業績が上がっていないのに給与を増やさざるを得ない――そんな中小企業の切実なジレンマが起きています。日本商工会議所が発表した2026年度の調査では、賃上げ率4%超という華やかな数字が躍る一方、その中身は過酷な人材流出を防ぐための『防衛戦』でした。知られざる格差のリアルに迫ります。
小規模企業を襲う防衛的賃上げの波と、業種間で広がる決定的な格差
日本商工会議所と東京商工会議所は2026年6月8日、「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」の集計結果を発表しました。全国の会員企業2,260社から回答を得た最新のデータです。調査によると、2026年度に賃上げを「実施済」または「実施予定」と答えた中小企業は全体の71.3%に達しました。前年比で1.7ポイント増加しており、一見すると賃上げの動きが定着しているように見えます。実際の賃上げ率も全体平均で4.01%(金額で11,366円)を記録し、高い水準で健闘しています。しかし、この華やかな数字の裏には企業規模による深刻な構造格差が隠されていました。従業員数が20人以下の小規模企業に限定すると、賃上げの実施割合は59.9%へと急落します。全体平均と比べて11.4ポイントも低い数値です。さらに小規模企業の賃上げ率は3.38%(金額で9,170円)にとどまり、全体平均との間に2,196円もの明確な格差が生じている実態が浮き彫りになりました。
さらに深刻なのが、賃上げを行う動機の内実です。業績の改善が見られないにもかかわらず賃上げを行わざるを得ない「防衛的な賃上げ」を選択した企業は、全体で60.9%にのぼりました。この割合は小規模企業になると66.3%まで跳ね上がり、前年比でも3.5ポイント増加しています。防衛的賃上げに踏み切る具体的な理由は、「物価上昇への対応(68.2%)」と「人材の確保・採用(66.7%)」が双璧をなしています。つまり、業績が好調だから分配しているのではなく、そうしなければ従業員の生活が維持できず、他社への人材流出を止められないという防衛的な生存戦略です。一方で、今年度の賃上げを「見送る」と断腸の思いで回答した企業は全体で5.7%、地方の小規模企業では8.1%に達しています。見送りの最大の理由は「売上の低迷(55.0%)」でした。さらに、中東情勢の緊迫化に伴う仕入価格の高騰や物価上昇、これらに起因する先行きの不透明感が企業のコスト負担を直撃し、原資を確保できない要因として上位に挙げられています。
この格差は、業種の間でもより顕著に現れています。製造業や医療・福祉・介護業、情報通信・情報サービス業では、じつに8割を超える企業が賃上げを実施または予定していると回答しました。ところが、小売業や宿泊・飲食業といった対個人(BtoC)の業種では、賃上げの実施割合が相対的に低い水準にとどまっています。加えて、医療・福祉・介護業や宿泊・飲食業では、賃上げに踏み切った企業の7割以上が「防衛的な賃上げ」であり、極めて薄氷の運営を強いられている実態が分かりました。直近1年間の動きを見ても、全社共通の基盤として5%以上の大幅な賃金改定を行えた企業が全体で31.2%ある一方で、改定率が0%以下(据え置きまたはマイナス)の企業も全体で18.3%、小規模企業では28.7%存在します。賞与や一時金については全体の79.1%が支給方針を示しており、うち約6割が前年並み以上の水準を維持する計画ですが、価格転嫁が進まない取引環境の整備や、現場の実態に即した柔軟な助成金制度を求める切実な声が全国の現場から殺到しています。
見解として、業績不振のなかで人材流出を防ぐために賃上げを強行する「防衛的リスク」は、中小企業の経営体力を確実に削り取っています。 企業が持続的な賃上げ原資を確保するためには、単なる精神論ではなく、適正な価格転嫁を可能にする取引ガバナンスの確立と、業務効率化を直接支援する実効的な伴走支援が急務です。
詳しくは「日本商工会議所」の公式ページまで。 レポート/DXマガジン編集部 戸田






















