DXマガジンは2022年9月21日、定例のDX実践セミナーを開催しました。テーマは「教育×DXが日本を救う!~これからの日本に必要な教育とはなにか~」。アルマ・クリエイション 代表取締役 NPO法人学修デザイナー協会 理事の神田昌典氏をゲストに招き、日本の学校で進められている教育や育成法を紹介しました。
当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
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企業は現在の学校教育を理解せよ
セミナー前半は、神田氏が日本の学校教育の実状を紹介しました。神田氏は冒頭、企業は日本の教育を理解する必要があると訴えました。「小学校や中学校、高校で学んだ生徒が、数年後には企業で働くことになる。企業は今の生徒がどんなことを学んでいるのかをもっと知らなければならない。現在の教育のトレンドを把握した上で、5年後、10年後の事業の在り方や社員の働き方を模索すべきである」(神田氏)と強調します。
では実際に学校ではどんな授業を実施しているのか。セミナーでは、小学4年生がSDGsの課題解決を発表するプレゼンテーションの様子を映像で流しました。具体的には、貧困状態の人を減らす、気候変動や地球温暖化を食い止める、すべての人が緑地や公共施設を安全に使えるようにするなどの課題解決に取り組む事例を紹介。映像では小学生が課題に対し、自分たちでできること、できないこと、手段・方法を洗い出すほか、具体的な課題解決方法まで示していました。神田氏はこうした教育に対し、「SDGsに取り組む企業が打ち出しそうな施策を、10歳の小学4年生が考えているのが今の教育だ。こうした能力を育んでいけば、例えばIoTを使った新たなイノベーションが数多く生み出されるに違いない」と分析します。さらに、「小学生が考えたアイデアは、大人が考えるアイデアにまったく見劣りしない。立派なビジネスモデルだ。小学校が地域のシンクタンクにさえ成り得る。企業は現在の教育現場で、こうした育成に取り組んでいることを知っておかなければならない」(神田氏)と訴えます。私立小学校の特別な授業ではなく、公立小学校でごく当たり前に同様の取り組みが進んでいると言います。
なおセミナーでは、現在の「学習指導要領」の内容にも触れます。高校では今年度から新学習指導要領を導入。小学校や中学校にも順次適用される予定となっています。この内容について神田氏は、子供だけではなく大人も大いに参考になると指摘します。「新学習指導要領の中には、『情報を再構築するなどして新たな価値につなげていく』や『複雑な状況変化の中で目的を再構築』などの記述がある。これらの取り組みは、ビジネスマンにも当てはまる内容だ。主体性や多様性、思考力、判断力、表現力などを養う学校教育は、今の企業、とりわけ人材育成に悩む企業の育成方法の目安の1つにもなるだろう」(神田氏)と言います。
「日本の教育は遅れている」などと言われる点について、神田氏は反論します。「多くのメディアが事あるごとに『遅れている』と警鐘を鳴らす。しかし、本当の姿を分かっていない。現在の教育現場でいかに探求教育が根付いているかを理解してほしい」と訴えます。企業に対しても、「10年後には今の教育を受けた生徒が社員として企業に入社してくるだろう。社会問題への意識が高く、ツールや手段を使いこなすのを考え抜いた人が自社のビジネスを評価するに違いない。10年後に向け、企業は今から何を準備し、新入社員を受け入れるべきかを考えておかなければならない」と提起しました。
働かなくても食べていける時代が到来?
セミナー後半は、神田氏とDXマガジン総編集長の鈴木康弘が対談。「これから必要とされる人材とは?」「探求学習の可能性」「教育×DXはニッポンを救う? 」の3つのテーマで議論しました。
中でも興味深かったのが「これから必要とされる人材とは?」というテーマ。DXの加速や変革の必要性が叫ばれる中、どんな人材が生き残るのかを神田氏に聞いたところ、神田氏は「生き残るかどうかは問題ない。皆生き残る」と答えました。その理由について、「AIなどの先端技術が次々登場し、モノやサービスの値段、物流コストも安くなっていくだろう。このような時代が到来すると、極端だが働かなくても食べていける時代になるかもしれない。実質的なベーシックインカムの状態へ移行することになる。一方で足元に目を向けると、最近の若手の中には、好きな時間だけ働く人が増えた。在宅で時間を有効活用しながら働く人も増えた。自分が選んだ仕事に対し、主体的に取り組もうとする環境が醸成されつつある。根本的に働くかどうかは重要でなくなる。企業はこうした考えを持つ人材を受け入れ、成長していくことが課される」(神田氏)と分析します。
これに対し鈴木は、働かない人は誰に食べさせてもらうのかと質問を重ねます。神田氏は、「企業の中にはまったく働かない人がいる。売上や価値向上に貢献しない社員がいるのも事実。企業に属していれば働かずとも食べていけるのでは」という考えを提起します。「コロナ前後で企業の生産性は圧倒的に高まっている。仕事ができない人の生産性は高まらずとも、仕事ができる人の生産性が飛躍的に向上したのが一因だ。働き方の変化やテクノロジの進化により、たとえ生産性の低い社員を抱えていたとしても、企業の生産性がさらに高まれば、成長を加速させられる。会社に貢献しない人も支えられる」(神田氏)と言います。
とはいえ問題は残ると神田氏は続けます。「社会的な問題として今後、デジタルに精通していない人が、デジタル関連の業務を担う機会が増える。企業はこうした問題にどう対処すべきかと向き合っていかなければならない」(神田氏)と指摘します。そのためには例えば、「政府が基本的なデジタル関連業務を任せられる人材を、リスキリングなどを通じて育成するといった方法がある。こうした人材が育てば、企業も雇おうと積極的に採用することになる。社会的な平和や安定を満たせるような支援策などが求められるようになるだろう」(神田氏)と指摘しました。
この説明を受け鈴木は、「働かない人材を食べさせていけるのは一部の大企業に留まる。中小企業には必ずしも当てはまらない。働かず生産性の低い社員を養うには、中小企業こそ大きな変革が求められるだろう」と分析します。神田氏も、「法人の少子化はすでに始まっている。人材不足に悩むものの、大胆な変革を打ち出せない中小企業は淘汰される。すでに一部では淘汰が進んでいる。経営者は社員の新たな働き方に追随しつつ、生産性を引き上げる変革案を模索してほしい」と述べました。