは、ロート製薬 D2C事業部 マネージャーの湯浅晶子氏と、同事業部所属で、日本オムニチャネル協会のロイヤルマーケティング分科会サブリーダーを務める副島有加氏がゲストとして登壇。さらにISラボ 代表で日本オムニチャネル協会 ロイヤルマーケティング分科会リーダーを務める渡部弘毅氏も登壇し、ロート製薬のD2C事業の経緯や体制、目標などを見ながら、あるべき「D2C事業」を模索しました。

ロート製薬のD2C戦略:LTVをKGIとしたファン育成への集中

ロート製薬は1899年に創業し、今年で126周年を迎える歴史ある企業。創業時は胃薬の「胃活」から事業が始まりましたが、現在は医薬品や目薬を主体としつつも、売上の6割はスキンケアが占めるなど、事業を多角化しています。「薬に頼らない製薬会社」を掲げ、再生医療や食事業(有機農業やレストラン運営など)にも意欲的に取り組んでいます。

そんな同社がD2C事業に取り組み始めたのは1999年。サプリメント「フレックスパワー」の発売と共に事業を立ち上げました。「店頭で手に取りにくい商品は小売店という販売チャネルには必ずしも適さない。こうした商品をインターネット経由で提供してみては、という考えからD2C事業に参入した」(湯浅氏)と経緯を振り返ります。D2C事業を通じて売上拡大を図るとともに、「顧客との接点を築くことでロート製薬のファンづくりに寄与する。これからもロート製薬を好きでい続ける人を増やすための取り組みと位置付ける」(湯浅氏)との狙いを掲げます。

写真:ロート製薬 D2C事業部 マネージャーの湯浅晶子氏

では、何を目標に定めているのか。同社ではLTV(顧客生涯価値)をKGI(重要目標達成指標)に設定しているといいます。「2025年の目標は、活性顧客数と年間LTVにしている。活性顧客数とは、最終購入日が1年以内のお客様と定義し、直近1年以内に利用する顧客をどれだけ増やせるかに主眼を置いている。一度つながった顧客と末永くつながりたいという思いを表している」(湯浅氏)と述べます。

一方、日本オムニチャネル協会 ロイヤルマーケティング分科会リーダーを務める渡部弘毅氏は、メーカーがD2C事業を成功させる要因に言及します。「D2Cを単なる直販チャネルではない。自社が考える世界観を商品を通じて消費者に体感させる事業と位置付けるのが望ましい」と指摘。さらに、「商品を販売するという取り組みは、自社の世界観を顧客と共有するための手段の1つである」と述べ、顧客と直接的に繋がることの重要性に目を向けてほしいと訴えました。

写真:ISラボ 代表で日本オムニチャネル協会 ロイヤルマーケティング分科会リーダーを務める渡部弘毅氏

ロート製薬の副島氏も渡部氏の指摘に同意します。「ただ商品を売るだけでは、事業に携わる私たちも面白くない。顧客の関係をどう構築するかを常に意識することがD2C事業ではより求められる」と述べました。加えて湯浅氏も、「企業のミッションを顧客に直接届けられる機会を得られるのがD2C事業の魅力である。「タイミングを見て、ロート製薬が掲げるミッションを訴求できるコミュニケーションを模索すべきと考える」と強調しました。

なお、事業のスケール(拡大)について湯浅氏は、「輪の繋がりを大きくしていく取り組みに目を向けるべきと考える」と述べます。顧客同士のコミュニティ形成や、ファンが自発的にブランドを紹介するUGC(ユーザー生成コンテンツ)の増加が、LTVを軸とした成長に繋がるという考えを示唆しました。とはいえ、事業が成長するとともに「人手不足」が課題として顕在しているといいます。「メーカーがD2Cに取り組む場合、多くの企業が少人数で事業を展開していると推察する。当社の場合、CRMチームの数名が約10ブランド、400SKUを管理している。やるべきアクションは無数にあり、限られた人数でどう運用すべきかも考えなければならない」(湯浅氏)といいます。さらに、「一貫性のある体験をどう提供し続けるか」も課題として捉えています。湯浅氏は、「D2C事業を担当しても、数年で社員が異動してしまうケースは少なくない。担当者が変わっても同じ体験価値を提供し続ける体制づくりも考えなければならない」と指摘します。

こうした課題を解決してファンを獲得する手段として、ロート製薬は従来のRFM分析(最終購入日、頻度、金額)だけでは測れない顧客の価値を把握すべく、「心理ロイヤリティ」の定量的な可視化に着手しているといいます。「RFM分析結果からファンかどうかを決めるのに違和感があった。新たな指標として心理ロイヤリティを駆使し、顧客のファン度を定量的に計測する手法の構築を模索している」(湯浅氏)と述べます。

具体的には、総合的な評価指標としてNRS(Next Repeat Score)、すなわち「1年後もオンラインを使い続けたいと思ってくれるか」を設定しているといいます。この指標を追い続けた結果、リアルタイムコミュニケーションの場として始まった「ロートハートライブ」(ライブコマース)が体験率は低いものの、大きな強みになっていることが分かったといいます。「ライブコマースは、ロート製薬の雰囲気やスタッフの顔が感じられる点、つまり、親近感や親しみやすさに対して高い評価を得ている。地道なコミュニケーション活動が心理的な繋がりとして反映されていることが裏付けられたと捉えている」(湯浅氏)と、ライブコマースの利点を強調しました。

同社は今後、強みであるライブコマースの体験率を上げるための施策や、調査で得られたデータを基に改善活動を進めていくといいます。「D2C部門を会社の発信基地と捉え、顧客とつながる役割を確実に果たしていきたい。こうした取り組みを通じて、顧客との関係をさらに深めていくのが今後の展望である」(副島氏)と述べました。

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日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/

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